小説:Bigeastation編1~30
□6:Bigeastation 6.
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Bigeastation 6. 2007/5/6~12
ぼくたちが収録ブースから出ると、収録待ちだったふたりはいなかった。
「マネージャーぁ!ユノは?どこ行っちゃったのー?おれのまわし、聞いててくれるって言ったのに」
ジェジュンがいち早くマネージャーのもとへ走っていって問いつめる。
ぼくはその様子をみつめながら、背の高い後ろ姿を無意識に視界のなかに探した。
チャンミン?
どこにいる?
いっしょの仕事じゃないから、終わったときにはすぐに顔を見たいのに。
「ユノヒョンとは浮気しないと思うよ」
耳元で低く囁かれ、となりにいるヘラヘラ男を睨みつける。
彼はぼくの視線を受けて心底楽しそうに笑った。
「そんなこと考えてもないよ」
「そぉ〜?ジェジュンヒョンは考えてると思うけど。ま、有り得ないよね〜ユノヒョンとチャンミンは」
ていうかふたりでいなくなったくらいで浮気とか思わないでしょ。
ジェジュンは妬きもち妬きだからなぁ。
ぼくはチャンミンのこと信じてるから!
ユノも大切なメンバーだし。
「有り得ないよぉ!ふたりとも真面目だもん」
「あは、いや、そういう意味じゃなくて。どっちもタチだから」
「たち?」
ぼくの顔を見てまた笑うユチョン。
タチって何さ?
また揶揄われてるんだろうか?
「ジュンス、もうちょっと自分の世界のこと勉強しなよ。可哀想にチャンミン、苦労するなぁ」
ぼくの世界?チャンミンが苦労する?
「なんだよそれ。ちゃんと教えてよ、なんのこと?」
「訊いてみな、チャンミンがタチですか、ぼくがタチですか〜って。あ、ほら帰ってきた」
ユチョンの視線が捉えた先に、ユノと真剣な顔をして語らいながら歩いてくるチャンミンが見えた。
ぼくが近寄ろうとするより先に、明るい髪色の男が横を走り抜けていく。
「ユノぉ!聞いててくれるって言ったじゃん、おれまわしがんばったのに!」
「ちゃんと聞いてたよ、ジェジュン。終わってからトイレ行ってたんだ。まわしすごいカッコよかったよ。なぁチャンミン?」
「そうですね。さ、行きましょう」
感動の再会を果たしたふたりの仲を引き裂いて無情に響くチャンミンの声。
後ろからぼくたちがついてくるのを確かめるように振り向いた後、長い足を使ってすたすた歩きはじめる。
その不思議なほど凛々しい撫で肩の後ろ姿をみつめていると、ユチョンにガッと背中を押された。
「ほらほら、行っちゃうよ」
その勢いで前につんのめり、チャンミン…ではなくそのとなりでイチャコラしているユノの背中にぶつかった。
「おっと。大丈夫か、ジュンス?」
「あっ、あの、ごめん。大丈夫」
「ラジオでちからを使い果たしましたか?」
すぐとなりでふふっと笑いながらぼくを見るチャンミン。
さりげなく腕を取ってぼくを支え、そのままユノとの間に挟むようにしてまた歩き出す。
さわられるだけで、ドキドキする。
毎日カッコよくなっていくチャンミンの横顔。
「すごいはしゃいでましたね、ヒョン」
「え、ぼく?そんなことないよぉ、真面目にやったじゃん。はしゃいでたのはユチョンだよ、ねぇジェジュンヒョン?」
「ジュンスも充分煩かったよ。おまえらはふたり揃うと騒がしすぎる」
ええー、がんばってやってるだけなのに!おかしいなぁ。
「ただのコーナー紹介で盛り上がりすぎなんですよ」
「なんでだよぉ、楽しくていいじゃーん。ねぇチャンミン、心理テストおもしろそうじゃない?どんなテストがくるかなー」
「呑気ですね、ヒョン。世に自分の心理を曝け出すんですよ?怖ろしい話じゃないですか」
なな、なんて頭が堅いんだ!ていうか真面目に考えすぎ。
もっといろんなこと楽しんでもいいのに。
「それより親父ギャグのコーナーができなくてよかったですね」
「よかったってなんだよ!やりたかったのにぃー」
「毎週ですよ?10分間も親父ギャグばっかり言わなきゃいけないんですよ?一ヶ月も保たないでしょう」
親父ギャグ10分間…
もうちょっと日本語勉強しなきゃダメかも。
それはぼくだけが喋り続けるの?
チャンミンはフォローしてくれないの?
「いいじゃん、いっしょにやろうよ」
「絶っっっ対にいやです。ユチョンヒョンとふたりでやってください」
そんな頑なに拒まなくても…
チャンミンの後ろからひょこっとユチョンが顔を覗かせる。
「おれに押しつけるなよ、チャンミーン」
「ユチョンヒョンがなんでもかんでも笑うからこの人はいつまでもくだらないことを言うんですよ」
「くだらないってなんだ!チャンミンなんて親父ギャグひとつも言えないくせにっ」
チャンミンは本気の溜め息をついた。
「そんなもの言えてなんになるんです。大体、クラブをしながらクラブを食べられるわけないでしょう?しかも英語じゃないですか、日本語のラジオなのに。わかりにくいんですよ」
「ぬゎにーっ?!こんなにがんばってるのに!いいよもう、チャンミンなんてユノヒョンと浮気でもなんでもすればいいじゃんっ」
「はぁー?!」
三人ぶんの重なった声と、ユチョンの笑い声が一気に聴こえた。
「何言ってんだよジュンス、いいわけないだろ?!いくらマンネでもそれは許さないよ!まさか、まさかっ、チャンミンおまえ、ユノに気があるのかぁー?!」
「落ちついてくださいよジェジュンヒョン、そんなわけないでしょう?この人のことですからまた何か謎の閃きが降りてきたんです、きっと」
「そうだよジェジュン、それにおれは絶対浮気しないから。ね?大丈夫だよ。どうしたの、ジュンス?」
ぐぅ、慌てもしないのか。
謎の閃きってなんだよ、ユチョンが言ったのに。ユチョンが…
あ、そうだ。
「チャンミン!」
「なんですか、今度は」
「チャンミンがタチなの、ぼくがタチなの?」
ぶーっと吹き出す音がした。
いったい誰が吹き出したのかはわからない。
みんながみんな、おおきなリアクションをしてみせたからだ。
まずユノがあわあわしながらぼくの肩を掴んできた。
「じゅ、じゅ、ジュンス。何言ってるんだ、こんなところで」
次に笑顔のまま硬直気味なジェジュンがぼくの肩からさりげなくユノの手を払った。
「そうだよ、仮にも芸能人なんだからおおきな声でそういうこと言わないの」
ユチョンは腹が捩れるほどに笑い転げている。
「あ〜ジュンスぅ、最高!もうおれ死にそう〜」
チャンミンはひとり至って冷静な顔でぼくを見下ろして、ふっと不敵に笑ってみせた。
「ぼくがタチに決まってるでしょう?すくなくとも、世間的にはあなたがネコですよ」
ネコ???
ぼくは猫なの?どっちかっていうと犬派なんだけど…
じゃ、タチは何?
「ユノもタチ?タチ同士だと仲よくなれないの?」
ユノが泣き出しそうな声を上げる。
「ジューンスぅぅ〜やめてくれぇ、おまえはそんなこと知らなくていいから。チャンミン!ジュンスに何教えてるんだっ」
「ぼくじゃないですよ。おおかたまたユチョンヒョンに揶揄われてるんでしょう。ジェジュンヒョンにネコについて教えてもらってください、ジュンスヒョン」
「ジェジュンヒョンもネコなの?どういうこと、末っ子?色白?」
ユチョンはもう死ぬ寸前に息を切らせて笑っている。
チャンミンも今の言葉が可笑しかったのか眉を下げて頬を緩ませた。
「すごい想像力ですね。まったく、先が思いやられますよ…それ、他の人には訊かないでくださいね?グループ解散なんてことになりかねません」
「ええ?じゃあちゃんと教えてよ。なんのことなの?なんでぼくがネコなの?」
「はいはい、また今度教えてあげますから」
いつものように適当にあしらわれ、移動のため歩き出そうとする彼のその男らしく日に焼けた腕を、ぐいっと掴んだ。
「チャンミン、チャンミン」
「なんですか。まだ何か…」
「こたえて、ほしいのっ!」
またぶはーっと笑ういくつもの声がした。
チャンミンも堪えきれずに肩を揺らしている。
それでもひーひー喘ぐ三人を横目に彼はぼくの頭を撫で、愛おしむようなとても優しい目でみつめてきた。
心臓が甘く、高く鳴る。
精悍な顔立ちが描き出す柔らかい表情。
「ぼくはあなたがわかるまで待っていなくちゃいけないんですかね?」
ぼくにしか聴こえない声で、静かで低い男の人の声で、そっと呟く。
なぜか心がきゅっと切なく縮まった。
「え?」
「なんでもないです。行きましょう、マネージャーさんが待ってますよ。ヒョン!ほら、いつまでも笑ってないで」
置いていきますよ、と言いながらゲラゲラ笑うヒョンたちを振り返る、冷たい優しさを持つマンネ。
いつもぼくを揶揄って、教えてほしいこともはぐらかして、ぼくの親父ギャグもけちょんけちょんに言うようないかすけない弟だけど、タチでもネコでも、バカでも間抜けでも。(別にそうだって言ってるわけじゃないよ、チャンミン)
誰よりも特別な、ぼくのだいすきな人。
きみと恋愛を楽しみながら仕事を楽しむこの時間を、ずっと大切にしていきたいから。
It has finished,
at 21:30 August 7,2012
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