ブルーフラール

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「うっはー…やっぱ強豪校にもなると凄えな」

「そうだねぇー」


鮫柄の屋内プールに外付けされてある小窓から中を覗いて見ると
なんとも熱血感漂う掛け声と練習風景が目に入る。

俺あんまり熱血って好きじゃねぇんだよなー。
こう熱苦しいっつうか煩いっつうか…。
はあ、まあ今は熱血の事はおいといて…リン探さねぇと。


「なあ、リン見つかったか?」

「いないなぁ…」


鮫柄入ったって事は泳ぐ事は続けてる…って事だよな?
でも…あの時リンは確かに辞めるって言ってたし…どうなんだろうか。
ただの休みとか?

俺と同じ事を考えたらしいマコがハルに問い掛けるといつの間にかハルは服を脱ぎ始めていた。
って、また下着の代わりに水着着てるのかよ!

どんどん脱いでいくハルにマコが静止の声を掛ける。


「うわぁ!ここで脱いじゃ駄目だから!
しかもジンだって居るんだから!」

「泳げるからって連れてきたのは真琴だろ!!

あと迅は俺の身体なんて見慣れてるから平気だ!」

「オイコラ待て、誤解を生む様な事を言うな!

風呂一緒に入ったりするだけで疚しい事はしてないからな!」

「ジンくんそれどういう事!?」


…あれ?変な事言ったか?
風呂入ったりするだけで別に…あっ、ちゃんとタオルは巻いてるぞ?






















日が完璧に沈み、屋内プールは天窓からの月光で水面を照らしている。

夜のプールもそれはそれでいいな、まあ俺は泳がないけれど。

外から眺めるのもいいがやはり中から眺めるプールの方が好きだな…とジンは感嘆の声を洩らす。
強豪校なだけあって設備も整っていて遙には堪らないだろう。


「やっぱりまずい気が…って、あぁっ!」


真琴が大きい声を出すから何事かと振り返ると同時に水飛沫の音が響く。

ハル…行動が早いよ。
って、ハルの目の前に水があったら我慢しろって方が無理か。

ジンは仕方なく遙が脱ぎ捨てた制服を畳もうと制服を取りに移動する。
そうすると後ろから聞こえてくる渚の『僕達も泳ごう!』の声。

待てよ…?ハルは水着着てたからいいけど、マコとナギは…着てない筈。



………まあ、いっか。




こうして渚は真琴の静止を無視してプールに飛び込んだ。
そしてその数秒後に渚の仕業により真琴も道連れとなるのだった。
この時ジンは『ナギを止めてたら自分も巻き込まれてた、止めなくてよかった』と思ったとか。


さて…と、そろそろ出てもらわないとリン探すどころじゃなくなるな。

迅は当初の目的の為に3人に声をかけようとすると、
扉の方から声が聞こえた。
驚いて振り向くとそこにいたのは…








「お前ら…どういうつもりだ」

「凛…」



鮫柄の純白の学ランに身を包んだ凛だった。
昨日会った時と同じで遙達を見る目が冷たい様に感じる。
だが、迅を見る目だけは何かが違う様に感じられる。
しかしその事に気付いたのは遙1人のみ、その位の違和感だったと言う事だ。


「リン!」

「僕達リンちゃんに会いに、」

「帰れっ!!!!」


凛の怒声が響き渡る。

リンは…本当に変わってしまったのだろうか…。

あの日、俺とハルと競い合って…何が見えたんだ?

何にそんな絶望したんだ?

あの希望に満ち溢れて意気揚々と日本を出て行ったあの1年で


…何が起こったっていうんだ?

俺は知りたいんだ、リンが…留学してた4年間。

悔しくて涙を流した事だってあっただろうし、嬉しくて騒いだ事だってあったんだろ?

どんなに考えたって、どんなに思っても…口に出さない限り伝わらない。

知りたいなら口を開け、声を出せ。
そう思ってはいてもが心が追いつかない。

だけど言うんだ…今こそ、言うんだ。


『リン』って呼びかければきっと返事をしてくれる。

ちゃんと話し合うんだジン…口を開け、声を出すんだ!



「フリー」

「はっ?」

ハ、ル…?


「言っただろ、俺はフリーしか泳がないって」


口をパクパクさせているだけで声な出ない。
ハル、行成何を言い出すかと思えば…フリーしか泳がないって。


「……ハル」


ザパッ…

という音と共にハルがプールから上がって来る。

ハルは水から上がる時にする癖をしながらリンに言い放った…



「あの時の景色、もう一度見せてくれ。


なにが見えたか…忘れちまったから!」


癖っ毛でないハルの髪の毛が雫を振り落としながらサラサラと揺れる。
いつになく口角が上がった口元。
澄んだコバルトブルーの瞳。



この時だけはハルがハルに見えなかったんだ。

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