小説:拍手用番外編

□ネ ヨジャチングガ テオジュレ?-A heartbeat away
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Extra chapter 13. ネ ヨジャチングガ テオジュレ?-A heartbeat away


・Chapter 21.の裏話。両想いになるやいなや、いきなり実家へ訪ねることになって奮闘したジュンス。その横で、一見飄々と過ごしていたチャンミンには、あのオフはどんな一日だったのでしょうか。


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 甘い香りのする夢から目を覚ますと、懐かしい天井に出迎えられた。

 しばらくぼんやり考えた後、のっそりと体を起こす。

 そうだ、実家に帰ってきてるんだった…
 湿った布団の上で頭を掻きながら欠伸をして、もそっと動いたとなりのベッドに視線を向ける。

 ジュンスはしあわせそうに寝ていた。

 あーあ、口開けちゃって…
 なんでうつ伏せに寝てるんだろ。
 枕に涎垂らさないでくださいよ?まったく…

 愛しくて思わず、額の痒そうな位置にかかっている前髪に手を伸ばす。
 暖かい肌の冷たそうな白と、眠りの扉を彩る睫毛の艶やかな黒。
 邪気も欲もない天使のような寝顔。

 天使に欲情するなんて、神の裁きが下るだろうか。
 それ以前の問題か、ぼくの場合…

 ふふ、と嘲笑を漏らしながら、すべてをどうでもいいと思わせるその赤いくちびるに目線を這わせた。

 昨日これでもかというほどそこにキスを落としたにも関わらず、ぞくぞくと背中が波打つ。
 昨晩の最後にしたキスを思い出して、堪えがたい熱情が頭を擡げてくる。

 不安を口にしたかと思えば、可愛くすきだと言ってみたり。
 結局、ぼくがどんな思いで同じ部屋に湿った布団を敷いたかなんて、ジュンスにはこれっぽっちもわかっていないのだ。
 ま、そこが可愛いと言ってしまえばそこまでなんだけど。

 眠りから覚めても、まだ夢のなかにいるみたいな感覚。
 ねぇジュンス、あなたも現実感がなくて不安だったかもしれないけど、ぼくだって同じなんだよ。
 偉そうにいろんなことを言ったけど、あなたを思うことにさえまだ心は慣れてない。

 そっと掻き混ぜるように髪を撫でると、ぼくの手のなかいっぱいに彼の子どもみたいな甘い香りが染み込んでくる気がした。

 ああ、夢のなかで嗅いだ香りだ…
 毎日飽きるほどそばにいて、毎日同じ部屋で寝起きしているというのに、彼の夢を見るほど足りないなんていったいどういうことなんだろう。

 鼻の頭にキスしたら起きるかな、と思いながらみつめていると、廊下を滑る微かな足音が聴こえた。

 起きたか…
 闘ってこなくちゃ。

 立ち上がって布団を畳み、音を立てないように着替えを済ませると、名残惜しむようにもう一度眠る間抜け面を一瞥して、笑って部屋を出た。

 ジュンス。行ってくるよ。

 ぼくの恐怖も、緊張も、不安や悲哀もそのすべてを、あなたがいっしょに抱えてくれてるってわかってるから、ぼくは逃げないでいられる。

 簡単な身仕度を終えてリビングに入ると、母はキッチンで朝食の用意をしており、父はテーブルについて新聞を読んでいた。

 「お父さん。おはよう」

 「ああ、チャンミン。昨日は遅かったみたいだな。メンバーのかたを連れてきたって?」

 「そうなんです。まだ寝てますけどね」

 ぼくは緊張を声に出さないように気をつけながら、彼の向かいに腰をかけてその視線がこちらに向くのを待った。

 老けたかな、すこし。
 毎日見ていたはずの顔も、こうして久しぶりに見ると不思議と新鮮だ。

 「元気そうでよかった。仕事はどうですか」

 「変わったことはないよ。生徒からおまえの話ばかり訊かれて困ってる。もっと勉学にも興味を持ってほしいんだがな。おまえは?」

 「忙しいけど、充実してます。勿論時間が空けば勉学に勤しんでますよ。お父さん?」

 ぼくの呼びかけにこたえて、彼は顔を上げる。
 吐きそうなほど心臓が脈打っていることだけはどうか悟られませんように。

 「話があるんですけど。お母さんも」

 彼女は洗い物の手を休めずにひょこっとこちらを覗き込む。

 「わたしも?」

 「うん。手が空いてからでいいので」

 「別に今でいいけど…めずらしいわね、わたしまで呼ぶなんて。大切な話?」

 丁寧に手を拭いた後、彼女は当たり前に父のとなりに座り、ぼくにほほえみかけた。
 ぼくは曖昧に頷くことしかできず、ふたりから目を逸らす。

 「まぁ…そうなるのかな。すくなくとも、ぼくにとっては。ただ、すごく…驚かせてしまうとは思います」

 怖くない、と思うのは、やめようと思った。

 大切な人を失望させてしまうかもしれないときに、怖くないほうがおかしい。
 それでも、これがぼくの決めた道だから。
 誰に咎められても貫けると信じたのだから。

 父と目を合わせると、彼はすこし目を細めてから、ちいさく二度、頷いた。

 「話しなさい」

 はじめてテレビに出たときも、このときほどは緊張しなかった…気がする。
 まわりに仲間がいたからかもしれない。
 親しくはなくても、孤独じゃないというだけでおおきかった。

 今も、ひとりじゃないよね、ジュンス。
 ここにいるよね。
 同じ気持ちで、ぼくの心に…

 あなたでよかった。
 誰よりも信じられるから。

 「今ぼくの部屋で寝てるのは、ジュンスヒョン…キムジュンスさんなんですけど。知ってるとは思いますが、事務所の先輩で、歳はぼくよりひとつ上で、上から四番目のメンバーの」

 彼らは口を挟まずに、それで?という目でぼくをみつめている。
 その静寂が、次の言葉を躊躇わせた。

 息を吸う音さえ痛かった。

 「その人と、ぼくは…つき合ってます。彼は、ぼくの恋人です」

 こんな状況でも、その言葉は、空気に溶かすとどこか、すこし誇らしい響きに感じられた。

 ああ、緊張した!言ってしまえばこっちのもんだ。
 もう後戻りはできないのだから、なるようになるしかない。

 ぼくの告白を噛み砕けずにいる両親の前で、せめて堂々とした姿勢だけは崩さないでいようと心に誓いながら、ぼくはなぜかジュンスと交わした最初のキスを思い出していた。

 蕩けるほど柔らかいくちびるで、精いっぱいの思いを伝えてくれたあの日。

 きっと死ぬほど勇気を出してくれたんだろう。
 こんな気持ちだったんだろうか。もっとドキドキしたかな?
 あなたを煽ってニヤニヤしていたぼくは、その清らかな瞳にどう映っていたのだろう。

 その気持ちを軽く見ていたことが恥ずかしくて、自分の心に素直になるのが難しくて、結局あれからいくつもの夜を、朝を、うまく話せないまま過ごしてきた。

 あなたには一生言わないでいるつもりだけど、たぶんあのとき、ぼくはもうあなたをすきだったと思う。
 それを考えると過酷なほど待たせたなぁ。
 でも、それさえきっと、ぼくには必要な時間だった。

 心いっぱいにはじめて感じる感情、浮き立つような、苦しいようなこのときめきがなんなのか、自分に充分納得させることができたから。

 あなたは怒るかな。自分勝手だって…
 それでもいいって言ってくれるかな。
 どっちにしても、もうぼくはあなたのものだよ。
 そう言ったら笑ってキスをしてほしい。

 「その報告をするために帰ってきたのか?」

 父の鋭く刺さるような一言で、ぼくは遠い夏の夢から帰った。

 現実はあまりにも静かで、ぼくはその中心で時間が過ぎることを祈っていた。

 「まぁ…そうです」

 
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