小説:Bigeastation編1~30
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Bigeastation 13. 2007/6/24~30
チャンミンは、結構疲れやすい。
体力がない、というわけではないと思う。
体調面ではユチョンのほうがよっぽどひ弱だし、細いけどよく食べてるから(羨ましい限りだ)、最初の頃よりずっと元気に踊れてる。
ただ、よっぽど元気なときでないとはしゃいだりはしない。
睡眠不足が体に出るタイプなのかもしれないし、性格的にいろいろ気を遣ったりして疲れるのかもしれないけど、見ているほうとしては黙り込んだりしてると心配になる。
「くたびれたね、チャンミン〜」
家に帰ってすぐソファに座り込んだユチョンが、となりで同じように体を弛緩させるチャンミンに話しかけた。
さりげなく声をかけて様子を確かめてあげることに関しては、ユチョンの右に出る者はいない。
ぼくは人を気遣うのって苦手で、そういう素振りを見せると逆にチャンミンに揶揄われる始末だ。
ぼくだってヒョンだし、恋人なんだし、たまには世話焼きたいんだけどな…
チャンミンは背凭れに頭を乗せ、天井を見上げながら溜め息をついた。
「ホントに。今日も長かったですね…眠いです」
「おれもぉ〜。なんであのふたりはあんなに元気なの?ラブパワー?」
はは、と情けない薄ら笑いが聴こえた。
チャンミンにはどうやらラブパワーが足りないらしい。
そのふたりはと言えば、並んでキッチンに立って食事をつくりながら笑い合っていた。
「今日のラジオ収録も楽しかったね、ユノ」
「んー?うん。ジェジュンとならなんだって楽しいよ」
「もう、やめてよぉ。指切りそうになったじゃん!」
わぁ、しあわせそう…
確かにラブパワーかも。
ていうか!今日の収録が楽しかったのは、MCのお陰じゃない?
やっぱりまわしがいいと違うなぁ!ねぇ?
「ツアー終わっちゃったねぇ」
「そうだね。あっという間だったなー」
トントントン、まな板に包丁が当たる音。
手際よく料理をつくるジェジュンを、ユノはただとなりでみつめている。
「いろいろあったけど、楽しかった。みんな怪我なく過ごせてよかったよ。今年は絶対ユノと野外ライブまわるんだもん」
「ありがとな、ジェジュン。日本でこんなにライブができるようになるなんて、ホント…感激っていうか。それもこれも、おまえがチームを支えてきてくれたからだと思うし」
「何言ってんの!ユノがおれたちを引っ張ってきてくれたんじゃん。おまえががんばる姿見て、おれもがんばろうっていつも思える。ここまでこれたのはユノのお陰だよ」
…チュッ。
なんだか不穏な音がしたような気がしたけど…気のせい?
まさかね。ここ、リビングだし…みんないるし…まさかキスなんてしないよ、ね?ね?
ふとソファのほうへ視線を向けると、チャンミンの顔が明らかに強張っていた。(それはそれは怖ろしいんです)
「ちゃ、チャンミン…?」
呼びかけると、その顔のままぼくをみつめてくる。
「なんですか?」
「…なんでもない…」
となりでユチョンがうはうは笑っている。
ぼくはそれ以上何も言うことを思いつかなくて、もう一度キッチンに立つ年長者カップルのほうへ目をやった。
ていうか、最近チャンミン機嫌悪くない?
なんかあんまりまともに取り合ってくれてない気がする。
いや、まぁ、いつものことと言えばそうなんだけど…
「武道館が埋まって、感動したなー。あそこに立てるってだけでもうれしかったんだけど、こんなに応援してくれてる人がいるんだ、って思ってさ…」
「男性のファンも増えたしね。それにしてもユノは男のファンに愛想よすぎ!襲われたらどーすんの?おれのなのに」
ええー?フツーそんな心配までする?
そしてそんな当たり前におれのとか言ってて大丈夫?
「あは、襲われたりしないよー。だってうれしくない?なんか同性に認められるのって特別だよな。ジェジュンに最初すきって言われたときも、すごいうれしかったよ?」
ソファではユチョンが、ナイス切り返し!とか言って爆笑している。
チャンミンは呆れ返って今にも白目を剥きそうな感じ。
そういうものなのか。
チャンミンはぼくの気持ちを知ったとき、どう思ったんだろう?
最初は誤解してたって言ってたけど…自分のことがすきなんだって、はっきりわかったときには?
あの頃は、きらわれないことしか頭になかったからなぁ。
「ふぅん?それにしてはあのとき、おれ髪長くなかったし、黒くもなかったけど」
「へ?」
「言ったじゃん、さっき。そういう髪型の人がすきだって」
そう言ってすこし拗ねてみせるジェジュンを、ユノは不思議そうな顔で覗き込んだ。
「気にしてたの?あれは女性の話だったからさ、妹のこと思い浮かべて言ったんだよ」
「ホントにぃ?だってユノがすきになるのって大体そういうタイプだもん。知的で、おとなしそうな感じの」
じゃあ全然当てはまってないですね、という呟きがソファのほうから聴こえた気がした。
勿論、誰も聞き返したりはしなかった。
「あーまぁ、基本的な好みはね。誰にでもあるだろ、理想のタイプって。でもおれ、ジェジュンならどんな髪型でもすきだよ」
ぶふっと笑う声がしたが、それにも誰も言及しなかった。
というより、あのふたりにはこちら側のことなんて耳に入ってないんだろう。
彼らが自分たちだけの世界に閉じこもってしまうことには、もう慣れている。
ちょっとだけ、いいなぁとか思ってみたりして。
チャンミンはユノみたいにはすきとか言ってくれないし、女性のタイプの話とかで妬きもち妬いたりしないもんなぁ。
「それって、どうでもいいって言ってるようにも聞こえる」
「なんでも似合うもん。それに、見た目に惹かれたわけじゃないし。人間性を知ってるから、外見もより美しく見えるんだよ」
ボフッと倒れ込む音がして、ソファに目を向ける。
チャンミンは今ので完全に脱力したらしく、笑い続けるユチョンの膝の上で死にかかっていた。
狡い!膝枕!
ぼくもしてあげたことないのに。
なんだかんだチャンミンって結構ユチョンに懐いてるんだよなぁ。甘えてるっていうか…
疲れてるなら、他のヒョンじゃなくって、ぼくに甘えてきてほしいのにな。
「武道館に立ってるとき、誰よりも綺麗だった」
「もう。ユノ…」
「ホントだよ。おれたちが泣いたとき、歌い抜いてくれただろう?あのときの姿が、今まででいちばん綺麗だった。すごく励まされたし、おまえをすきでいることが誇らしかった」
ジェジュンは泣かなかったもんね。あのとき…
確かにあれはカッコよかった。
堂々としてて、でもぼくたちを見守ってくれてて、いちばん上の兄として彼が担おうとするものを見た気がした。