小説:ミンス完全妄想編

□患者と医者【起】
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Parallel world 1. 【introduction】
 キムジュンスさんとシム先生


 「はい、お大事にどうぞ。では、次のかた呼んでください」

 溜め息をつきながら腕時計を見た。
 その短い針が9を通り過ぎているのを見て、更に溜め息を重ねる。

 今日の診察の時間はとっくに過ぎていたが、それでも医者としては患者を見捨てて店仕舞いというわけにはいかない。

 空腹と疲労から逃げるようにカルテを捲った。
 ぼくと同じ運命をたどる仕事慣れした看護師さんが、次の人を呼ぶ声がする。

 「はい。お待たせしました、キムさん。キムジュンスさん、どうぞお入りください」

 その看護師に導かれ、男性が入ってきた。

 スーツ姿で、いかにも仕事帰りと言った感じの、疲れた顔をしている。
 体型はわりと整っていて、背も低いほうではなく、綺麗な肌をしている…少年、という印象だった。

 自分の向かいの椅子に彼を座らせ、問診票に目を通す。

 「今晩は。えー、今日はどういった…」

 え、一個上かぁ!見えないな、てっきり高卒の新人サラリーマンだと…
 あ、いやいや。そういうことじゃなくて。
 どれどれ、病状は、と。

 「あー、声が出ない、ということですね。まったく出ませんか?それとも、出にくいですか?」

 「…っ…く、………って…けじゃ、……ったん…………」

 彼は哀れな金魚のように口をぱくぱくさせてはいたが、そこからは殆ど空気しか出てこなかった。
 その様子がなんだか可笑しくて、込み上げる笑いを誤魔化すためにひとつ咳をする。

 「オホン。まったく出ないわけですね、わかりました。他に気になるところはありますか?たとえば熱っぽいとか、頭が痛いとか」

 彼は首を横に振りながら、いいえと口パクでこたえた。

 「そうですか。風邪ですかねぇ…咳とかはどうですか?喉が痛いとか?」

 また元気よく首を横に振る。
 どうやら体は元気なようだ。

 「とりあえず扁桃腺を見てみましょうか。口を開けてください」

 ふむ。虫歯なし、歯並びよし。口内環境はいいみたいだな…
 おっと、ぼくは歯医者じゃないんでした。

 
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