小説:拍手用番外編

□Hey! Girl
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Extra chapter 12. Hey! Girl


・ユンジェです。Chapter 20.でミンスが結ばれた夜、手に手を取って意気揚々と弟たちに見送られた年長者カップル。翌朝ふたりはどんな時間を迎えていたのでしょうか。


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 彼よりも先に目覚めて、シーツに溶けるその白い肌をみつめていた。

 その細やかな神経の持ち主を起こさないようにぴくりともせず、指を滑り落ちるさらさらの髪にふれたい衝動を抑え込んで、眠りの海に沈む横顔を眺める。

 不思議なほど、満たされていた。
 我ながら単純だとは思うけど、自分の帰る場所、守るべきものはここにあったのだと、そう感じられた。

 迷いも戸惑いもない。
 ただ今まで知らなかったほど深い愛しさに苛まれ、溺れていく感覚。

 彼を心から愛していると思った。

 「ん…」

 気怠く甘えた声を出して、こちらに擦り寄ってくるように寝返りを打つジェジュン。
 燻っていた昨夜の情熱にまた火を灯すように、体に熱がまわりはじめる。

 これまで出逢ったどんな綺麗な女性よりもおれを掻き立てる、蠱惑的な恋人。
 溶けるように柔らかなくちびるも、滑らかで一点の汚れもないミルク色の肌も、友だちでいた頃は想像もしなかった彼の堪えるような声や表情、仕種も。

 ジェジュンといるとき、おれの視界には他のものが映らなくなる。
 いつも彼を追いかけ、彼の上を彷徨って、その新しい姿を見逃すことのないようにと胸を踊らせながらみつめている。

 彼がそれに気づいたときに見せる、しあわせそうなほほえみ。
 ただそれだけで、自分という存在のすべてが報われたような、愛されるしあわせに取り込まれるような、そんな隙のない充実感に満たされるのだった。

 ジェジュンの特別さは、おれのなかで日に日におおきくなっていく。

 つき合いはじめる前からそれ以上ないくらいに特別だったのに、知れば知るほど、となりにいる時間を重ねるほど、彼はおれにとってどんどんかけがえなく、大切な人になる。

 もしかしたら自分も、出逢ったときからこの人に恋をしていたのかもしれないとさえ思えることもあった。

 ジェジュンは美しい。
 はじめて見た日から今日まで、たくさんのことが変わってきたなかで、その思いだけはずっと変わらなかった。

 宝石の輝きや空を青くする光、この世に溢れるどんな美しさも比べものにならないほど、髪も、指も、声も、心も、頭の天辺から爪先まで、彼の持つすべてがあまりにもおれには完璧で、愛おしくて。
 いつの間にか、愛せるかどうかと悩んでいたことも忘れて、この心のすべてを持っていった人。

 その瞼がゆっくりと抉じ開けられ、黒くまるい瞳が自分を捉える様を、おれはじっと見守っていた。

 「んー、ユノ…?早いね、おはよう」

 見られていたと気づいたのか、彼はすこしはにかみながら蕩けるような眼差しでおれを見る。
 堪えがたい誘惑に駆られ髪に指を差し入れると、なついた猫のように体を寄せてくるジェジュン。

 裸同士の肌が擦れ合う。

 「おはよう、ジェジュン。よく眠れた?つらくない?」

 枕に肘をついて話しかけるおれを見上げ、彼は笑いにも似た溜め息を漏らした。

 「ん、大丈夫…もう朝?ねぇユノ、友だちと遊ぶ約束があったなら、行ってきていいよ。あんなの冗談だから。おれ、おまえのすべてを縛りたいと思ってるわけじゃないし…」

 みつめ合えば、それが彼なりの思いやり、そして強がりだとわかる。
 わがままを言われるのもすきだけど、こういう姿もまた愛おしいし、堪らなく愛情をそそられる。

 おれは髪を払うようにそっと、彼の額を撫で上げた。

 「そばにいるよ。今日はずっといっしょにいたい」

 「もう断っちゃった?じゃ、折角だから出掛けようよ。晴れてるし、車なら…あっ、う」

 思いっきり上体を起こして立ち上がろうとしたジェジュンは、腰を浮かした瞬間に表情を崩した。
 おれはその背中に腕をまわし、彼がちからを抜いても大丈夫なようにぐっと体を支える。

 「ジェジュン!無理するな、ほら座って。大丈夫か?」

 「ごめ、大丈夫…びっくりしただけだから。平気平気」

 「強がらなくていいよ。今日はゆっくりしよう。明日も仕事だし、それがいちばんの贅沢だろ?」

 痛いのか、情けないのか、ジェジュンは涙目でおれをみつめる。
 その顔が可愛かったので、頬に優しくキスをした。

 「愛してる。できるだけつらい思いをさせたくないんだよ」

 照れてふっと頬を綻ばせる彼を見て、また心に愛しさが溢れていく。

 いつだって、どんなときだって、おまえだけに伝えたい言葉。
 すべてを曝け出して吐き出した昨日の夜にも、あんなに空っぽになるほど何もかも捧げ尽くしても、おれの心にはたったひとつだけの愛が残されていた。

 ねぇジェジュン、おれ、わかったんだよ。
 何があっても、誰がおれたちを咎めようとも、この思いだけは消すことができないってこと。
 どんなものにも負けるはずないんだってこと。

 おまえがいれば何よりも強くなっていけること、あのときはっきりと、わかったんだ。

 彼は白く逞しい腕をおれの腰にまわし、肩に顔を埋めた。

 「ありがと、ユノ…なんか、不安になっちゃって。はは…こんなにしあわせなのにおかしいね。おれ…」

 暖かい彼の体を包み込むように抱きしめる。

 お互いが世の中を知らない愚かな少年だった頃から、ジェジュンが得体の知れない影を背負っているのは知っていた。
 それはたぶん、自分は何者なのかという絶望。
 そしてそれごと自分を受け容れてくれる存在があるのかと、ずっと問い続けてきたんだと思う。

 最初から、彼のその脆さ、そしてそれを補って余りある優しさという名の強さに、友人として、人間として、惹かれていた。
 そんなふうに過ごしていくうちにおれのなかに入り込んで、いつの間にかおれのすべてになった人。

 今はもう、この瞳の向くほうにも、歩き続けるその先にも、おまえがいるよ。
 たったひとり、おまえだけに向けて、愛を捧げ続けるよ。
 ずっと、ずっと。ねぇ、ジェジュン…

 「どんなに不安になっても、いつだっておれがおまえを満たすから。おまえの生きる意味はここだって教えてあげるから。いいんだよ、ジェジュン…弱くたっていいんだ。おまえのぜんぶ、おれが受けとめるよ」

 この腕のように、揺るぎのない気持ちでその哀しみを包み込もう。
 もしも信じることができないときは、わかるまで何度でも言葉にして伝えよう。

 愛してるよ、ジェジュン。
 いつかはこの言葉が、おまえの抱えるすべての影を払えると信じてる。

 永遠の愛などないと言う人々に惑わされないで。
 そんな信頼さえないと言うその言葉を真に受けないで。
 だって誰にもわからないじゃないか。
 おれたちの愛はそうかもしれないじゃないか。

 与えられた人生のなかでたったひとつ、その真実の愛が訪れるときがくる。
 そのときになれば誰もが、永遠の意味に気づくだろう。

 ジェジュン、これがおれたちにとってそのたったひとつだと信じてくれるなら、おれのすべてはもう、おまえのものだよ。
 生まれる前に分かたれたこの心の半分は、その胸のなかにある。

 「ユノ。ユノ。ユノ…」

 彼の美しい声が涙に揺れる。
 くるみ込んだ腕で背中を撫でてやると、ジェジュンはおれの肩の上で静かに泣いた。

 この儚さを守っていけるのは、おれだけだ。
 誰よりもこの人の生きる意味でありたい。
 これからはおれ以外のものに自分の存在意義を探さなくてもいいように。
 どんな事情の前でも、他の誰でもないジェジュン自身を愛することができるとわかってもらえるように。

 おれの腕のなかで身を捩り、すこし体を離して、湖のように濡れたその瞳でまっすぐこちらをみつめてくるジェジュン。
 その赤い、誘うようなくちびるが、ゆるやかに開かれる。

 「愛してるよ、ユノ。どうしようもないくらい…怖いくらい、すきだよ」

 「おれもだよ、ジェジュン。同じ気持ちでいるってこと、忘れないで。どんなときもおまえを孤独に帰しはしない。それを忘れないで」

 みつめ合った瞳の奥で、彼を思う気持ちが強くおおきく膨らんでいくのを感じる。
 この心のなかにあるおまえという新しい輝かしい世界はもう、終わることを知らない。
 ずっと強く、もっとおおきくなっていくよ。

 深い深い海とちいさな宇宙を湛えて光るその眼差し。
 そこに吸い込まれるように、甘く導かれるように、どちらからともなくキスを交わした。

 ねぇジェジュン、もう何も怖がらないで。
 おまえがそばにいてくれるのなら、こうしていられる時間があるのなら、おれは何も怖くはない。
 他に何も要らないと思えるよ。

 おまえのそばにいるとき、自分がまるで完全な人間になれたように感じるんだ。
 これまで知らなかったようなちからに満たされる。

 おれのなかに迷いはないよ。
 おまえと生きること、おまえを愛していくこと、もう世の中に堂々と示していくことができるよ。
 ねぇジェジュン、こんな強さを、こんな愛しさを、おれに与えてくれることができるのは、おまえだけなんだ。

 名残を惜しみながら離れたくちびるから、細い銀の糸が伸びた。

 「ユノ…ね、時間あるし、もう一回しよっか」

 「ええ?ダメだよ、無理させたくない。そっとしといたほうがいいよ、たぶん。テレビとか観よっか?」

 ジェジュンは笑いながら首にまわした腕でおれの体を引っ張り、ベッドに押し戻す。

 「大丈夫だよぉ、ほら筋肉痛とかも動いて治せって言うじゃん。まだ朝だしさ…ゆっくり………」

 そんな誘惑に勝てるはずもなく、閉めきられた分厚いカーテンの内側で、ジェジュンとふたりシーツの海に身を委せてたゆたった。

 家族も、友人も、メンバーも同じくらいすべて大切なのに、どんなものよりも大切だと思わせる人。

 親友としてずっとそばにいてくれたその時間のなかで、この心に最後の愛を植えておれを目覚めさせてくれた人。

 ねぇジェジュン、もう変わろうと思わないで。
 ありのままの姿を曝して、そのすべてをおれに愛させて。
 いっしょに知ろう。
 いっしょに乗り越えよう。
 怖くないってわかるまで、ずっと手を繋いでいくから。

 いっしょに生きていこう、ジェジュン。
 おれと、永遠に。


         It has finished,
     at 20:30 August 13,2012
With my all thanks for your reading

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