小説:ミンス完全妄想編
□患者と医者【起】
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「舌を出してもらってもいいですか?」
んー、扁桃腺は腫れてないみたいだなぁ。なんだろ、喉に異常がないのに声が出なくなるなんて。
ポリープか?ストレスで出なくなることもある。
咽頭癌じゃないといいけど…
「扁桃腺には問題なさそうですね。風邪って感じじゃなさそうですねぇ…喉を触診させていただいてもよろしいですか?」
彼は淑やかに頷いた。
「シャツのボタンをふたつくらい外してください」
ちいさくて細い手がネクタイを緩め、弾くようにボタンを外す。
そこから白い喉が覗く様は、なんだかちょっとそそられるものがあった。
…疲れてるんだろうか。男相手に何考えてるんだろ。
「失礼します」
滑らかで、吸いつくような湿り気のある肌だった。
押さえつけないように優しく、確かめるためにゆっくりと、その肌に指を這わせる。
今のところ、さわってわかる異常はなさそうだ。
でも、声を出なくなったのが最近なら、兆しが見えるのはこれからかもしれない。
「さわってるところに痛みはないですか?」
彼の脈がすこし速いように感じて、大丈夫だろうかと顔を上げた。
頬から首筋にかけてほんのり赤くなっているように見える。
「痛いですか?」
彼はぶんぶん首を横に振る。
そんなに懸命に振らなくてもわかるんですけどね…
熱が出てきた、というわけではなさそうだな。
ちょっと擽ったかったのかもしれない。
ぼくは体を離してカルテに今の状態を書き込み、首を捻った。
「今のところ、異常は見当たらないですね。急に声が出なくなるというのは様々な原因が考えられますので、もしこのまま続くようでしたらまたいらしてください。何か訊いておきたいことはありますか?」