小説:拍手用番外編

□My little princess-イッチャナヨ
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 次の日に顔を合わせたときも、それから何日、何週間、何ヶ月が経っても、ジェジュンは何もなかったみたいに自然におれに接してきた。
 話しかけ、笑いかけ、腕にふれて、これまでと何も変わらずにいることを証明してみせているように。

 それがジェジュンの覚悟だったのかもしれない。
 おれに気を遣わせないように。無駄に苦しめることのないように。
 おれがどんなに戸惑いを態度に出しても、ジェジュンは怯まなかった。

 忘れてほしいと思ってるのかもしれない。
 それがふたりの関係を再構築する上で必要なことなのだろうか。
 忘れてしまっていいんだろうか?
 こんなに鮮明に今も思い出せるのに。

 ジェジュンもきっと、忘れはしないだろう。
 彼が忘れられないのなら、おれがなぜ忘れられる?

 忘れるべきじゃないとわかっていた。
 ジェジュンのためにも、自分のためにもならないと。
 だから、おれは忘れようとは思わなかった。

 それでも忙しなく、ただ仕事をこなすだけで過ぎていく日々に追われ、なんの話し合いも持てないまま季節は過ぎた。

 おれはずっと、明確なこたえが出せずにいた。
 恋だのなんだのと言うにはジェジュンはあまりに大切で、特別だった。
 すきな女の子といるときのように簡単にピンとくる基準のようなものがなかったから、わからなかった。

 わからないふりをしてきた。
 たぶん、ずっとそうだった。すぐに結論が出なかった時点で、もうこたえは決まっていたんだ。

 またメールを受信して、パソコンが光った。
 宛名に目を通し、すぐに開く。

 今日は殆どオフなんだ。だから、みんなまだ寝てる。ゆっくり休めるなんて夢みたいだよ。ユノもゆっくりできてるかな。
 放送観てくれたんだ!ユチョンがちょっと泣いてたのわかった?おれ絶対泣かないつもりだったのに、あいつが泣くからさぁ…
 ジュンスとチャンミンがすごくしっかりしてて、支えられたよ。ジュンスなんてビックリするほど男らしくてさぁ!この話はまた帰ってからするね。
 ねぇ、ユノ、犯人が捕まったね。どう感じてる?おれは正直、許せない思いでいっぱいだよ。絶対許せない。できることなら逢いに行って、殴り殺してやりたいくらい。ヒチョルもすごい怒ってるよ。ブログ見た?
 おれたちはみんな、ユノの味方だからね。早く帰ってきて。

 思わず笑ってしまうような、ジェジュンらしいメールだった。
 ころころテンションが変わって、すごく情に溢れてて、おれのことがすきだって伝わってくる。

 ずっと、こんなふうに伝え続けていてくれたのかなぁ。
 すぐに返信を書きながら、ちょっとだけ切なく思った。

 オフ!なんか懐かしい響きだね。ゆっくりしなよ!おれは今日これからもう一回検査受けて、結果がよければ明日か明後日には退院できるって。早く帰って、ジェジュンからいろんな話を聞けるのが楽しみだよ。
 ジェジュン、怒ってくれてありがとう。おまえの気持ちもヒチョルの気持ちも、みんな感じてるよ。だけど、もう許してあげてほしい。捕まった女の子の年齢聞いた?おれたちと同じくらいだよ。おれへの恨み云々の他にも何か事情があったのかもしれないと思うんだ。
 おれは怒ってないんだよ、ジェジュン。検査が終わったらマネージャーに言って、警察にお願いするつもりなんだ。できるなら、あの子の罪状が軽くなるようにと思って。おれと同じように、彼女にも未来があるからさ。
 おれも気を引き締めなおしてがんばるよ!それが彼女への証明になるって信じてるから。

 送信してから、ふぅっと息を吐いた。
 おれのために怒るジェジュンを、心から愛しく思った。
 あんなに思いやり深く人情に厚い男が、殴り殺してやりたいとまで言うなんて。

 ねぇジェジュン、あれからいろいろ考えてきたけど、おれのこたえは変わらなかったよ。
 おまえを大切に思い、特別だと感じる気持ちは変わらなかった。

 たぶん…愛なんだろう。
 誰よりもそばにいて、あまりに近すぎて、見ようとしてこなかったもの。

 ホントは最初に言われたときからわかってたんだ。
 かけがえない存在として、他の誰とも違うやりかたで、おまえを愛してるってこと。

 病院のベッドで目を開けたとき、最初に逢いたいと思ったから。
 誰よりもそばにいてほしいと思ったから。
 あの闇のなかで、何度も名前を呼んでもらって、漂いながら、這い上がりながら、こたえにたどりついたんだ。

 愛だと思う。
 ジェジュンを守っていけると思う。
 そばにいて、彼の唯一の特別でありたいと思う。

 早く家に帰って、あの太陽みたいな笑顔に迎えられて、そう伝えたいよ。
 なんて言うのかなぁ?びっくりするかな。
 考えるだけで、ひとりでいるのについ口元がニヤけてしまう。

 逢いたくて、堪らなかった。
 となりに座って、彼の笑い声が聴きたかった。
 思えばずっと以前から、一日だってジェジュンに逢えないと寂しくてしかたなかった。

 結局最初から、そういう関係だったんだよな、おれたち。
 彼がくれる愛を、知らず知らず受け取っていたんだから。

 他人にどんなふうに見えても、たとえおかしいとか病気だとか言われたって、かまわない。
 だって恋なんて病気みたいなものだろう?それを誰に咎められる?

 ジェジュンとなら越えていける。
 そんな確かな気持ちがあるから。

 またメールがきた。あまりの早さに驚きを隠せない。
 ジェジュンもこうしてパソコンの前でおれからの返事を待ってるんだろうか?

 何でユノはいつもそうなの?おれは絶対に許せないよ、だって一歩間違ってたら死んでたかもしれないんだよ?!
 おれたちはユノが誰よりもがんばってきてること知ってる。それを何も知らない奴が裁いていいはずないじゃんか!こんなの許されることじゃないし、許しちゃいけないと思う。
 ユノのバカ、お人善しにも程があるよ!

 あーあ、怒らしちゃった。
 可愛いなぁ、おれのために…
 こういうところ、すごくすきだな。
 他人のためにとにかく一生懸命怒ったり、よろこんだりできるところ。

 冷たいキーボードに指を走らせる。

 ジェジュン、ありがとな。おまえがおれのこと思ってくれてるってわかってる。おまえのお陰でおれは彼女を許せるんだよ。
 だから、おれのために、もう許してあげて。あの子に怠けてるように見えたならそれもきっと真実だし、そうならないようにこれから努力できる時間がおれにはある。だから、一方的に怒るようなことじゃないだろ?
 そのやりなおす時間を、いっしょにいてほしいんだ。怠けることのない姿を見守っていてほしいんだ。これからだってどんどんよくなってみせるよ。だから、もう怒らないで。おれのそばで笑ってる姿がいちばんジェジュンらしいから。

 空が綺麗だ。
 ジェジュンも今、見てるかなぁ。
 おれが一日に一回は空を仰ぐわけを、いつか話したい。

 もし望むなら、この高い空の天辺から世界中へ、おまえのこと愛してるって叫ぶよ。
 夜になったらいつだって、闇に溶けない白い肌を持つおまえのことを守れるように、一際輝く星になるよ。
 だからずっとそばにいてほしい。

 そんな簡単なことじゃないんだよ、っておまえは言うかな。
 よく考えたの、一生を左右することなんだよ?って。絶対言うだろうな。
 でもおれは負けないよ。覚悟はできてるつもりだ。

 別れようとか、しあわせになってとかそんな言葉、絶対に言わないと約束する。
 今みたいにそばにいてくれるだけで、ずっと笑いかけていてくれるだけで、おれが一生しあわせにしてみせるから。

 ずっとそばにいよう。
 まだこんなに未熟だけど、すこしずつ理解し合っていきたい。足りない部分を補い合っていきたい。
 おまえのとなりで、おまえといっしょにおとなになっていきたいんだよ。
 これまでもそうだったみたいに、ふたり並んで歩いていきたいんだ。

 そうしていつか自信を持って言えるように。
 おまえにいちばん相応しいのはおれだって。
 誰よりも深く愛して、全霊を懸けて守って、おまえのことこんなにしあわせにできるのはおれしかいないって。

 いつか、おまえもそう思ってくれたらいいな。

 また早い返信がきて、画面にジェジュンの名前が映し出される。

 狡いよ、ユノ。そんな言いかたされたらおれが怒れないってわかってるんでしょ。

 短い言葉。どんな顔をして打ったんだろう。
 困ったような、それとも呆れたような?
 ちょっと照れた顔だったら可愛いのにな。

 ホントに思ってること言っただけだよ。
 ああ、早く家に帰りたい!そしたらさ、ジェジュン、話したいことがあるんだよ。聞いてくれる?

 送信のボタンをクリックして、体力を持て余す体をベッドに深く沈めた。

 ジェジュンは受けとめてくれるかな。
 信じてくれるかな?
 最初はちょっと戸惑うかもしれないけど、最後にはしあわせそうに笑ってくれるといいな。

 いつまでもその心のなかにおれがいられるように、どんなときも、弱くて未熟なところも、すべて受け容れて、許してほしい。

 もし笑ってくれたら、同じ気持ちだと言ってくれたら、もうおまえのこと苦しめないよ。
 おれもすべてを受け容れて、そばでずっと、ずっと守るよ。

 おれがどれだけおまえを愛していけるのか、それが確実に疑いようのないものになるまで、時間をかけてゆっくり伝えていきたい。
 だからずっとそばにいて。
 ひとつひとつすべてを、余すところなく愛してみせるから。

 ジェジュンからのメールをまた開く。
 知らず知らず零れる笑みにも、彼の名前を見るだけで込み上げる愛しさにも、もう迷いはなかった。

 何?どんな話?

 短っ!そりゃ返信も早いはずだよ。
 よっぽど気になったのかなぁ…
 いつもおれのこと鈍い鈍いってバカにするけど、全然気づかないなんてジェジュンも案外鈍いじゃん。

 おれは時計を見てから返事をした。

 それは帰ってからちゃんと言うから、待ってて。じゃ、そろそろマネージャーさんがくる時間だから。
 今日一日ゆっくりしてね、ジェジュン。

 送信が完了するのを見届けて、パソコンを閉じる。

 早く言いたい。あの黒い瞳とみつめ合って、何もかも正直に。
 あの綺麗な顔がよろこびに輝くのを見るのが楽しみで、また人知れずほほえんでしまう。

 ジェジュン、すぐに伝えに行きたいよ。
 今まで気づかずにいた、知らないうちにずっと隠してきたこの愛を、これからはいつでも伝えていけるから。

 永遠に変わらない心で。
 他の誰より、自分自身よりも遥かに強く、深く愛していくよ。
 その尊い心に、おれを思い続けてくれたおまえのかけがえない強さに今、約束する。

 ジェジュン、ずっと愛していくよ。
 しなやかで優しい、泣き虫で意地っ張りな、おれの大切な人。

 検査を終え、マネージャーと相談して警察に連絡してから、病室に戻ってまたひとりになるのを待った。
 すべてが終わり、やっとまたはじまれるという気持ちになっていた。

 パソコンを開くと、当たり前のようにジェジュンからメールが届いている。

 なんだよ、気になるじゃん!もう、早く帰ってきてよ。
 検査がんばってね、ユノ。おれたちずっと待ってるから。
 今から出掛けるけど、暇になったらいつでもメールして!すぐ返せるようにしとくから。携帯のアドレス貼っとくね。

 ずっと待ってる。
 そう言ってくれるから、いつだってそこにおれの帰る場所があるってわかってるから、おれはおれらしくちゃんと生きていける。

 ジェジュンがいてくれる。
 それだけで何も怖くない。

 ジェジュン、検査終わったよ。結果は夜か明日の朝わかるけど、全然問題ないと思う。だってすごい元気だもん。
 今、警察に電話してきたんだ。なんか緊張しちゃったよ。事情はわかったからそのように取り計らってくれるって。偽善っぽいかもしれないけど、これでいいって思える。おれのなかではもう、ぜんぶ終わったよ。ジェジュンも引き摺らないでくれるね?おまえのことだから、いつまでも怒ってはいられないってわかってるよ。
 外にファンの子たちがいっぱいいて、おれを励まそうとしてくれてる。応援してくれてる人がいる以上、おれはもっとがんばっていくべきだよね。そうしたいって思えるんだ。だけどひとりだったら絶対こうは思えなかっただろうな。おまえらが代わりに怒ってくれて、いっぱい哀しんでくれたから、もう充分って感じられるのかも。大切に思ってくれる仲間がいるってしあわせなことだよな。
 ジェジュンと出逢って、いっしょにここまでこれたこと、ほんとうに感謝してるよ。今までおれを支えてきてくれたこと、これからも支え合っていけること。五人でずっと、がんばっていこう。おれのとなりにずっといてほしい。

 ジェジュン。生きててくれてありがとう。


         It has finished,
      at 01:00 June 18,2012
With my all thanks for your reading
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