小説:Bigeastation編1~30
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Bigeastation 10. 2007/6/3~9
収録が終わってからもぼくの笑いはしばらく収まらなくて、ジュンスに睨みつけられながらブースを後にした。
同じようにずっとニヤニヤしているユチョンに、宥めるように背中をポンポンと叩かれる。
二本録りの一本めを待っていたユノとジェジュンは、となり合って座りながら寄り添って台本を読んでいる。
ジュンスはぼくたちより先にその人目を憚らないラブラブカップルのもとへドタドタ歩いていき、ユノのとなりにドスンと座った。
「お、ジュンスお疲れ〜がんばったな!聞いてて楽しかったよ。なぁ、ジェジュン」
「うん、心配したよりまともにできてたね。煩かったけど」
「煩かったのはユチョンとチャンミンでしょ!あいつら笑うばっかりで何もしないんだもん。次はヒョンたちとだから安心だよ」
ユチョンはくすくす笑いながらぼくに視線を流してくる。
「言われてるよ、チャンミン」
「ユチョンヒョンの話でしょう?ぼくはあんなにフォローしたんですから」
「いやいや、おれはおとなしくしてたもん。チャンミンがいると隙がないからなかなかユスユスできなくてさ」
しなくていいですよ、そんなの。
なんでわざわざユスろうとするんですか。
ぼくへのいやがらせなんでしょうね。
どうせユチョンのやることなんてそういうことなんです、いつも。
次の収録がないぼくとユチョンは、三人からすこし離れて座って、彼らの打ち合わせを見守った。
「ホントはどう思ってるんですか」
彼は器用に片眉を上げてぼくを見る。
「ん?」
「ユスって言われてること。楽しんでるのはわかってますけど、どんな気持ちでいるのかなと思って」
ぼくを見るユチョンの目が非常に楽しそうに光ったので、さりげなく目を逸らした。
ぼくから見ても、ふたりは気持ちいいくらい仲よしで、じゃれ合う姿が可愛いと言われているのも頷ける。
ジュンスをすきになる前は、それでよかった。
仲のいい二組のカップルがいて、それが私生活でも変わりないことを知っていて、自分が彼らを見守るポジションでいることになんの不満もなかった。
今も、別に世間にジュンスはぼくとつき合ってるんですと公表したいわけではない。
ユスなんて甚だ有り得ませんと断言してほしいわけでもない。
仕事だってわかってるし、実際ジュンスにそんな気がないことだってわかってるから。
そんな子どもっぽいことを言いたいわけじゃなくて、ただ…
知りたいな、とずっと思ってただけ。
世間にジュンスに恋してるみたいな見かたをされていること、どう感じてるのかなって。
ぼくは、すきだと言われてからジュンスが急激に気になりはじめた。
ユチョンはそういうことをまったく感じてこなかったのだろうか?
あんなに大切そうに見守る瞳の奥に、どんな愛情を隠しているんだろう?
「ジュンスはどうなの?別にいやがってなさそうだけど」
「あの人は何も考えてませんよ、そういう人ですから。ぼくがいやな思いをしてるかも、みたいなことにまで考えが及ばないんでしょうね。ぼくたちって仲よしグループだな〜とかぼんやり思ってるだけですよ、きっと」
ま、そういう気にしないところが、可愛いっていうか…
ハラハラさせられることもあるけど、それも楽しいっていうか。
ホント、いっしょにいて飽きない人ですよ。
ユチョンは髪の先を指で巻きながら、ぼくに向かってちいさく首を傾げてみせる。
「いやな思いしてるの、チャンミン?」
「いえ、別に。慣れましたし、自信ありますから。ただ、世間にぼくよりあなたのほうがジュンスヒョンとお似合いだと思われてることは癪ですけどね」
「はは。おれといるとき、ジュンスは自然だからね。おまえといるとどうしても緊張するみたいで、ぎこちないじゃん。それがたぶん傍目にはおれのが特別みたいに見えるんだろうね」
緊張する、か。
確かにそういうところあるかも。
以前はそれが、ちょっと一線を画されてるように感じられて、寂しく思ったものだったけど。
ねぇジュンス?
最初からあれは、照れ隠しだったの?
そう思うと、うれしくて堪らなくなる。
阿呆みたいに、顔がだらしなくニヤけてしまう。
ジュンスがすきなのはぼくだって、そう繰り返し確信するたびに。
「おれがジュンスをすきになるんじゃないかって心配してる?」
静謐さを感じさせる綺麗なほほえみを向けられ、ぼくはすこし怯んだ。
ユチョンがこういう表情をするときは、こちらを気遣っているときだ。
そんなとき、彼の言葉は率直で、無駄がない。
自分の真実を相手に突き刺すように。
「それともすきだったんじゃないかとか?そうだったらおもしろかったかもね、泥沼の三角関係。ま、おれもおまえもジュンスを困らせることはしなかっただろうけど」
「ヒョンは…」
「あのね、おれはジュンスやチャンミンに気を遣って身を引いたわけじゃないから。ジュンスは、正直おれにとって特別な存在だけど、だからこそっていうか…恋愛対象にはならない。家族みたいなものだよ、大切で失いたくない人。勿論おまえもね、チャンミン」
最後の言葉はぼくの目頭をじわっと熱くした。
この人は、優しい人なのだ。
わかりにくい人間でいようとしてるけど、誰にも自分の本質を打ち明けないでいるつもりなんだろうけど、いっしょにいればわかる。
どれほどの愛を持って人を思えるか。
それは他人にひけらかすものではなく、自分のなかに根づかせて当たり前に持っていることではじめて、他人にとっても意味のあるものになる。
ユチョンの優しさはそういうものだ。
差し出されるものではなく、ふれられる場所にいつもあるもの。
だからこそ、この人をずっと、尊敬していられる。
「ユチョンヒョンにとって、恋愛感情って懐疑的なものなんですね。同じ特別でも、友情や家族的な愛情より軽いと言ってるように聞こえます。いつか別れるからですか?これまでどれも完全じゃなかったから?」
ぼくを見るユチョンの柔らかな眼差しが、一瞬哀しみに翳った気がした。
琴線にふれるような言葉だっただろうか。
無神経に踏み込みすぎてしまった?
ふっと笑うその仕種も、どこか憂いを感じさせるものだった。
「どうかな。チャンミンは?ジュンスのこと、友だちで済ませようって何度も思ったでしょ。何が違うって思えたの?」
「ぼくは…」
一度ユチョンから視線を外して、すこし離れた場所で真面目な顔をして台本と向き合っている横顔をみつめた。
ただ視界にいるだけで、彼が生きているというだけで愛しさに満たされるこの気持ちを、どう言葉にしたらいいのだろう。
他の誰にも感じない思いを感じさせられることを。
知るたび、ふれるたび、思うたびに深く、もっと強く、すきになっていくことを。
ただ心から、すきだと思う気持ちを。
「あの人がほしかったんです」
ひとつ息を吐いて、言葉を紡ぐ。
「他のものを同じように望んだことはありません。自分のなかで処理できないくらい傲慢に、堪らなくほしくて。そういう意味では、あの人はぼくにとって何よりも特別ですね」
「なるほどね。おれはそういうふうにはジュンスを見れないからなぁ、ぜんぶ知りたいとか、いつもそばにいたいとか。だから、おれの気持ちはチャンミンとは違うよ。心配することない」
ふふ、と笑う声に目線を戻すと、いつものニタついた揶揄い顔がぼくを迎えてくる。
何もかも見透かされているのか、ぼくがわかりやすすぎるのか。
ちいさく首を横に振って、溜め息混じりにこたえる。
「そんな心配してませんよ。そうだったとしても遠慮しませんし、関係ないですから」
「ふぅん、そう?ま、おれも親友の座は譲らないけどね。ラジオでどんなに牽制されても」
気づかれてたか。
気づけばいいと思ってましたけど。
ユスって言われてることに嫉妬してるわけじゃありませんが、肯定する義務もないですからね。
こっそりユチョンに牽制するくらい、いいでしょう?
どうせジュンスは気づかないんだし…