小説:Bigeastation編1~30

□3:Bigeastation 3.
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Bigeastation 3. 2007/4/15~21


 カット、の声がかかると、いつもほっとする。

 今日も無事ラジオの収録を終え、スタッフさんたちに頭を下げながらスタジオを出る。
 緊張で火照った頬を冷ましながら、ジェジュンとユチョンの後ろについて歩いていく。

 奥のソファでは今回収録のなかったユノとジュンスが、真面目な顔でゲームをしていた。

 「ユノぉ〜、お待たせっ」

 ジェジュンの声にぱっと顔を上げ、うれしそうな笑顔を見せるユノ。

 「お〜ジェジュン、お疲れ!聞いてたよ、収録。すごいスムーズだったじゃん」

 「そう?ホント?チャンミンのまわしがよかったからぁ」

 ジュンスは顔を上げようとしない。
 ゲームに夢中で聞こえてないのかな。

 そんなジュンスにはユチョンが声をかけに行ったので、ぼくは敢えて話しかけることはしなかった。

 「チャンミンよくがんばったな!もう三回目かぁ。慣れてきた?」

 「ありがとうございます。慣れてはきませんよ、ホントに緊張します」

 「だよなぁ、お疲れさま。カッコよかったよ、今日も」

 そう言って立ち上がったユノに頭を撫でられ、ちょっと照れくさいような、子ども扱いされて恥ずかしいような、複雑な気持ちになる。

 となりでジェジュンが不貞腐れた顔をした。

 「ユノ、おれは?チャンミンのほうがカッコよかったのー?」

 「そんなことないよ、ジェジュンも勿論カッコよかった!盛り上がってたし、すごい雰囲気をよくしてたよ」

 同じようによしよしと頭を撫でられて、ジェジュンは満足げに頬を緩ませた。

 あーあ、と思いながらジュンスをそっと盗み見る。
 彼はゲームをやめて、ユチョンと何か楽しそうにじゃれ合っている。

 ぼくに労いの言葉はないのかな。
 そんなこと気にもしてないんだろうな。
 ゲームに夢中で、何も訊いてなかったのかもしれない。

 「ところで。ジェジュン」

 「何、ユノ?」

 コホン、とひとつ咳払い。

 「ホントに合コン行ったことないの?」

 話が聞こえていたらしく、ユチョンがうはっと笑い声を上げる。

 「ほらぁ、みんなに疑われてるよ、ジェジュンヒョン〜」

 「なんでぇ?ホントにないんだってば、全然まったく一回もないよ!信じて、ユノ」

 「そっか、まぁ…ジェジュンがそう言うなら…」

 腑に落ちなさそうな顔で頷くユノを見て、ユチョンの笑いはさらにヒートアップする。

 その横で黙っている無表情のジュンスと目が合った。
 彼はその瞬間わざとらしくぱっと顔を背ける。

 なんだ?
 何か怒ってる?

 合コンに行ったことがあるかないかで揉める年長カップルは笑い上戸のユチョンに任せることにして、ぼくはさりげなさを装ってジュンスに近づいた。

 「ヒョン?」

 彼は顔を上げずにぶっきらぼうな声でこたえる。

 「何」

 おやおや、これは完全に拗ねてるな。
 ユチョンとは笑って話してたんだから、仕事とかゲームのことじゃない。
 ぼくに対して、何か気に入らないことがあるんだ。

 込み上げる笑いを必死で飲み込んだ。

 本来、恋人が自分に怒ってる素振りを見せたら、もうちょっと心配したり不安になったりするべきなのかもしれない。

 でもぼくは、この人のこういうところが堪らなくすきだ。
 いかにも拗ねてます!っていう表情。
 ぼく怒ってるんだからね!っていう態度。
 どうしようもなく可愛い。

 「何拗ねてるんですか?」

 「拗ねてないよ、別に」

 「拗ねてるじゃないですか」

 悪い癖だとは思うけど、こうやっていじけられるとどうしても、彼の口から白状させるまで揶揄ってしまう。

 何が気に障ったんだろう。
 合コンの話かな。行きたい行きたいって言ったから?
 バカだなぁ、あんなのサービストークなのに。
 行ってみたかったのはホントですけどね。しょうがないじゃないですか、年頃の男子なんだから。
 そう言ったらまた怒るかな。

 「拗ねてるわけじゃないよ」

 ジュンスはぼくをみつめてきた。
 ちょっと寂しそうな顔。

 何、その反応。
 怒ってるにしてはしおらしいな。
 まさか本気にしたわけじゃないですよね?

 三人がマネージャーの後ろについて歩き出すのを見て、ジュンスはゆっくり立ち上がる。
 でも、彼の足はそこから動かなかった。

 「チャンミンはさ」

 ゲームを鞄に投げ入れ、荷物を肩にかける。

 乱雑。ゲームとサッカーボールは大切に扱う人なのに。
 こういうときは大抵他のことを考えているときなのだ。

 たとえば、ぼくのこととか…
 気になるなぁ。何を考えてるんだろう?

 「いつも、どこかぼくたちに対して距離を置くっていうか…遠慮してるみたいなところがあるじゃない?」

 ぼくはとりあえず歩きながら話そうと彼を促すために、彼の肩を…

 …んっ?なんですって?

 「は?」

 彼の肩を叩こうとした手をとめて、目線を上げる。
 ジュンスの目がすこし不安そうにぼくをみつめ返してくる。

 「最初はそういうのも、緊張してるのかなって思ってたんだけど。あんまり自分を他人に見せない人もいるし、チャンミンもそういうタイプなのかなって。でもさぁ」

 まわりのスタッフさんたちの声が遠くに聴こえる。

 な、なんの話?
 説教?ここで?いきなり?
 閃きすぎでしょうよ。なんだかなぁ、まったく。

 とりあえずそれは移動の車に乗ってから、と言おうと彼の話を遮ってみる。

 「ヒョン。あの…」

 「チャンミンはさぁ。ずっと気にしてたんだよね。自分がいちばん練習生期間が短かったこと。そうでしょう?」

 ジュンスはめげずに続けた。
 その目はまっすぐぼくを見ている。

 どうしてそんな話を…
 あ…

 今のラジオの?
 他愛なく話してたことを気にしたの?

 ぼくがすこし決まりの悪い思いをしたのがわかったの?

 「それでずっと、ぼくたちに負い目を感じてたんじゃない?同じレベルに達してないって思ってきたんじゃない?チャンミン」

 そういえばちゃんと訊けずにきたけど、以前ユノがジュンスはすごい前からぼくのことすきだったって言ってたっけ。
 ユチョンなんて嘘かホントかわからないけど(あの人の言うことはいつも嘘かホントかわかりませんから)韓国で五人で暮らしはじめた頃にはもう気づいてたとか言ってたな。

 ずっと、ぼくを見守ってくれてたんだ。
 ぼくという人間を知ろうと、受けとめようとしてくれてたんだ。
 不安だった頃、孤独だと感じていた頃、気がつかないぼくのとなりでずっと、支えようと身構えてくれてたんだ。

 ジュンス。
 あなたがどんなにかけがえのない存在か、今はぼくにもわかるよ。
 失いたくないと思う。

 「そうですね、ぼくは…でも、そのことに甘えてきたようにも思います」

 可愛い顔をしてぼくを覗き込んでくる、幼いヒョン。
 子どもみたいな表情で、でも…ぼくを癒し、守ることのできる、強さも優しさも持っている人。

 愛しい愛しい、ぼくだけの恋人。

 「ヒョンたちはみんな自分の意思で夢を追って、がんばってきました。でもぼくは流されるままここまできてしまった。あなたたちとは背負うものの重さが違うように感じていたし、ほんとうにこれでいいのか、自分が目指すものは違うものなんじゃないかっていつも考えてました」

 「うん」

 理解を示すように頷かれ、すこしほっとする。

 「自分は違うっていう劣等感がいつもありました。ここにいるべきじゃないかもしれないって。だけどそれは、同じ夢を見る自信がなかった自分への言い訳だったように思います。弱かったんです。やっぱり格が違ったって思い知らされたときの逃げ道を用意しておきたかったんです」

 ジュンスのまるい、思ったことをそのまま映し出す嘘のない瞳が、心配そうに曇った。

 「チャンミン?」

 その眼差しに応えるように、愛しさを込めて、あの頃の自分をみつめてくれていた彼の健気で一途な心を思って、強くみつめ返した。

 「でももう逃げ道は必要ありません。流されてここまできたとしても、流されることを選んだのは自分ですから。そしてその先で、あなたと出逢えたから」

 何に感謝したらいいのだろう。
 ここに今、あなたがいること。
 ぼくの人生にあなたが齎された奇蹟。

 たぶん、言葉でも、一生ぶんの時間でも、伝えきれないと思うから。

 「あなたがいて、すきになって、あなたと同じ夢を見たいと思った。それは誰のせいにもできない、紛れもない自分の選択です。あなたのとなりにいるために、同じ場所を目指していくために、あなたに相応しい自分になろうと思えたんです。もう逃げません」

 彼の髪にそっと、セットを崩さないようにふれる。
 ぼくが笑いかけると、頬がほんのり赤く染まる。

 「ぼくに相応しい?」

 「あなたに追いつきたいです。早く」

 「もうとなりにいるよ、チャンミン」

 となりって、物理的にって意味じゃないでしょうね?
 まだまだ同じレベルとは言えませんよ、どう考えても。

 そういうことじゃなくて、と説明しようとすると、可愛らしくほほえまれた。

 「同じグループになったときから、みんなずっといっしょにいるよ。チャンミンのこと置いていったりしないよ。時間とか才能とかじゃない。チャンミンがすきで、いっしょに歌いたいから、ここまでみんなできたんだよ。わかるでしょ?」

 そんな天使みたいな顔をして、あなたの言葉はいつもなんでそんなに綺麗なんだろう。
 本物の天使だと言われてもぼくは驚かない。

 でもあなたが人間でよかったな。
 こうしてぼくのものにできるから。

 「勿論、歌もダンスもうまいと思うけどね。ぼくはすきだよ、チャンミンの声。ぼくたちの誰も、同じ声じゃないでしょう。だけどちゃんとひとつになれてるじゃん?チャンミンはもう、ぼくたちの一部なんだから。自信持って歌いなよ」

 「あなたみたいに」

 「そう!わかってるじゃん」

 うはんと笑った顔が可愛かったので、最後におちゃらけてしまったことはまぁ、よしとしよう。

 格好よかったよ、ジュンス。
 あなたと歌えていることを、誇りに思う。

 まわりに人がいることも忘れて彼を抱き寄せようとしたとき、遠くからよく通るジェジュンの声がした。

 「ちょっとぉ、ジュンス、チャンミーン!何やってんだよぉ、早く来ーいっ」

 ジュンスと顔を見合わせて笑う。

 「すいません、すぐ行きます!」

 早足で歩き出す彼の手を取って、ポケットのなかでこっそり繋いだ。

 軽く赤面した顔で振り返るジュンス。
 その表情にまた笑いを誘われてしまう。

 「な、え、チャンミン?これは、ちょっと」

 「バレやしませんよ。誰が男同士で手なんか繋いでるかもって思うんです?」

 あなたとユチョンだったら別ですけど、と言うのはやめておいた。
 ジュンスの手がぼくの上着のポケットのなかでおとなしくなったから。

 「今日は随分ヒョンらしいんですね」

 「今日はってなんだよ、いつもヒョンらしいでしょ?!」

 「あ〜、そうでしたそうでした」

 こう言えばジュンスは拗ねた顔するだろうってわかっててやるんだから。
 ぼくってホントに可愛くない弟だよなぁ。
 可哀想なヒョンたち。あんなに優しくしてくれてるのに。

 それぞれに様々な魅力があって、みんな尊敬できるぼくの四人のヒョン。
 これからもとなりで、同じ夢を見て、笑わせてください。
 いつまでも憧れていたいから。

 前を行く三人の背中をみつめながらそんなことを考えていると、ジュンスがぼくの手をぎゅっと握り返してきた。

 「ヒョン?」

 「合コン行ったら怒るからね」

 「はっ?」

 また、随分急な方向転換だなぁ。
 運転には向いてませんね。早く免許取って、ぼくが運転して差し上げないと。

 ていうか、やっぱりしっかり気になってたんじゃないですか、さっきの話。

 「念願の大学生だからって、彼女いませーんとか行って遊びまわらないでよっ」

 「まぁ確かに、彼女はいませんけど」

 「チャンミン!」

 そんな心配しなくても、もともと遊びまわるようなタイプじゃありませんし。
 あーあ、必死な顔しちゃって。可愛いんだから。

 綺麗なお姉さんたちよりも、尊敬するメンバーたちよりも、ぼくに特別だと思わせるあなたのその瞳。
 ぼくがどれだけそれに振りまわされてきたか、どれだけ今も夢中にさせられているか、教えてあげたりしませんけどね。

 特別なんですよ、ジュンス。
 合コンだろうがなんだろうが、あなたがいない場所に行くのはぼくにはまったく意味がないんです。

 「ぼくがあなた以外に興味ないって、わかってるんでしょう?」

 ねぇ、こんな台詞で目に見えてわかるほど赤くなって、目を合わせないようにまっすぐ前を見ながら、それでも頬を綻ばせるあなたのその間抜けさが、ぼくには堪らないんだよ。

 きっとこれも怒るんでしょうね。褒め言葉なんですけど。

 とりあえず今日もすきですよ、ジュンス。素敵な一日をありがとう。


         It has finished,
      at 15:00 July 13,2012
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