小説:ミンス完全妄想編

□患者と医者【結】
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 どうなりたいって明確に思えるような段階ではないけど、とりあえず友だちのように逢えるのはうれしい。
 元気そうな顔を見るのが待ち遠しい。

 逢いたい、という気持ちに気づかないでいることは、できなかった。

 でも………
 でも、これで最後にしよう。

 もう逢わないだろう。
 シャツを返して、すべて終わらせる。
 男に思われたって気持ち悪いだけだし、ぼくだって男を思って生きることを望まない。

 何かの間違いだったと忘れよう。
 確かに、彼をすきになったかもしれない。
 だけどそんなこと、気づいたところで誰のためにもならないじゃないか。
 相手が同じように思ってくれないのなら…

 この一週間、彼からの連絡を、我ながら女々しいと思うほどに、待ち続けていた。
 ぼくは彼の連絡先を知らないが、彼はこちらにいつでも連絡できる。

 もし、連絡してきてくれたら…

 すこしでもぼくに興味のある態度を示してくれたら、何か違ったかもしれない。

 でも、結局連絡はこなかった。

 だから、今日が終わったらもう忘れたほうがいいんだろう。
 なんの保証もないままこの道を突き進むことは、ぼくにはできない。

 そんなリスクを冒すほど、人生に大切なものがすくないわけじゃない。
 適当に生きているなりに、守りたいものだってある。
 何もかも擲って男性に片想いをするほど暇じゃないし、そうするにはぼくはあまりにも常識人だ。

 だから、忘れることにする。

 今日逢って、笑い合って、不思議な夢だったとすべて思い出にしてしまおう。
 きっとそうできる。
 そしてまた、現実を生きていこう。

 紙袋と鞄を持ち、最後にもう一度姿見で全身を確かめた後、すこし緊張しながら部屋を出た。

 先輩の家までは、そう遠くない。
 互いの家に資料を持ち寄って仕事の話をすることもよくあるので、道に迷うこともない。
 そうでなくても月に一度は、キム看護師とぼく、どちらかが彼の家にお邪魔して、部屋が散らかりすぎないように掃除に行くことになっている。

 ユノ先輩は、仕事ではものすごく頼れる男なのだが、私生活は驚くほどだらしないのだ。
 その面倒を学生の頃から見続けているのが、同じく医療の道を志していたキムさんだったらしい。
 先輩は今も彼に頭が上がらないと言うけど…

 もしかしたら、パクさんの最大のライバルは、群がる女性たちではなく、筋肉質な男看護師かもしれないな。

 
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