小説:拍手用番外編
□Tonight
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Extra chapter 14. Tonight
・Chapter 26.でチャンミンがお風呂に入っている間のジュンスです。チャンミンが悶々とする間、無邪気にゲームばっかりやっていた彼の心境とは。
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パタン。
静かに浴室の扉が閉められる音を聴いてから、ぼくはほぉっとひとつ溜め息をついた。
左耳に刺さったイヤフォンから聴こえる自分の声に埋もれながら、開いただけのゲーム機を枕に放る。
我ながら大胆なことをしたと思う。
ほっぺたにキスなんて、待ってるねって言うなんて…
うぅ、自分で思い返しても痛々しい。
なんかちょっとあからさますぎ?
い、淫乱だと思われなかったかなぁ?
チャンミンはちょっとだけ固まってた気がする。
引かれた?それとも驚いただけ?
借りたままの彼のiPodを勝手に操作して、普段どんな曲を聴いているのかぼんやり眺めながら、ベッドの上でゴロンと仰向けになる。
鼓膜に当たるのは相変わらず、聞き慣れない掠れた歌声。
曲が書けるってすごいですよね。
この曲をはじめて聴かせたとき、彼はそう言った。
どんな気持ちでつくるのか?
何を考えて?
詞はいっしょに浮かばないのか。
日本語の詞は書けないから。
そう言うと、韓国語でも詞は書けそうにないですよね、と彼は笑った。
だから、自分の言葉で詞を書いたことは、言わなかった。
この曲の詞は、誰にも聴かせることはないだろう。
誰に向けて書いた歌なのか、誰も知ることはないだろう。
いつかきみにだけ歌えたら、と思うけど、それも今はなんだか恥ずかしいな。
ぼくがほんとうのことを隠せるなんて知ってた、チャンミン?
ぼくは恋に落ち続けてる。
この曲はその気持ちの勢いでできたものだと思う。
どうやって、なんてわからないよ。
すきだなぁって考えてると歌いたくなるんだ。
歌はきみに似てる。
何度もぼくを恋に落とす。
きみも同じように感じたりするのかな。
この曲はぼくの思いを、きみのしあわせを描けてる?
チャンミン…
なんでぼくの曲なんて聴いてたの。
何を考えてるの?
素直にそう訊けていたら、ゲームするふりなんてしなかったら、もっと自然に言えたのかなぁ。
一日じゅう、訊こうかどうか迷ってたんだよ。
同じ気持ちでいてほしいと願ってたんだよ。
ねぇ、今日、これから…どうする?
どうしたいと思ってる?
それを確かめるにはどうしたらいいのか、ぼくにはわからなかった。
ふつうの人がどんなふうに…その…それをはじめるのかとか知らないし。
なんとなくわかるものだと言うなら、チャンミンはもしかしてその気がないのだろうか?
ああ、ほらね、勇気がなくなってきた。
あれから、ぼくはずっとそのことばっかり考えていた。
今日はここまで、と言ったチャンミンの言葉が、いつまでも頭を離れなかった。
じゃあいつ、どこまで?
待たないでと言ったはいいが、待たせないためにどうしたらいいのか皆目見当もつかなくて、今もひとり勝手に混乱し続けている。
スケジュール的に、なかなかふたりきりになれない。
家に帰ってもメンバーがいるのでそんな感じになることはない。
じゃあホテルに泊まるしかないんだけど、そんな時間的余裕もないし、オフまで待とうにもオフがない。
なので、ライブ続きのハードな日程がすこし緩んできたこの頃は、朝からギッチリ詰め込まれていない日を探すことにしていた。
できれば地方で仕事があって、ホテル泊になる日がいい。
それならわざわざ出掛けなくて済むから、疲れやすいチャンミンの負担も減らせるはず。
どのくらい時間を要するものなのか知らないけど、夜なんだから眠る時間とかも確保しなきゃいけないし。
毎日毎日ユノに次の日のスケジュールを訊いて、そのたびに訝しげに首を傾げられながら、やっとやっと今日そのチャンスが訪れたのだ。
他のメンバーのリハーサルを眺めながら頼れるリーダーに明日の予定を確認したとき、今日しかないと思った。
チャンミンと同じ部屋にする、と勢いよくユノに伝えたら、彼はよしよしとぼくの頭を撫でて笑った。
どうにもそわそわしてゲームばかり誘ってしまうぼくに、何も感じていないみたいに平気でふれてくるチャンミン。
こっちはあの日から、彼にさわられた感触がずっと、皮膚を離れない気さえしてるのに。
期待してるのは、緊張してるのは、ぼくだけなの?
目を閉じて、あの夜の気持ちを自分の闇のなかに思い描く。
ドキドキして、死にそうに苦しくて、でもどこか足りないような。
もっとふれていてほしいと願ってしまうような、不思議な気持ち。
ぼくの手を取って、ぼくをその長い腕いっぱいに抱きしめて、自分のすべてを差し出してくれた。
彼の言葉には間違いなく愛があって、ぼくのなかにも同じ熱があるのだから、それ以上理由は要らないように思えた。
甘く蕩けるキスをして、心深く寄り添って、ふたりの体温が互いに染み込むように。
ねぇ、きみにふれられることがどれほどしあわせか、わかる?
どう表現したらいいかわからないけど、あのざわざわする感覚はぼくをどこか知らない場所へ連れていく。
ねぇチャンミン、我慢できないよ。
もう堪らなく、どうしようもなく、きみにふれられたいんだよ。
きみにふれて、きみを感じて、そのちいさな震えにもしあわせを見出だせることを知った。
誰よりもそばで生きて、きみを放さないために、永遠にきみを着て、二度と脱ぎたくないとさえ思った。
ねぇチャンミン、気づいてるでしょう?
ぼくがどんなに望んでるか。
それがぼくたちのこたえだってこと、わかってるんでしょう?
目を開けると、白い天井がぼやけて見えた。
手のなかにすっぽり収まるちいさなミュージックプレイヤーを弄り、くるくるとそのリストをまわしているうちに、ようやくぼくの聴きたい曲に行き当たる。
入ってると思った。
移動中でも復習できるように入れてあるんだろう。
真面目だもんね、うちのマンネは…
その曲を選んで再生させると、今までとは違う激しい音に鼓膜を揺さぶられる。
今日、舞台裏で、彼が大勢の女の子の前でこれを歌うのをみつめていたとき、その迫力とあまりの美しさに、焼けつくような痛みさえ覚えた。
恋は盲目と人は言う。
痘痕も靨だとユチョンはしょっちゅうぼくを笑う。
わかるよ、ぼくだってジェジュンがユノユノ言うの解せないときあるもん。
だけど誰が見たってチャンミンはカッコよすぎるよね?
ぼくは恋に落とされ続けている。
チャンミンをみつめるたびに、彼の新しい一瞬をみつけるたびに。
それはもう、最初に逢ったときからたぶん、ずっとそうだった。
でも、今は手を繋いでいっしょに落ちていくことができる。
この心がきみに寄り添ってること、信じてもいいんだよね。
片想いでいたとき以上、人間がひとりの人を思えるその限界以上に、すきだよ。
これからももっともっとすきになれると思う。
チャンミンらしい強い高音が耳を劈く。
彼の声は独特で、低い音は若さが出て柔らかいのに、高くなればなるほどちからが込められて激しく、男らしくなる。
難しい日本語も多かったので、この曲はどういう内容なの、と訊いたら、彼は笑って、今の自分の心境そのものです、とこたえた。
結局どういう内容なのかは未だにわからない。
神経を集中させて発音の綺麗な彼の歌声に耳を澄ませる。
でも結局いつも、日本語を聞き取ろうとするぼくの努力は、チャンミンの声の繊細さや大胆さにいとも簡単に掻き消されてしまうのだった。
ぼくの胸のなかを埋めつくす、きみはまるで白く瞬く炎の玉のよう。
ねぇ、もっとぼくを征服してよ。
ねぇ、今夜、その光ですべて燃やしてしまおうよ。
きみとなら何も、怖くないから…
戸惑いがないとは言わない。
だって何もわからないんだもん。
でも、怖くはないよ。
きみに思われてるってこと、知ってるから。
片想いだった頃は、すきでいる感覚、どんどんすきになる感覚さえ、怖かった。
今は、すきになれるしあわせを噛みしめることができる。
すきになってもらえるそのしあわせを知ることができる。
きみをみつめるとき、ふれて、感じるとき。ぼくが何度も恋に落ちる、その数えきれないほどの瞬間も…
すきだよ、チャンミン。
誰よりも、何よりも、すきでいたい。
いつまでも、いつまでも、すきでいたい。
きみがこの心に灯す、絶えることのない熱情。
願うことも叶わなかったはずなのに、望むことさえ許されなかったはずなのに、ぼくはきみを手に入れた。
もう離すつもりはない。
たとえきみが苦しがろうとも。
ぼくには地声でいけないような甲高いサビを、チャンミンのちから強い声が駆け抜けていく。
叫ぶような、でも不思議なほど伸びやかな歌声が、頭をビリビリ痺れさせてくる。
彼が帰ってくる音が聴こえるように片耳につけたイヤフォンが、左耳から全身を荒く侵しては激しく揺さぶった。
チャンミンの出す音、ぼくを呼び、そばで笑うときとは違う、ひとりの歌い手としてたくさんの人を魅せる声。
この人のすべてがぼくのものにならないジレンマもまた、堪らなくぼくを惹きつけてやまない。
同じ時間を、確かに生きている。
そのなかで、思いを繋ぎ合うことができる。
自分の体のなかに、その隅々にきみが満ちていることを感じる。
ねぇ、通じ合うってすごいことだね。
伝えるって大切なことなんだね。
きみがすき。
その思いは最初から膨らむばかりだったけど、同じ気持ちをきみがくれるようになってからは段違いにおおきくなってる気がする。
計り知れない、自分でもわからない、どこまでも深いこの感情。
それは時にあまりにも横暴で、わがままで、とても手に負える自信がないよ。
だからこそ、いっしょにいたい。
きみにふれられるとき、激情にも似た思いがそこに押し寄せて、やがて穏やかに鎮まるのを感じるんだ。
きみにふれるときぼくは、強く生まれ変われる気さえする。
この心のなかにきみがくれた愛が、そのたった一雫が、隙間もないほどにどんどんぼくを飲み込んでいく。
ねぇ、ぼくはちゃんと知ってるよ。
ふたりで重ねた思いが奇蹟だってこと。
だからいつまでも感謝し続けるよ。
すきでいられること、すきでいてもらえること。
それがたとえつらく感じるときがあっても。
すきだと思う気持ちは、時に重くなる。
きみはぼくのなかに苦しみを生んで、その痛みはまたこの心に新しいよろこびをつくっていく。
そうして強く、確固たるものになる。
この愛はきっとそうなっていける…
だからね、チャンミン。
苦しいときは、そう言って。
そのときはきみを繋ぎとめる手を緩めて、すぐそばでみつめ合い、照れながらキスをしよう。
笑いながら、愛おしみながら。
そんなふうに続いていけたらいい。
きみに盗まれた魂で、この心で、必ずきみを守ってみせるから。
チャンミン、きみがぼくを信じてくれる限り、それ以上の信頼でもっともっときみのことしあわせにしてみせるよ。
心にも、体にも、ぼくのなか、ぼくのすべてにきみが満ちる。
息をすることさえできないほど。
その純粋さはまるで、降る雨に打たれる子どものように柔らかく。
その美しさは、神さまがこの大地の上に振り撒いた愛のように輝いて…
その思いを、ふたりで、今夜。
今夜………
…しかし遅いなぁ。
もしかして、ぼくの魂胆を見抜いてちょっとビビってる?
或いは焦らしてる?ううむ、大いに有り得るな。
待つのって苦手だ。無駄なこと考えさせられて、余計にハラハラしちゃって…
そうだ、そういえばゲームの本体に簡易辞書が内蔵されてるんじゃなかったっけ!
それで調べてみればいいんじゃん、この曲の歌詞。
細かいところはともかく、大体の内容は理解できるかも。そうすればチャンミンの今の心境だってわかる。
わぉ、ぼくって頭いーい!
そうと決まれば勢いよく寝返りを打って、枕の上に投げた哀れな機械を引っ掴んだ。
もしこの詞の意味がわかったら、きみの気持ちを確かめられたなら、今度はぼくからその覚悟を迎えに行くよ。
怖くはない。
きみとすべてを受けとめ合えると思う。
朝日のように暖かくて優しい、希望に満ちたぬくもりでぼくを、包み込んでいてね、チャンミン。
手を繋いで、名前を呼んで、きみがぼくのすきな人であることを何度でも確かめられるように。
きみに愛されるしあわせを自分のすべてで感じられるように。
そしてこの夜の終わりには、あの夏のようにもう一度、眠ったきみの腕のなかで…
It has finished,
at 00:00 December 3,2012
With all my thanks for your reading