小説:ミンス完全妄想編
□患者と医者【2U】
2ページ/20ページ
「うん、そこの信号右。この辺の道詳しいの、ユチョンさん?」
ウィンカーを出しながら車線を変えるおれに、助手席から呑気に話しかけてくるユノさん。
車を運転する男がこれから自分に告白してくることなんて知らずに、さっきからサッカーの話や病気のこと、家族のことなど絶えずおれに質問している。
「いや、あんまこの辺は走んないですけどね。ユノさんの家がこの辺だって知ってたら、もっと走りにきてましたよ」
「えー、ホント?うれしいなぁ。擦れ違うかもしれないね、時々」
軽くストーカー宣言してるんだけどね。
無防備というか、鈍感というか…
まぁ、こういうところも含めて、すきなわけなんだけれども。
いつすきになったか、よくわからない。
意識しはじめたのがいつだったかもよく覚えていない。
ただ、そのきっかけは、人柄だった。
話していくうちに、仕種や口調、そして彼がくれる言葉のひとつひとつに惹かれていった。
最初からおれは、ユノさんの人の善さに圧倒されていた。
その懐の広さ、人を受け容れることのできる心の強さに。
彼はゲイではないが、非凡な医者だった。
患者さんにもかなりモテているようだがまったく鼻にかける様子もなく、いつもおれを笑顔で迎えてくれた。
病状を聞いて終わり、ではなく、仕事はどうかとか、家族は元気かとか、忙しそうなのに必ずおれのために時間を割いて話をした。
おれが素っ気ない返事をしても、興味がないことを態度で示しても、彼は表情ひとつ変えることはなかった。
自分のために心を砕いてくれる相手を、いつまでも頑なに拒み続けるのは難しい。
この人が話す相手に緊張感を感じさせないのは相手の緊張感を彼が感じていないからだと、そう気づいたときにはもう手遅れで。
いつの間にか、ホントにいつの間にか自然に、心を許せる相手になり、自分にとっての特別になり、彼にとっての特別になりたいと願うようになった。
恋だとわかるまでに、そんなに時間はかからなかった。
それがどういう感情であるかわからないほど子どもじゃなかったし、男が男をすきになるという現実があることも知っていたから。
自分が男をすきになれることは知らなかったけど。