小説:Bigeastation編1~30
□8:Bigeastation 8.
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Bigeastation 8. 2007/5/20~26
ぶつくさ文句を言いながらも、なんだかんだつき合ってくれるところがすき。
そんなふうにいつも結局流されて、ぼくのとなりで楽しそうな顔をしてくれるところがすき。
ぼくを打ち負かそうと笑いながらゲームをするチャンミンの横顔をそっと盗み見て、ぼくもこっそりふふっと笑った。
収録ブースでは三人のヒョンが(ユチョンはぼくにとってヒョンと呼べるのだろうか)ラジオを録っていて、辺りにはいろんないい匂いが混ざり合った甘い香りが漂っている。
「また不穏な空気が流れてますね」
画面に視点を固定させたまま、チャンミンは言った。
「え?」
「収録ですよ。ほらまた、ユノヒョンがユチョンヒョンにかまうから…空気が読めないって怖ろしいなぁ」
顔を上げると、楽しそうに笑うユノとユチョン、そしてそれをちょっと拗ねた顔でみつめるジェジュンが目に入る。
ぼくは首を傾げてみた。
「フツーにジェジュンヒョンとも喋ってるのにね?」
「そうですね、まぁ…ユノヒョンなりにふたりに気を遣ってるんでしょうが…完全に空まわってますね。ユチョンヒョンが気の毒です」
「でも楽しそうだよ、ユチョン。まぁぼくが収録に参加してたらもっといい雰囲気にしてあげれるけどぉ〜」
チャンミンは誰の目にも明らかな苦笑いを漏らした。
「煩いだけじゃないですか。それに今日はグッズの選考会ですから、必然的にセンスのあるヒョンが選ばれたんですよ」
「ぼくのセンスは完璧だよぉ!なんだよ、ってことはチャンミンもセンスがないってことじゃぁ〜ん」
「自分にセンスがないのは認めます。特に恋愛のね。ところでヒョン、画面見なくて大丈夫ですか?」
何っ?恋愛のセンスがないってどういう…
え?画面?
「あ?あーーー?!ちょっ、ちょっと待ったぁ!チャンミン!この卑怯者!」
ぼくが顔を上げているうちに、いつの間にかゲームは勝手に進められ、ぼくはかなり劣勢になっていた。
チャンミンは攻撃の手を緩めずに笑う。
「なんですか、人聞き悪いなぁ。あなたが一度にふたつ以上のことをできないのがいけないんでしょう?」
「なっ、なぁっ、生意気な!歌って踊れる東方の天使とはぼくのことだぞ!」
「はいはい、でも食べながら喋ったり会話しながらゲームしたりはできないんですよね。不器量な天使もいたもんですね」
チュドーン、という音とともに、目の前の画面にTHE ENDの文字が現れる。
チャンミンのうれしそうな笑顔が憎たらしいほど可愛くて、でも負けて悔しくて、それがなんだか可笑しくなって笑ってしまった。
ぼくが笑うと、チャンミンも決まって楽しそうな顔をしてくれる。
そこがまた堪らなくすき。
「お、ジェジュンヒョンが反撃に出た」
「え?なんの?」
「ユノヒョンが自分をかまわないことへの報復ですよ。先生を本気ですきになったことがあります〜って。わざとらしいでしょう?」
え、全然わからないけど。
単にメール読んでるだけじゃないの?
「ま、ユノヒョンは全然堪えてないみたいですけどね。ていうかわかってないんでしょうね。いい加減あきらめるべきですよジェジュンヒョンは。あの人はああいう人なんですから」
「チャンミンは…」
彼はゲームを仕舞う手をとめて、ぼくを見る。
そんな表情にもいちいちドキドキさせられてるなんて、もう出逢って四年くらいになるのに、つき合って二ヶ月にもなるのに、未だにとなりに座ることさえ緊張してしまうなんて。
それについてぼくは異常なのかとユチョンに相談したら、自分の参加する収録が終わった後で彼にちいさく耳打ちされた。
ジュンスはチャンミンのヒョンなんだから、もうちょっと上目線で接してみてもいいんじゃない?
いつもチャンミンのほうからやられるからドキドキしちゃうんでしょ?
というわけで今日はぼくのペースで進めてみようと決意して、前を素通りしてみたり、兄らしく振る舞ってみたり、自分からとなりに座ってみたりして今ここにこうしてるんだけど…
やっぱりダメみたいだよ、ユチョン。
ぼくがどんなにそうしたいと思っても、チャンミンの前でドキドキしないことなんてできない。
だって、はじめて逢ったときからずっとそうだったんだ。
「なんですか、ヒョン?」
「え?あ…チャンミンはさ、先生をすきになったことある?」
「はい?」
怪訝そうに眉を顰められ、ちょっと怯む。
チャンミンはぼくの手からもゲームを受け取って、きちんと鞄のなかに入れてくれた。
「なんでですか?」
「なんでって…チャンミンの恋の話、聞いたことないから。どんな人をすきになったのかとか知りたいなーと思って」
今度はぼくを見る目がまるくなる。
コーラ味の飴玉みたい。
懐かしくて甘い味。
「へぇ…そんな話聞きたいもんですかね?ぼくは聞きたくないですよ、あなたの恋の話なんて」
「なんで?全然気にならないの?」
「そういう意味じゃ…まぁいいんです、わからないなら。ぼくの恋の話は、そうですね、いつか…話してもいいな、と思えたときに教えてあげます」
なんだよ、それ〜。気になるのにぃ。
いつもこんな感じで訊くこと訊くこと誤魔化されてる気がする。
チャンミンがすきになったのはどんな人なんだろう?
綺麗な人?優しい人?明るい人?賢い人?
ぼくにどこか似てるのかな、それとも全然違うのかな?
ぼくはこんなにいろいろ気にしちゃうのに、チャンミンはどうして気にならないんだろう。
ぼくの恋の話はきみのことだらけだよ。
他の人に恋したことなんてないんだ、こんなふうに誰かをすきだと思ったことなんて…
いつかぼくも、きみにそう伝えられたらいいな。
よろこんでくれる?ドン引きするかな。
それでもいいよ。
受けとめてくれるってわかってる。
「確かにユチョンヒョンは運転うまいですよね。なんていうか、カッコいいですよ。仕種とか」
「えっ?何、急に」
「ホントに一度にひとつのことしかできない人ですねぇ。収録ですよ、今ヒョンたちが喋ってるでしょう?」
ああ。全然聞いてなかった。
でも別に一度にひとつのことしかできないわけじゃないよ!
誰だって考えてるときはまわりの会話なんて耳に入ってこないよね?
「ユチョンがいちばん?いやいや、ぼくのほうが絶対うまいって!チャンミンは乗ったことあるんだからわかるでしょっ」
「ええ、乗ったことありますからね…早めに免許取りますから、お願いだからそれまで無茶しないでください」
んっ?それってどういう…
「ドライブデートしたいですね。ふたりきりで」
さりげなく近寄ってぼくの手に手を重ねてくるチャンミン。
必然的に思考が停止させられてしまい、顔にぶわーっと熱が隠る。
追い討ちをかけるように彼はぼくを覗き込んで、可愛く眉を傾げてみせた。
「プライバシーも保てますし、誰にも邪魔されませんから。ね、ヒョン?どこか行きたいところとかありますか?」
「え?あ、そうだなぁ。急に言われると…チャンミンは?」
「ぼくはジュンスヒョンの田舎に行きたいです。一度連れていってくれたじゃないですか、覚えてます?すごい前ですけど。あの景色をもう一度、ふたりで見たいんです」
ぼくの田舎。
金色の稲の海のなかに、おおきな夕日が沈む場所。
覚えててくれたんだ、あんな昔のこと…
チャンミンはまだ高校生だったよね、あのとき。
確かふたりで出掛けるのもはじめてで。
狭い車内で、うまく話せなくて、やたら緊張したよなぁ。
あのときとはもう、何もかもが違う、ぼくたちの関係。
今はもう、アクセルを踏み込まなくても、チャンミンの心に簡単にぼくの気持ちを届けることができる。
連れていこう。
あの日の切ない片想いも、ぜんぶ。
「いいね!次の休みに行こうよ」
「だからぁ、ぼくが免許取ってからですってば!それまで勝手に運転しちゃダメですよ、わかりましたね?」
「なんでだよ!ぼくが運転できるんだから別にいいだろ〜」
チャンミンは深い溜め息をついた。
「わかってませんね、全然。だから、その………ぼくが運転できれば、あなたが疲れたとき代わってあげられるじゃないですか」
「あーあ!そういうこと?いいじゃん、疲れたら泊まってきちゃえば。ちょっと寝れば回復するよぉ」
「泊まるって…それは、ヒョン、つまり…」
彼の言葉はごにょごにょと尻すぼみに消えていった。
ブースのなかでは三人がチャンミンの名前を上げて笑い合っている。
「でも!ベッドはふたつある部屋にしようね!殴られるのいやだし。寝言も程々にしてよ、眠れないと困るからっ」
「そんなこと言われたって寝言を自分でコントロールできるわけないでしょう?それにあなたは毎晩同じ部屋で平気で寝てるじゃないですか。ていうか仮にも恋人同士なんですから…もうちょっと…」
今度は言葉の途中で頭を抱えてしまった。
ただでさえ何が言いたいのかよくわからないのに、なんだって言うんだろ?
ちゃんとわかるように言ってくれないと。
「もうちょっと、なんだよ?」
「いや、いいんです…わかってました。あなたに恋人らしい思考を持てというほうが横暴なんですよね。時々、あなたはホントにぼくのことをすきなのかと疑いたくなるときがありますよ」
ええ?!
何なにー?急になんで?
ホント謎なんだから、チャンミンの言うことって。
毎回ぼくがどれほど苦労してると思ってるのさぁ!
恋人らしい思考ってなんだよ。
ぼくの心はチャンミンには恋人らしくないの?
気の知れたヒョンたちが大切なマンネのことを可愛いって言うだけで嫉妬してしまうのに。
寝顔も寝言もホントは誰にも見たり聞いたりしてほしくない、ぼくだけのものにしてしまいたいとさえ思ってるのに。
どうしてわからないの、チャンミン?
こんなにこんなに特別なのに。
「あ、収録終わりそうですね。何か飲むものでも買ってきてあげましょうか。ヒョン?」
荷物を持って立ち上がり、がんばって仕事をする先輩への気遣いを見せながら、チャンミンは振り返ってぼくに手を差し伸べた。
誰よりも気ぃ遣い屋の後輩。
兄みんなに可愛がられている真面目な弟。
でも、きみはぼくのものだよ。
他の誰よりもぼくには可愛く見えてるんだからね。
「チャンミン?」
差し出された手を握り、立ち上がって寄り添うような距離で歩き出しながら、すこし目線の合わないチャンミンを見上げる。
彼の優しい眼差しが返ってくる。
「なんですか、ジュンスヒョン?」
握ったままの手を絡ませ、彼の耳元にくちびるを寄せて、ちいさな声で囁く、誰にも聴こえないないしょ話。
「だいすき」
滅多なことでは変わらない彼の表情が、茫然と固まった。
その頬に赤みが差すのを見れば、心がふわっと浮かぶようにうれしくなる。
とっても満足して、ぼくはチャンミンの手を放し彼より前に歩を進めた。
「何買う〜?ユチョンには美味しくなさそうなやつにしようよ、どうせならさぁ」
ねぇ、きみも同じ気持ちでいてくれてるのかな。
たとえ昔の恋の話がいくつあったって、これからのぼくたちにはたったひとつの物語しかないってこと、ぼくは信じてるよ。
誰よりも可愛い、誰よりも生意気な、誰よりもだいすきなぼくのチャンミン。
It has finished,
at 19:30 August 20,2012
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