小説:拍手用番外編
□クリゴ…Holding back the tears
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Extra chapter 9. クリゴ…Holding back the tears
・Chapter 17.と18.の間のお話です。ユノとジェジュンが結ばれ、ジュンスとチャンミンの距離もかなり近づいていることを感じているユチョン。チームにふたつのカップルが生まれるなか、ひとり挟まれる彼の心境は。
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仕事終わりの空に、息を吐いた。
孤独を感じる夜というのは、誰にでもあるものだ。
たとえば月の出ない夜。
たとえば心を許せる家族が、友が、自分のそばにいない夜。
なんだかちょっと、家に帰りたくなかった。
寂しくて、誰かと肌を合わせて眠りたいような空洞を心に抱えながら、それでもひとりでいたいと感じていた。
時々、知らずに溜め込んだ不安を爆発させるように、急激に気持ちが落ちることがある。
マネージャーの運転する見慣れたバンが目の前でとまった。
言葉もなく乗り込んで、いちばん近くの座席に腰を下ろす。
たった一晩、もしも何もかもから解き放たれて自由をもらえるのなら、おれはその時間と引き換えに何を得たいと願うのだろう?
たった一晩でもいい。
家族のもとへ帰りたい…
無条件で自分を愛してくれる人がいる、あの場所へ。
叶わない夢と知っていたから、家まで走る無音のバンに揺られて、目を閉じた。
今日も空が綺麗だったな。
いつも違う表情でおれを楽しませてくれる、孤独な友。
当たり前のように詰め込まれた仕事の隙間、いつでも仰げばおれのそばにいてくれる。
そこに浮かぶ太陽に投げた自分の憂鬱が、おれと空の間に立ちはだかった眩しい雲に遮られた。
あの頃何も怖くないと思って描いた夢の、今や白くぼやけてしまった絵。
自分を隠すように甘く容赦なく振り撒いた、呆気なく風に消されてしまうような香り。
だからたぶん今日はこんなに不安定な気持ちでいるんだろう。
あの空に孤独を預けられなかったから。
いつも五人でところ狭しと乗っているバンにひとりで座っていることも、燻る寂寥感を増長させていた。
四人は先に今日のスケジュールを終えて家に帰っている。
たぶん各々いちゃいちゃしてることだろう。おれがいないと、ちょうどふたつのカップルで分かれられるから。
応援していないわけではない。
迷惑に思っているわけでもない。
特別で大切な四人だし、しあわせでいてほしいといつだって願ってる。
だけど、なんとなく…
寂しくなるのはたぶん、疎外感なんだろう。
勿論、おれたちはどうあってもチームで、それが変わることはないってわかってる。
メンバー同士がくっつこうが離れようがおれの立場は変わらないし、彼らの態度だって変わらないだろう。
わかってる。わかってるんだけど…
自分の居場所が狭くなってしまったような。
おれにとっての帰る家じゃなくなってしまったような。
邪魔者になってしまったような疎外感を抱いてしまう。
ジェジュンは気の合うヒョンで、おれのことを誰より理解してくれる優しい友人で、おれは彼がユノを苦しみながら愛してきたのをいちばんそばでみつめてきた。
ユノは責任感に燃える男で、おれの弱さを時に叱り、時に許してくれたおおきい友人で、そんな彼がジェジュンに愛されていつしか心を動かされる様を見守ってきた。
ジュンスは可愛い弟で、いつだっておれを笑わせることができるかけがえのない存在で、その純粋さゆえに報われない恋に落ちていくのをずっと知らないふりで眺めてきた。
チャンミンは頭のまわるマンネで、飄々とした態度でおれを気遣ってくれる実は甘えん坊の仲間で、ジュンスに纏わりつくおれに羨望と嫉妬の眼差しを向けるようになったのをおもしろく思ってきた。
誰よりも、彼らのしあわせを願ってきた。
だからこんな気持ちになるのは不本意なんだ。
確かにユノはどこからどう見てもノーマルだったからジェジュンの気持ちに応えたときには驚いたけど、チャンミンは理性的であまりに常識人だからジュンスの気持ちを受け容れられたのは意外だったけど、それでも彼らがしあわせならおれもしあわせに思えるはずなのに。
なぜ心からそれをよろこべない?
なぜ自分のなかに閉じこもって孤独をみつめている?
何もこたえない胸のなかでそっと心を移していけば、虚しさを抱えて通り過ぎた時間だけがそこに残されていた。
疲れていても眠ることができず、細く瞼を開いた。
街の灯りが車の速さに流されていく。
そんなふうに大切なものを見逃してきてしまった時間を憂う。
そのなかに取り残されている孤独な自分に、また手を合わせる。
どこかで聴こえているだろうその場所に、この声が届くように。
そこで生きることがどれほどつらくても、過去を振り返って泣くことがどれほど惨めでも、思い出じゃない確かな今を、おれは今日も生きていくよ。
生きていく。
同じ空の下に、大切な人が生きている。
どんなに遠くても…逢えなくても。
ユファン、こんなに弱いおれを愚かだと思う?
バカみたいだけど、おれはいつもおまえのそばにいるよ。
ずっといっしょにいる。おまえのしあわせをいつだって、この空に祈ってるから。
孤独じゃないよな。
繋がってるよな。
おまえがそう信じてくれてるってわかってるよ。
だから、おれも信じることができる。
どうしてもなくならない、空っぽにしてしまいたい痛みが、体じゅうから染み出るような涙を乾かしていく…
瞳がじわっと熱くなるのを感じて、またぎゅっと目を閉じた。
つらいときも、哀しいときも、この涙とともに生きていくよ。
心の重さが負担にならないように、落とさないように、なくさないように。
大切に繋いで歩いていく。
ただひたすらに目指す、近くもなく、遠くもないその場所に、別の自分が待ってるから。
おれは泣かないよ、ユファン。
泣かない………