小説:Bigeastation編1~30

□4:Bigeastation 4.
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Bigeastation 4. 2007 4/22~28


 「ジュンスヒョン、ラジオで嘘をつくのはやめてください」

 収録ブースから出るなり、チャンミンにそう声をかけられた。

 今日もまわしを担当したグループ最年少は、四回目ともなるとさすがに余裕が出てくるらしく、すごく堂々として、カッコよく見えた。

 ぼくは振り返って、そのニヤニヤ笑う顔をすこし見上げる。

 「なんだよぉ、嘘なんてついてないじゃん」

 「つきましたよ。ゲームばっかりやってるくせに、全然違うって。挙げ句の果てにそれはぼくのほうだとか言いましたよね?」

 「なっ、だって別にゲームばっかりやってるわけじゃないもん!チャンミンだってゲームしてるじゃん!」

 となりにいたユノが笑って、窘めるようにぼくの頭を撫でる。

 「まぁまぁ。喧嘩しないで」

 「ヒョンだってそう思うでしょ!チャンミンだってゲームばっかりやってるよね!」

 「ぼくはあなたにつき合わされてるんですよ。毎日毎日、よく飽きないなと思います」

 んなー!なんだよ、それ!
 自分から誘ってくることだってあるのに!大体いっしょにやってる時点で同罪だよね、そうだよね!

 「チャンミンなんか全然純粋じゃないくせに!」

 彼は実に楽しそうに笑った。

 「なんですか、急に」

 「そういう子どもの頃の純粋な気持ちがないから、顔も老けてきちゃうんだよっ」

 「失礼ですね!ぼくの顔が老けてきたんだとしたら、ヒョンに苦労させられてるからですよ」

 ユノが間に入って会話を遮った。

 「ジュンス、チャンミン。落ちついて」

 「ユノヒョン!これはチャンミンが悪いよねっ。いっつもいっつも、ぼくのことばっかり」

 「何がですか。ぼくはホントのこと言ってるだけでしょう?ヒョンは明らかに悪口を言いましたけど」

 それでも諍いをやめないぼくたちを、困った顔でみつめる気の毒なリーダー。

 「どっちもどっちだよ。な?ジュンスだって、収録ではチャンミンに助けてもらったりしたでしょ?そんな意地張らないで、仲よくして。ほら」

 全然どっちもどっちじゃないのに!
 絶対チャンミンが悪いのに!

 納得いかないぼくを放置したユノは、チャンミンにも一言何か言っておとなしくさせた。(こういうときのユノってちょっと先生みたい)

 そのままチャンミンとは口を利かずに、楽屋で待っていたジェジュンとユチョンを迎えに行く。
 扉を開けると、ジェジュンがうれしそうに顔を上げた。

 「ユノ!お疲れさまっ」

 となりでいっしょに雑誌を捲っていたユチョンもにっこり笑ってぼくたちを迎える。

 「お帰り〜」

 「ただいま!何見てるの、ユチョン」

 ぼくがチャンミンを置いて近寄ってくるのを見て、ユチョンは眉を上げた。

 「ん?ファッション誌。日本の流行についてジェジュンヒョンと話し合ってたんだ」

 「ふぅーん…」

 よりによって、まったく興味のない分野だ。
 それでもユチョンといることでチャンミンを妬かせようと思って、ひょいっと雑誌を覗き込む。

 絶対ぼくからは謝らない!
 チャンミンが悪いもん!

 「ほしいのとかあった?」

 「そうだなぁ、いろいろあるけど…これとか。可愛くない?」

 「あー。似合いそう」

 ていうかユチョンはわりとなんでも似合うもんね。
 チャンミンだったらもっと、無難な…

 ていうか、老け顔なんだから何も似合わないよね、チャンミンにはっ。ふーんだ!

 そんな心のなかでしか言えない嫌味な言葉をひたすら思い描きながら、ちらっと彼の様子を窺う。
 チャンミンはこちらを気にするどころかジェジュンとふたりで楽しそうに笑い合っている。

 何話してるの?!
 なんでそんなにうれしそうな顔するの、チャンミン?
 ぼくのことよりそっちのほうが優先なの?
 ていうかユノはどこに行っちゃったんだよぉ。ジェジュンをどうにかしておいてくれないと…

 「ジュンスだったらこっちのほうが似合うかな〜」

 「え?そう?」

 「でも、あんまりお洒落するとチャンミンがやきもきしちゃうかもね」

 その言葉に視線を上げると、ユチョンは柔らかくほほえんだ。

 「喧嘩した?」

 うっ。なんでわかったんだろ。
 常々思ってたんだけど、ユチョンって絶対透視能力とかあるよね?

 「べ、別に…」

 「チャンミンに謝らせたいんなら、向こう気にしちゃダメだよ。あれがあいつの作戦なんだから」

 「え?」

 ユチョンはぼくを引き寄せて、耳元で低く囁く。

 「妬かせようとしてる。ほら」

 もう一度チャンミンを見ると、目が合った。

 ぼくを見る、何を思ってるのかわからないまんまるの瞳。
 思わずパッと視線を逸らす。

 「こ、こっち見てる」

 「でしょう。気になってるんだよ。そのうち寄ってくるから、待ってればいい。どうせユノヒョンが戻ってくればジェジュンヒョンに見捨てられるだろうし」

 そのユノはマネージャーに捕まって何か打ち合わせをしているようだった。

 すこし話した後、案の定ジェジュンのもとへ戻っていく。
 ジェジュンはユノを見るなり笑顔で彼に話しかける。

 ひとりになってこっちにくるかな、と思ったが、チャンミンはそのままふたりのそばに立っていた。

 「よし、じゃあ移動するよー」

 「行こ、ジュンス」

 ユチョンとファッションの話をしながら車まで並んで歩いていく。(ほぼ頷くことしかできなかった)
 チャンミンは仲よく笑い合うふたりのヒョンの後ろで欠伸をする。

 疲れてる?
 今も時々睡眠時間を削って勉強してることは知ってる。
 もしかして、ホントにゲームにつき合わせてるのが迷惑なのかな。

 ふつうにそう言ってくれたら、ぼくだって誘うのやめるのに…

 そんなことを思いながら歩いていると、車に乗り込む直前ですぐ前を歩いていた彼が急にとまったので、その背中に思いっきり追突してしまった。

 「わっぷ」

 文句のひとつも言おうと顔を上げるその前に、振り返ったチャンミンに腕を掴まれる。

 「ユチョンヒョン。すいませんが前に座ってください」

 そう言ってぐいぐいぼくを引っ張り、ユノたちを押し退けていちばん後ろの椅子に座らせると、自分もそのとなりにどかっと腰掛けた。

 彼の手はぼくを放さない。

 「ちょっと、痛いって…チャンミン?」

 「ぼくの負けです。気分はどうですか」

 「はぁ?」

 ぼくたちの前にジェジュンとユノ、その前にユチョンを乗せて、車は走り出す。

 チャンミンは怖いほどまっすぐぼくを見てくる。

 「ぼくを妬かせるなんていい度胸ですね。どうせユチョンヒョンに入れ知恵されたんでしょうけど」

 「それは…その…」

 そのとおりなので次に言う言葉が思いつかなかった。
 チャンミンはにこりともしない。

 こういうときはいつも揶揄うような顔するのに。

 「チャンミン…?怒ったの?」

 恐る恐る訊いてみると、ぼくの手首を掴む彼の手にさらにちからが入った。

 ど、どうしよう。本気で怒ってる。
 こんなことで別れるなんてことになったら…

 絶対いやだ。
 やっと、やっと、振り向いてもらえたのに。
 つき合って一ヶ月しか経ってないのに。まだ何もかもこれからなのに。

 「ご、ごめんね、チャンミン。ぼく…」

 ぅわはっ、という笑い声が、車内の沈黙を破って聴こえてきた。

 その声のしたほうへ目を向けると、ユチョンが座席の上で反り返って笑っていた。
 そのすぐ後ろで、ジェジュンも可笑しそうに眉を下げてこちらを見る。

 「ちょっとジュンスぅ〜!先に謝っちゃダメじゃぁん」

 「あっは、おれの勝ちぃ〜。どうしよっかな、やっぱりジャケットにしようかな〜」

 「もうちょっとだと思ったのになぁ。やっぱりリスク高かったかぁ〜大体チャンミンのほうが分があるに決まってるじゃん」

 なんの話かわからないぼくのとなりで、チャンミンは天を仰いだ。

 「人の喧嘩を賭けのネタにしないでくださいよ」

 ユノが首を傾げて笑い転げるふたりをみつめる。

 「賭けって?ジェジュン?」

 「なんでもないよ、ユノ。ありがとチャンミン!おまえを信じてよかった」

 「今度はジュンスに猿轡してもいいことにしてよ、ジェジュンヒョン。話にならないから〜」

 はぁ〜と溜め息をついてみせた後、チャンミンはぼくの手を放して、ちょっと笑った。

 「怒ってませんよ。ヒョンは?」

 「え?」

 ジェジュンとユチョンはまだ賭けがどうのこうのと笑い合っている。
 ユノはそのテンションについていけずに、不思議そうな顔でふたりを眺める。

 チャンミンの笑顔が、やけにうれしかった。

 「まだ怒ってますか?」

 …そういえば、ぼくは怒ってたんだった。
 結局いつもこうやって、うやむやにされてしまうんだ。

 でも、それはそれでいいかな。
 何回でもこうして戻ってこれるなら。

 「ううん。ごめん。もしかして、ゲームに誘ってたの迷惑だった?チャンミンが勉強するのの邪魔になってるとか、ぼく全然考えてなくって」

 ぼくを見る彼の目が、ふっと優しい光を帯びて柔らかくなる。

 「しおらしいこと言わないでくださいよ。迷惑だったら断ってます。いつもつき合ってるのは勿論、あなたといるためなんですから」

 そう言ってほほえまれると、体の奥で何かが壊れそうな音を立てる。

 愛しくて。
 チャンミンに思われてることが、信じられないくらいにもう、しあわせで。

 「たまにはゲーム以外のこともしたいんですけどね。ぼくが言ったのは、そういう意味です」

 「はぁ。たとえば?」

 チャンミンは困ったように肩を竦めてみせる。

 「それは自分で考えてください。ところで、ぼくの顔ってそんなに老けました?」

 「あ、いや…それは、その…ゴメンナサイ」

 「いいんですけどね、別に。しょうがないことですし…ジュンスヒョンは昔の顔のほうがすきだったのかな、と思っただけで」

 ええー?
 今より昔のほうがよかった、って言ったつもりはないんだけどな。

 となりに座るチャンミンの顔をみつめる。
 確かにかなり変わったけど、ぼくは…

 昔も今も、きみをみつめるたびに、満たされていくよ。
 その気持ちはずっと変わらない。

 「ううん、そんなことないよ。老けたっていうか、おとなになったよね。昔の可愛い顔もすきだったけど、今の顔も勿論すきだよ。でも心配」

 「心配?これ以上老けたらどうなるんだろうって?」

 「じゃなくて!どんどん、その…カッコよくなるからさ。さっきだって、ほら、メールきてたじゃん?まわしが素敵とか…やっぱり頭もいいしさ、最近歌もダンスもかなり仕上がってきたし、背だって高いし、顔もズバ抜けてるから。なんか、手の届かないところに行っちゃうのかな、とか」

 チャンミンはぼくの言葉に目をまるくしていた。

 「はぁー?何でですか、ちょっとファンが増えたくらいで。ヒョンだって同じなんですよ。あのくだらない親父ギャグとステージでのパフォーマンスのギャップでどれだけ寝返った人がいることか」

 「な、くだらないって言うなよ」

 がんばって考えてるのに!
 しかし寝返るってひどい表現…

 「くだらないじゃないですか。大体、嫁の心を読めたなんて誰目線で言ってるんです?あなたの嫁はつまりぼくですか?どちらかというと、世間的にはあなたがぼくの嫁だと思うんですけど」

 「えっ?何、どういう意味?」

 「なんでもないです。とにかく、ファンが増えるのは勿論うれしいことですが、ぼくはずっとあなたのものですよ」

 うわぁ。
 急にこういうこと言うのやめてほしいなぁ。心臓がびっくりしてとまりそうになるから。

 「チャンミン…」

 「不安になるならもう一回告白しておきましょうか?確か、告白は逢って直接してほしいんでしたよね?」

 さりげなく近づいて、他のメンバーに見えない隅にぼくを追い込み、耳元にくちびるを寄せてくるチャンミン。

 こういう仕種はどこで覚えてくるんだろう。
 ぼくより歳下なのに、いつもドキドキさせられるばっかりで…

 「あ、そうか。ジュンスヒョン?ぼくは忙しくて時間もないんですが、手紙とか電話で改めて告白したほうがいいですか?」

 「なんでだよ…ここにいるんだから、ここですればいいじゃん」

 大体こんなとこで告白すること自体おかしいけど。
 いったいなんでこんなことになったんだっけ?

 「そうですか。ユノヒョンが言うには、目を見なきゃいけないんですよね。それで、何て言ってほしいんでしたっけ…ヒョン?こっち見てください」

 近いんだよぉ!
 もうっ、人の心臓を壊す気か!

 すこし影になった彼の瞳のなかに自分が見えるほどの距離でみつめ合い、息をとめてその時間を味わった。

 ふれ合えば甘く蕩けるチャンミンのくちびるが、静かに開く。

 「すきですよ、ジュンス。ぼくじゃ駄目ですか?」

 あーもう。あーもう!
 どう言えばぼくが安心するか、わかりきってるんだから。
 狡い男め。

 これじゃいつも一手先を行かれるのもしょうがないな、と思いながら、チャンミンのシャツの裾を握りしめた。

 「だめじゃない…です。ぼくもすき」

 その綺麗な顔をくしゃっと崩して笑うチャンミンを、心からすきだと思った。

 喧嘩しても、誤解しても、何度でもきみとこうして笑い合っていけるなら、きっと大丈夫だから。

 たまにはこんなふうに思いを伝え合ったりしようね。
 今日もだいすき。ぼくのチャンミン。


         It has finished,
      at 13:00 July 27,2012
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