小説:拍手用番外編

□I never let go
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Extra chapter 7. I never let go


・Chapter 14.でチャンミンに謎のキスをされ、混乱を極めるジュンス。Chapter 15.で話し合おうと決めるまでに彼のなかでどんな葛藤があったのか。


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 溜め息をついて、コントローラを床に置いた。

 いつもなら人の声も気にならなくなるはずのゲームに集中できずにいるのは、ワールドカップが終わって意気消沈してるせいでも、この夏の殺人的スケジュールを乗り越えた充実感に満たされているせいでもない。

 夜がやけに長く感じる。
 広いリビングを独り占めしていながら、誰かを揺り起こしてしまおうかという考えが頭をもたげた。

 これ以上ひとりでいることには耐えられそうにない。

 ひとりでいるとどうしても考えてしまう。
 これまでもう何万回も考えて、結局こたえを導き出せないでいることを。

 チャンミンのこと………
 彼のキスと、最後の言葉の意味。

 あれはなんだったんだろう。
 あの後三日間くらいは、本気で夢だったんじゃないかと思っていたくらいだった。
 とにかくもう意味不明で、解読不能で、考えれば考えるほどわからなくなって。

 まず、あのキスの意図がわからない。
 ていうかその前の会話から既にわからない。
 チャンミンは怒ってて、見たこともないような目をしてて、そして最後には泣いていた。

 それでも、なんとなくぼくにわかることといえば、たぶんフラれたんじゃないかなってことくらいだ。
 最後の言葉と、チャンミンの表情からして、そう思うのが妥当だろう。

 そりゃあ哀しいけど、わかってたことだったから。
 それよりもチャンミンが最後に見せた涙のほうが、よっぽど心を苦しくさせた。

 どうして泣いたの?
 何がきみを泣かせたの?
 言ってくれなきゃわかんないよ…

 ゲームを切り、チャンネルをくるくるまわしながら、溜め息をつく。
 深夜番組はひとりで観てもおもしろくないし、孤独を紛らしてもくれない。
 結局何をしてるときも、頭をめぐるのはチャンミンのことばかりで。

 どちらかと言えば、ここまでぎこちない態度を取ってるのは彼のほうだ。

 あれから二週間余りが過ぎ、当たり前のように忙しく流れていく日々のなかで、ぼくはあの日のことも、自分の気持ちも忘れようと、消し去ろうと努力してきた。
 平気なふりをしながら、それでもバカみたいに緊張して、やけに下手な挨拶を交わしたりしながら。

 それでも、急に知らない人のように遠くなるチャンミンと言葉を交わせるのなら、相も変わらずそれがぼくのすべてだった。

 何が原因だったのか最終的にはわからなくても、彼がぼくを避けようとしてるのは目に見えて明らかで、それを気にしないようにしようとすればするほど、ぼくの口調はぎこちなくなった。
 それ以上にぎこちないチャンミンの眼差しが、抉るように胸を刺し貫いていく。

 わかっていても、それでも今も、こうして精いっぱいの努力をしてしまうのは、きみのためなんだよ、チャンミン。
 こんなに今も張り裂けそうに胸が痛むことが、その理由でしょう?

 テレビを消して、静まり返った広いリビングのなかで、目を閉じる。
 四人はもう寝に行って久しい。たぶん誰ひとり起きてはいないだろう。

 二枚の扉を隔てた向こうにいるのに、さっきまで顔を見ていたのに、毎日飽きるほど同じ時間を過ごしてるっていうのに、ぼくはもう堪らなくチャンミンが恋しかった。

 たった一日も、ほんの一瞬も、忘れていることなんてできない。
 嘘でもすきじゃなくなることなんてできない。
 あの日から、どんなにきみがぼくから遠くなってしまったとしても…

 去って行かないで。
 どんな関係でもいいから、それ以上を望まないから、ぼくの胸で、永遠に。

 静寂がちくちく目頭を刺してくる。
 瞬きをするたびに訪れる闇が、あの夜の冷たい壁の感触と壊れそうな目をしたチャンミンのキスを思い出させる。

 どうしてぼくから離れたの?
 なんで何も言ってくれないの?
 何もわからないままで、ぼくはどうすればいいの。

 大丈夫だと言って、そばにいると言って、その優しさでぼくを守ってくれたあの日のほほえみも、今は違うのかな。
 すべて終わってしまったのかな?

 普段悩みごとなんて続かないぼくがこんなに長い時間ずっと悩み続けてるのも、きみのためなんだよ、チャンミン。
 もうぼくのなかにあるすべてがきみのためなんだ。ぼくがぼくでいる理由なんだよ。

 そのことが、どんなにチャンミンに望まれてもこの思いをいつまでも消せずにいることが、何よりもつらかった。
 チャンミンは何よりもそれを望んでいるんじゃないだろうか?

 だけどそれでも、たった一日も、ほんの一瞬も、心から消すことなんてできない。
 夢でもすきじゃなくなることなんてできない。
 たとえば今、あまりにきみはぼくから遠くなってしまったけれど…

 去って行かないで。
 どんな痛みでも堪えるから、きみの望みを叶えるから、この心で、永遠に。

 ソファに寝転がって、あんなに当たり前に毎日笑いかけていてくれたことを思って、すこし泣いた。
 そこに染みついているはずのチャンミンの匂いも、暮らしのなかで蔓延ったたくさんの香りに紛れて、今ではわからなかった。

 こんな日々もきっと長くは続かない。
 ぼくたちの関係は変わって、また違う時間がやってくる。

 だけどそのときもきっと、ぼくのなかではずっと、きみだけがすべてなんだろう。
 ぼくを生かすことのできるものがこの世にあるとすれば、それはただ、きみだけなんだよ。

 だから、心から消させはしない。
 きみが望むなら、ぼくはこうしてやっていける方法を探すよ。
 きみのためにそれをみつけるよ。
 だから、去って行かないで。
 ぼくの胸のなかでだけ、いつまでも密やかに、永遠にすきでいたいんだ。

 遠くへ行かせはしない。
 きみが困らないように、戸惑わないように。ぼくがそういう方法を探すから。
 いつだって道をみつけるから。
 だから、去って行かないで。
 この心は、きみのために、永遠に………


         It has finished,
      at 23:30 June 7,2012
With my all thanks for your reading

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