小説:ジュンス片想い編

□Rising sun
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 「…っ、ヒョン」

 チャンミンはぼくの腕から逃れるように暴れ出した。
 体を捩り、手を突っ張って、戸惑うように顔を背けている。

 突然のことにビックリして、一瞬意識が飛んだ。

 今、何か考えてたよね?掴みかけてたよね?
 …駄目だ、まとまらない。

 「いやだ!やめてくださいっ、さわらないで!」

 …え。

 「チャンミン?」

 「ぼくのことがすきだなんて気持ち悪いんですよぉ!放してください、早く!」

 ………え?
 気持ち悪い?

 だってチャンミン、こないだ言ってくれたよね?もう大丈夫だって…ひとりでがんばらなくてもいいんだって。

 あれは夢だったの?受け容れてくれたんじゃなかったの?

 チャンミンの腕はどんどんちからを増してくる。体も心なしかさっきよりおおきくなったような…

 「ヒョン!やだってばっ」

 ぼくは腕のちからを抜こうと動いたが、チャンミンの足元を見てすぐに思いとどまる。

 このままだと…

 「わ、わかったから、チャンミン。暴れないで。今放すから、落ちついて…」

 「いいから早…」

 ガラッ。

 いちばん聞きたくない音。
 頭は意外と冷静に、ああやっぱり、と思っていた。

 ぼくの腕からちからいっぱい逃げ出したチャンミンの体は、一瞬ふわっと宙に浮いた。…ように見えた。

 その一瞬後、彼はぼくの視界から消えた。

 「チャンミン!」

 ダメだ、間に合わない!

 ぼくが叫んで動き出す頃には、彼の体は既に断崖絶壁を滑り落ちていた。

 「チャンミン!」

 落ちていく彼と目が合う。
 いつもと同じ、まるい瞳。
 最後にぼくに訴えかけているのは何?

 恐怖?憎悪?それとも…

 彼の口が動いて、何か言った気がした。

 波の音がうるさくて聞き取れない。チャンミンはゆっくりと、でも確かに落ちていく。
 ぼくの手は間に合わない。みつめることしかできない。

 チャンミンを失ってしまうのに。

 ああ、波の音が煩わしい…いや、これは風の音?
 どこかで聞いたことのある音だけど、なんだったっけ…

 リリリリン!リリリリン!

 音の渦に巻き込まれてチャンミンの姿は見えなくなった。
 ぼくは抱きしめたぬくもりの残る手を握りしめて茫然と立ち尽くしている。

 リリリリン!リリリリン!

 だんだん迫ってくる音に思考がまとまらない。どうしたらチャンミンを助けられるのか…いっそぼくもいっしょに落ちて…

 リリリリン!リリリリン!

 あ、思い出した!この音は…

 
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