小説:拍手用番外編

□チャクン コベク-Your love is all I need
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Extra chapter 11. チャクン コベク-Your love is all I need


・Chapter 20.のチャンミン目線です。ジュンスに告白したとき、彼は何を思っていたのか。ジュンスの気持ちも知っていたはずのユチョンの行動も併せてお楽しみください。


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 「いい加減、ちゃんと言ってあげなよ」

 仕事終わり、ぼくはこれから最終電車で実家に帰るために部屋で鞄の整理をしていた。

 旅行というほどのものでもないので特に必要なものがあるわけではないが、こういう仕度はわりときちんとするほうだ。
 忘れものがないか、足りないものがないか、しっかり確認する。後で苛つきたくないから。

 その作業をさして興味もなさそうに開いた扉に凭れかかってみつめているユチョンが、低い声で言った。

 この人の言葉にはいつも、主語がない。

 それはぼくに対する挑戦なのか、それとも遊ばれているだけなのか。
 そのせいでいつも腹の探り合いみたいになって、気がついたらこちらが言いくるめられているのだ。

 経験上、こういう最初の段階でこちらから仕掛けると負けることはわかっているので、とりあえず次の言葉がくるのを待った。

 「結構参ってるよ。気丈に振る舞ってはいるけど…わかってるんだろ?」

 誰の話かは言うまでもない。
 ユチョンが保護者面で話をするときは、決まってあの人の話題なのだ。

 そしてこんなふうに忠告してくるってことは、ぼくが今あの人を傷つけてるってことだ。

 「勿論わかってます。でも、時間がつくれないんですよ」

 あまり黙っていると逆に言い逃げされてしまうので、当たり障りのない返事で間を持たせる。

 「ふたりになれないんです」

 「なるほど」

 連日の忙しさやスケジュールの緻密さをいやというほど知っているので、ユチョンは納得して頷いた。
 それからぼくの荷物を見て、眉を上げる。

 「明日は?別に帰省はこのオフじゃなくてもできるじゃん?」

 「ああ…」

 実家に持っていくすくない荷物を見下ろして、そのほうがジュンスのためになるのだろうか、と考える。

 気持ちをはっきり自覚してから、もう二ヶ月が経っていた。
 言わなきゃと思う一方で、どうしても恥ずかしいやら間が悪いやらで言い出すことができず、ぼくとしたことが彼とふたりになるたびに変に緊張してしまって、うまくいかないまま二ヶ月。

 やっと言えるかな、というタイミングのときに逃げられてしまい、そのままもう一度仕切りなおして話す時間もなく今日まできてしまった。

 ジュンスがぼくのこたえを誤解したことはわかってる。
 あの人はホンットに自分が思われていることに対して無自覚な人だから。
 ちゃんと言葉にするまでは、ぼくが彼をすきだなんて想像もしないことだろう。

 そしてユチョンも、ぼくがそれをわかってることをわかってる。
 だからこそこうして話をつけにきたんだろう。
 もしかしたら、ジュンスに何か相談されたのかもしれない。

 早く話をしなきゃいけないとは、ぼくだってずっと思ってる。
 思ってるけど…明日は…

 「ちょっと、大切な用があるので…明日は、どうしても」

 ふぅん、と笑って、ユチョンはぼくを見た。

 こういうふうに言えば、この人はそれ以上絶対に詮索しようとしない。
 だからこそ、話しやすくもあり、どこまでも理解できない人でもある。

 たぶん一生謎のままなんだろうな。
 それはそれで、別に不自由しないからいいけど。

 「いいよ。じゃあ、おれが時間つくってあげる。今日は何時に出るの?」

 つくってあげるって…
 今日?
 これから?

 「…二時間後くらいですかね」

 「よし、わかった。用意ができたらリビングにきて」

 ユチョンは最高に美しい笑顔を見せて、返事を待たずに出ていった。

 用意はもう殆どできてるんだけど。
 すぐ行ってもいいんだろうか。

 明日は逢えないから…
 できればぼくも、今日までに言えたらいいな、と思ってた。
 不安にしたままジュンスを置いていくのは心残りだし、不本意だ。

 ちゃんと言えるかな。
 できれば、照れたりしたくないんだけど。
 ジュンスはどんな顔するかな。
 きっと間抜けな顔するだろう。
 それから真っ赤になるだろう。

 ああ、なんか緊張してきた。

 部屋を出ると、風呂上がりのジュンスがぺたぺたと廊下を歩いてくるところだった。

 最早スリッパはどうしたのかと訊く気にもなれない。

 「あ。チャンミン…」

 可愛い顔でぼくを見る。濡れた髪と火照った肌。
 彼にふれて、どうにかして征服してしまいたいという欲がまた頭を擡げる。

 だけど、どう行動で示しても、それがすきだからだとジュンスに伝わっていないのなら意味がない。
 だからこの二ヶ月、彼にふれなかった。
 ちゃんと言葉にするまでは、そうしようと決めていた。

 まさか二ヶ月もかかるとは思ってなかったけど。

 「ヒョン」

 「そっか、今日から帰るんだっけ。あの、あれ…えっと、楽しんできてね。ゆっくり休んでねっ」

 ぼくが出掛ける格好をしているのを見て、ジュンスはぎこちなく笑う。

 ここで抱きしめてしまえたらどんなにいいか。
 明日もずっといっしょにいると言えたなら…

 「じゃあっ、髪乾かしてくるから」

 「あ…」

 言い逃げしてさっと部屋へ下がっていったジュンスを見送って、溜め息をついた。

 彼なりに精いっぱい、ぼくから逃げないようにしてるんだろう。
 空まわっているとはいえ、そんな健気にがんばってくれる姿がいじらしくて、愛おしい。

 早く言わなきゃ。
 ジュンスが待ちくたびれてしまう前に。

 リビングに入ると、すっかり準備を済ませたユノとジェジュンが、ユチョンと何やら話し合っていた。
 ドアが開く音に顔を上げた三人は、ぼくを見るなりニマーっと笑う。

 「な、なんですか…」

 いやな予感。ていうか確信。
 集まってこういう顔してるときは、絶対に何か企んでいる。
 それか人の不幸を楽しんでいるかどっちかだ。

 「いやー水くさいなチャンミン。相談してよ、そういうこと」

 ユノがドンとこいと言わんばかりにいい笑顔を向けてくる。
 ジェジュンはすこし感慨深そうに目を細めた。

 「やっと報われるんだね、ジュンス…あんなにがんばってきたもんね」

 ぼくはユチョンを睨みつけた。

 「ベラベラ話さないでくださいよ」

 「いずれわかることでしょ〜?それよりほら、ヒョンたち早めに出てくれるって」

 ユチョンは悪びれなくほほえむ。
 女性には羨まれるかもしれないが、ぼくはもういい加減この笑顔には辟易していた。

 なんでもかんでもこれで済まされると思ってるんだから。

 「チャンミン、しっかりな!告白は目を見て相手の心に届く言葉でするんだぞ。ファイティン!」

 「ジュンスをしあわせにしてあげてね。チャンミンにしかできないから。絶対大切にしてあげてね」

 「はぁ…」

 しあわせそうなバカップルに背中を押され、自分との温度差に若干引く。
 このふたりは今からデートなので、浮かれまくっているのだ。

 最後にユチョンにぽんぽんと背中を叩かれ、ぼくのうんざり度は上昇する一方だった。

 「チャンミンもふたりが出たらすぐに出てね」

 「え?」

 リビングでふたりきりにしてくれるんじゃなかったの?

 「いいからいいから。じゃ、ヒョンたちそろそろ出掛けられるよね〜?おれジュンス呼んでくるから」

 楽しそうな足取りでユチョンはリビングを出ていった。
 ユノとジェジュンは照れたようにはにかみ合って(決して見たくて見たわけじゃありません、目の前でやられたんです)、あろうことか手を繋ぐ。

 「じゃ、行こっか。ジェジュン」

 「うん、ユノ。忘れものない?」

 「おまえがいれば大丈夫だよ」

 やだぁ、もうっ!と言いながらふたりは仲睦まじくユチョンの後を追って出ていく。

 こっちがやだぁ、もう。
 絶対こんなふうにはならないぞ。
 人目も憚らずいちゃつくなんて公然猥褻も同然だと思いませんか?

 ていうかユノはジェジュンが殆ど必要なもの持ってくれてるから大丈夫って言ったんじゃないのかな。
 ま、どうでもいいですけど…

 ヒョンたちがいなくなった隙に、テーブルに乗せられたバスケットのなかのパンをいくつかこっそり鞄に入れた。

 電車のなかできっとお腹が空くだろうからな。
 明日の朝はユチョンとジュンスのふたりだから、こんなに必要ないはずだし。

 明日はずっと、ふたりでいるのかなぁ。
 自分が勝手に実家に帰るんだから、文句は言えないけど。
 折角、ジュンスから誘ってくれたのに…

 もう一日オフがあったら。
 そんな贅沢、望みすぎだけど。

 「じゃ、行ってくるねぇー」

 「何かあったら連絡しろよ。おまえらもオフ楽しんでなー」

 玄関からふたりの声がして、最後にもうひとつだけパンを鞄に詰めてリビングを出た。

 ユチョンと並んで立っているジュンスの後ろ姿。
 驚くかな、と思って静かにその後ろに立ってみる。

 「はいはい、行ってらっしゃーい。がんばってね〜」

 ユチョンはへらへら笑いながらふたりに手を振る。

 「行ってらっしゃい、ヒョン。家を出たら手を離してくださいね、お願いですから」

 ぼくがすこしおおきな声で挨拶をすると、案の定びっくりしたジュンスがこちらを振り返った。

 ぼくを見るつぶらな瞳。
 ちょっと仰ぎ見てくるその表情がとにかく可愛くて、つい頬が緩んでしまう。

 ユノとジェジュンがしあわせいっぱいの笑顔で出ていくのを見届けて、ユチョンと目を合わせた。

 「じゃ、ぼくも行ってきます」

 帽子を被り、鞄を持って、確かめるようにユチョンに頭を下げる。

 ユチョンはそれでいいと言うようにぼくの頭に手を置いた。

 「うぃ、気をつけてね。ゆっくりしといで」

 「ありがとうございます。ユチョンヒョンもいい休日を。ジュンスヒョンも」

 「あ、うん…チャンミンもね」

 心なしかすこし寂しそうな笑顔を向けられ、罪悪感で胸が苦しくなる。

 ユチョンは靴を履こうとするぼくに何食わぬ顔で話しかけてきた。

 「駅まで歩くの、チャンミン?大丈夫?」

 ええー?何それ?
 まさか車で送ってもらえって言うんじゃないでしょうね?
 めちゃめちゃ早く着きますよ、そんなの。しかも運転させてるときに告白するなんて危なすぎる!

 「ええ、まぁ夜ですし、そんなに遠くないですから。歩くにはいい気候ですよ」

 「まぁそうだね〜。でも寂しくない?ジュンス、ついてってあげたら?」

 ユチョンはぼんやり話を聞いていた(ホントに聞いていたのか定かでないけど)ジュンスを覗き込みながら言う。

 ジュンスは目をまるくした。

 「えっ?」

 寂しくないですけどね、別に。
 他のヒョンならともかく、ジュンスじゃあ護衛にもならないし。

 何はともあれ明らかにこれはぼくへの振りなので、ユチョンの芝居に合わせておこう。

 「送ってくれるんですか?」

 ジュンスのまんまるの目がぼくを、そしてユチョンを、順番にみつめる。

 「は、えっ?」

 「上着着ておいで、ジュンス。一応財布と携帯も持ったほうがいいよ」

 「あ、うん…財布と携帯ね。わかった…」

 
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