小説:Bigeastation編1~30
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Bigeastation 11. 2007/6/10~16
おれから見れば、彼らはどちらもとてもわかりやすい。
どちらもというのは勿論、どちらのカップルも、という意味だ。
何も考えていないジュンスや嫉妬心を隠せないジェジュンはもとより、責任感が強いユノや普段冷静沈着なチャンミンでさえ、こちらから見れば露骨なほどだと思える。
まぁ、しょうがないのかなぁ。
恋をするとまわりが見えなくなるものだからね。
収録に向かうジュンスを見送ってからおれのとなりに戻ってきたチャンミンに、お疲れ〜と声をかける。
「何だったの、用は」
「本読みつき合えって。ぼくを日本人だと思ってるんじゃないですかね、あの人は」
「あは、どうかな。いっしょにいたかっただけなんじゃないの〜?」
ほらね、ちょっと黙っちゃって。
こんなこと言うだけで照れたりしないでよ、らしくない。
もっと苛めたくなるじゃないか。
「チャンミン?」
「なんですか。いっしょにいたいって感じじゃありませんでしたよ、単に日本語を」
「チューしてたよね?」
こいつのおもしろくないところは、ジュンスみたいに派手なリアクションをしてくれないところだ。
信じられないという目をしてこちらを見るチャンミンに、笑いかける。
それを見た彼はますます怖い顔をしてみせた。
「は?」
「台本に隠れてキスしてたでしょ?」
「するわけないでしょう、こんなところで。何考えてるんですか」
いやいや、絶対してたって。不自然な体勢だったもん。
あんな見え見えのキスなんかしちゃって、本人たちにもよっぽど自覚ないなと思うけど、おれたちのまわりのスタッフもかなり呑気な人が多いよなぁ。
日本人はそういうことにあまり免疫がないのかもしれない、と思っている間に、収録がはじまった。
ちょっと緊張の残る、でも楽しそうな三つの声。
チャンミンの目は絶えずブースのなかで日本語と闘う恋人を追っている。
自分で気づいてるんだろうか。
彼はすこし離れたところからジュンスをみつめていることが多い。
無意識なのか、わかってやってるのかは判断できないが、つき合いはじめる前からそうだった。
「今回の録りはちょっと不安なんじゃない?チャンミンの助けもないし、あのふたりが揃うと何かと大変だしさ」
「そうですねぇ、強敵ですよね。ああほらまた、ユノヒョンが変にジュンスヒョンを揶揄ったりするから、怖ろしい顔してますよ。まぁ、あの人は鈍いから、気づかないで楽しくやれるんじゃないですか」
確かにそうかも。
でもだからこそ怖いんだけど。
誰もフォローする人がいないから…
「おれもあのふたりと録ったときは正直疲れたよ。ラブラブなのはかまわないけど、公私混同しすぎなんだよな〜。チャンミンもこないだいっしょだったよね?」
「ぼくはジェジュンヒョンに媚売っといたので問題なかったです。それにしてもめんどくさいですよね、あの人たち」
わぁ、反逆的。
なんでこんな可愛くない弟に育っちゃったんだろう、あんなにいい子だったのに。
台本どおり言葉を読んでいくジュンスを見守るチャンミンの柔らかい眼差し。
おれは込み上げてくる笑いを噛み殺した。
あーあ、愛しそうな顔しちゃって。
迂闊なんだよなぁ、 こういうとこ…
たぶん、自分が今どんな顔をしてるのかわかっていないんだろう。
チャンミンが、おれとジュンスのことを妙に気にしているのはずっと、知っていた。
最初はジュンスがおれのことすきなんじゃないかと疑ってたくらいだし、彼の目には相当特別に映るのかな。
まぁ確かに、お互い特別な存在であることには違いない。
ユスと言われてどう思ってるか、正直にこたえるのなら、ん〜…
ザマーミロって感じだろうか。
ジュンスと恋仲になりたいとはまったく思わないけど、なんの迷いもなくチャンミンを選ばれたことにはすくなからず自尊心を傷つけられた。
だっておれのほうがそばにいたし、仲よくしてきたし、ジュンスのこと理解できてるし、チャンミンよりずっといい男なのにさ。
所詮顔なんだよね〜、世のなか。
それがちょっと悔しかったから、ジュンスがもしおれをすきになってたらつき合ったかもしれない、ということはチャンミンには教えてあげないことにした。
でもおれ自身は、今の関係がいちばん楽だし、望んでたものだから。
ジュンスとの間にあるものがこういう絆でよかったと思える。
「うまくまわしてるね、今のところ」
「まぁ、ここまでは読むだけでしたからね。心配なのはここからですよ、ジェジュンヒョンのテンションも低いし」
「ふむ。ユノヒョンがもうちょっと気づける人だったらね〜」
でも送られてきた質問にこたえるだけだし、そこまでとんでもないことにはならないでしょ〜と笑う。
チャンミンも頷いて笑ったが、その顔にはまだすこし不安が窺い見れた。
幼稚園のお遊戯会を見ている親みたいだな、なんか…
緊張するのか喉が渇いたらしく、彼はそばに置かれた誰のものとも知れないペットボトルを手に取った。
「…ラジオネーム、チャンミンLOVERさん」
メールを読むユノの声が響いて、おれは顔を上げた。
「お!チャンミン聞いた?日本にもファンが増えてきたね〜」
「ありがたいことですね、ほんとうに」
心なしかジュンスが落ち込んだように見えたが、チャンミンは気にしていないようなので指摘するのはやめておいた。
わざわざこれ以上ラブラブになる要素を与えることはない。
ただでさえ毎日ジェジュンの惚気話を聞かされてるのに、この上チャンミンにも惚気られたりしたら…(おもしろそうだけど)
「韓国男児の興味ある話題だそうです。ヒョンはなんですか?」
「話題か。別になんでもいいけどね、スポーツのことでもゲームのことでも、食べ物のことでもファッションのことでも。話しかけてくれるだけでうれしいものだよ、そういうときって」
教室でひとりポツンと座ってるのって寂しいからね。
ジュンスは確かにサッカーかゲームの話じゃないと会話続かなそうだけど。
昔の記憶に思いを馳せて、すこし切なくなった。
でもあの日があるから、今ここにいられる。
間違っていなかったと思える。
「…どうして、ジェジュンLOVERはないんですか〜」
「ぼくもユノLOVERがほしいです!」
完全に質問から外れてうひゃうひゃ笑い合うふたりのヒョン。
ジェジュンはいつもこうしてユノを妬かせにかかるけど、鈍いユノにはその攻撃は効かないようだ。
逆に傷つけられる結果になりかねないだけだといったいいつ気づくんだろう?
チャンミンもおれと似たようなことを考えているらしく、目が合うと呆れたように肩を竦めてみせ、勢いよく水を飲んだ。
そのまったく関係のない話は続く。
「チャンミンがホントに可愛いじゃないですか〜」
「ブハッ、ゲホ!ゴッホ、ガホ、ゴホッ」
彼はジュンスの思いがけない言葉に思いっきり噎せ返った。
「大丈夫、チャンミン?」
「ゴホ、だい、じょ、グッ、うぶ、で、す。ゴホ、ゲホッ!」
うーむ、苦しそう。
自由な人を恋人に持つと大変だなぁ。
すっかりおれよりおおきくなった可愛くないその背中を擦りながら、ユノがめずらしくジェジュンに対してナイスフォローをするのを聞いていた。
フォローっていうか、正直に言っちゃっただけなんだろうな。
これだからおれかチャンミンがいないと心配なんだ。
ジュンスとユノは有り得ないほど天然で、ジェジュンはユノがいるとまわりが見えないから。
チャンミンが落ちつくのを待って、話しかける。
「いっしょの録りじゃなくてよかったね〜。めずらしいんじゃない、人前でおまえのこと褒めるの」
「ああ、びっくりした。やられたなぁ、まさかホントにやるとは…何考えてるんでしょうね、あの人。ついていけませんよ」
とか言って顔赤くなっちゃってるよ、チャンミン。
まったく、どいつもこいつも…
おれの苦労たるや計り知れないわけですよ、こんなバカップルの世話に明け暮れて。
「でもほら、ユノヒョンがよろこばせたからジェジュンヒョンのテンションが上がったよ。ジュンスもすこし楽になるんじゃない?」
「単純な人ですよね。そんなに楽しいですかね、自分のカッコいいところを言うのが」
「はは、ま、そういう人だから…チャンミンはなんてこたえる?カッコいいとき」
彼はあきらめたように首を横に振った。
「畏れ多いですよ、いつでもカッコいいヒョンが四人もいるのに」
「うはっ、優等生!ジュンスが言うにはチャンミンはカッコいいじゃなくて可愛いらしいけど〜」
「やめてください、ホントに。あの人の口から可愛いなんて言われるなんて、気色悪いです」
おお、照れてる。
お兄さん面されたから戸惑ってるのか、それともその褒め言葉がよっぽどうれしかったのか…(チャンミンは可愛いって言われてよろこぶタイプじゃないか)
「ジェジュン最近なんかムカツクですね!うは〜」
突然投下されたユノの怖ろしい言葉に、おれは顔を上げた。
「ひぃ〜ユノヒョンがKYだよチャンミン〜」
「いつものことじゃないですか。大丈夫ですよ、ジェジュンヒョン楽しそうですから。ユノヒョンになら貶されるのもうれしいんでしょうかね」
うちの勢力図的に言えばいちばん強いのは基本チャンミンとジェジュンだけど、チャンミンはジュンス、ジェジュンはユノに弱いので、それを踏まえると結局いちばん弱いのはおれということになる。
この二組のカップルの存在を世間に公表できないのは非常に残念だ。
どんなにおれが可哀想か、誰も知らないなんて。
世のなかが知ったら絶対おれに同情票が集まることだろう。