小説:ミンス完全妄想編
□患者と医者【承】
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ぼくはネクタイを見下ろした。
別にブランドものでもないし、黒くもないけど…
わからなくてまた顔を上げたぼくに、筋肉質な看護師さんは不敵に笑いかける。
「香水ですよ。匂い移ってます。女性はあんまり使わない香りですけどね」
香水?ああ、キムさんの家じゅうに広がってた香りかな。
あれはたぶん、パクさんの香水の匂いなんだろう…キムさんはあんな香りつけるタイプには見えなかったから。
「ジェジューン!」
ユノ先輩の声がして、キム看護師はぼくからパッと体を離した。
「チョン先生、ここです。どうしました?」
彼は扉を開けてユノ先輩をなかに招き入れる。
先輩は今日も爽やかな笑顔をぼくに向けて、爽やかに挨拶をする。
「おっ、おはようチャンミン!二日ぶりだね、元気だった?」
「ええ、お陰さまで。先輩もお変わりなさそうですね」
「そりゃあ元気だよ、医者だもん。ごめん、ジェジュンと話し中だった?」
医者がみな元気なわけではないと思うが、医者たるもの健康管理が第一と唱えるチョン先生にそれを指摘するのはやめておくことにした。
「いえ、特には…」
「今日は外泊先からの出勤だったんですよ、シム先生は。ね?」
ユノ先輩の凛々しい目が何やら興味津々の輝きを帯びてぼくを見る。
ぼくは悪戯っ子のように笑っているムキムキ看護師を睨みつけた。
「キムさん、その言いかたは…」
「なんだよチャンミン、いつの間に彼女なんてつくっちゃったんだよ?おれに内緒でぇ〜このこの〜」
ぼくの反論をさらっと遮ったユノ先輩に腕をつんつん突っつかれ、思わず必死に首を横に振る。
「や、あの、そういうんじゃ…」
「その話は昼休みに詳しく聞くから。とりあえずもう開ける時間だからさ。さ、ジェジュン、チャンミン!今日もがんばろう!」
「はい、チョン先生!じゃ、おれ入口開けてきまーす」
逃げるように足取り軽く、看護師さんは去っていった。
ぼくの話を最後まで聞く気のないユノ先輩も、鼻歌をうたいながら陽気に出ていく。