小説:Bigeastation編1~30

□2:Bigeastation 2.
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Bigeastation 2. 2007/4/8~14


 「お花見行きたいね〜」

 移動のバンのなかで、桜並木を眺めながらユノが呟いた。

 4月になると、途端に街は明るくなる。
 雪が溶け、たくさんの花が咲き、草木が芽吹き、人々も笑って街を歩く季節。
 すべてのものが光を浴び、また反射して互いを輝かせ合っている。

 お花見かぁ…

 「ジェジュンヒョンと行けばいいのでは?そういうロマンチックなの、すきそうですし」

 「え、そっかなぁ?じゃあ今度のデートはもっと…じゃなくて!みんなで行きたいじゃん、折角だしさ〜」

 ぼくのとなりにいるジュンスは熱心に窓の向こうをみつめている。

 話聞いてるの?

 「お弁当つくってさ」

 「ユノヒョンがですか?」

 「いや、それは…ジェジュンが…」

 よかった。今から不参加を表明しなきゃいけなくなるところでした。

 「そうですねぇ。スケジュールにそんな空きがあればいいですけどね」

 「ちょっと抜けるくらいは時間あるんじゃないのかなぁ、ツアーの練習の合間とかさ。ねぇねぇ、マネージャーさん!今月のスケジュールって…」

 ユノは身を乗り出してマネージャーに話しかける。

 ぼくは車内の誰にも気づかれないように、黙ったまま外を見ているジュンスにじりじり近づいた。

 時々遠くへ行くからなぁ。
 違う人みたいな目をして…

 そのたびにぼくがすこし寂しく感じてること、気づいてる?ジュンス…

 「ヒョン?」

 物凄く近づいてから声をかけると、彼はびくっと体を震わせた。

 「わ、な、何?近くない?」

 「何見てるのかな、と思って」

 みつめ合うのをいやがるように、ジュンスはふっと視線を逸らす。

 「桜。綺麗だね」

 やっぱり。今の話全然聞いてなかったな。

 「ホントですね」

 「お花見行ったよね、去年。さっきチャンミンが言ってた…スタッフさんに連れてってもらってさぁ。なんか思い出しちゃった」

 感傷に浸っているような、静かな声で話すジュンス。

 さっきまでラジオの収録で、いつもどおりはしゃいでたじゃないですか。
 なんでそんなにしおらしいの?
 今、何を考えてるの?

 「楽しかったですね、あのときも」

 「うん…」

 「ヒョン?」

 呼びかけると、もう一度ぼくを見て、ふっと笑う。

 なんだかその表情が、綺麗で、繊細で…
 桜みたいに美しく見えた。

 「あの頃さぁ、ちょうどチャンミンに気持ちを知られた頃で…ぼくにとってはすごく特別な時期だったんだ。なんか、それを懐かしく思えるなんて、不思議だなぁって思って…」

 去年の今頃?そうでしたっけ?
 なんとなくの時期は覚えてるんですけど…

 そんなふうにはっきり覚えてるってことは、それだけジュンスのなかではすごくつらい時間だったのかもしれない。

 自分が背負わせてきた彼の孤独を思い、これから続いていく未来で彼が同じ思いをすることのないように、と祈った。

 「まさかこんな日がくるなんて、思ってなかったな」

 ジュンスはそう言って、ちょっと悪戯っぽく笑ってみせた。

 左胸がきゅんと鳴る。
 その甘く切ない苦しみに、もう決して傷つけないと誓う。

 これからあなたを守っていくのはぼくだ。
 他の誰でもない、あなたの特別でいられるのは。

 「長い間、待たせてすいません」

 そう言って、椅子の影に隠れ、キスをする。

 ジュンスは真っ赤な顔をしてぼくを睨んできた。

 「なっ、バカ!チャンミン!今…」

 「見えてませんよ。焦りすぎです」

 「カーテン開いてるんだよ?!何考えてるんだよぉ、もう」

 照れるとすぐ怒鳴ってくるんだから。
 そういうところも、堪らなく愛おしいですけど。

 今の声でユノが戻ってくるかもしれないので、詰めていたジュンスとの距離をすこし空けて、ぷいっと外を向いてしまった彼の項をみつめた。

 「でもホント、さっきも言いましたけど、あなたの前向きさにはビックリさせられますよ」

 まだ拗ねてるんだ、とでも言いたげに、頑なに窓を凝視している姿が、可愛らしい。

 「とんでもなくポジティブですもんね、呆れるくらいに…でも、あなたがそういうふうでいてくれたから、ぼくもあなたの気持ちに応えられたんだと思います」

 瞼がぴくっと揺れて、今の言葉で彼の心がすこし絆されたのがわかった。

 「あなたじゃなかったら、大丈夫って思えなかったでしょうから」

 「チャンミン?」

 振り返る彼と目が合って、笑いかける。
 ぼくの気持ちに呼応するように、ジュンスもふふっとほほえんだ。

 「ヒョンが前向きでよかったな、と思って」

 ねぇジュンス、気づいてますか?
 ぼくは天の邪鬼で、あなたを揶揄ってばかりいますけど、こうして笑ってるあなたのそばではいつも、素直でいられるんです。

 あなたはもうずっと、そんなふうにぼくの特別だったんですよ。

 車から流れていく景色のなかで、桜の花びらが風に吹かれ、鮮やかな空に舞い上がった。

 「今年はふたりで行きましょうか。お花見」

 あなたの笑顔のとなりで見たい景色がある。

 ずっと心のなかにいてくれたことに、やっと気づいたから。
 これからはすべてを、ふたりで分かち合っていける。

 愛してるなんてまさかそんなこと、今のぼくにはまだ、言えませんけど…

 あなたはとても可愛い、前向きな、堪らなく愛おしい、ぼくのヒョンです。


         It has finished,
       at 03:30 July 6,2012
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