小説:拍手用番外編

□Drive
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Extra chapter 3. Drive


・Chapter.4 Chapter.5の間、秋の韓国で。久しぶりにもらった全日休のネタから生まれたお話です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 その日、ぼくは早く起きた。

 うるさく鳴る目覚ましをとめ、起き上がって頭を振る。

 起きなきゃ…
 朝ご飯食べる時間がなくなる。

 ぼくはいつもそうするように、となりのベッドを見た。
 既にベッドは整えられており、まだ寝ていてもいいはずの彼の姿はない。

 チャンミン、もう起きたのか?
 随分早いなぁ。何か用でもあるのかな?

 反対側のとなりでは、ユノが穏やかな寝息を立てている。
 ぼくは着替えて部屋を出て、洗面所へ向かった。

 毎朝寝ぼけ眼でぼくをみつめ返してくる鏡のなかの自分が、今日は明らかにうれしそうな顔で笑いかけてきた。

 ああ、休みだ!

 なんといっても、今日は全員一日オフなのだ。
 こんなこと滅多にない。半日オフはたまにあるが、丸一日なんの予定もないっていうのはデビューしてからははじめてなんじゃないだろうか?

 忙しいのは有り難いことだけど、やっぱり休みはうれしいものだ。
 ぼくは今日は久しぶりに友だちと集まって遊ぶ予定だった。

 身仕度を整えてリビングに入る。

 そこにチャンミンがいた。
 ぼくは急に押し寄せる愛しさに息を飲んだ。
 もう慣れたことなのに、今日もやっぱり彼の姿にドキドキしてしまう。

 「ヒョン。早いですね」

 彼は長い指を使って器用にネクタイを結んでいた。
 眩しいほど白いシャツ、紺色のスラックス、校章のついたジャケット、黒縁の冴えない眼鏡。

 ぼくは思わず唾を飲み込んだ。

 「おはよう…出掛けるの?」

 「ええ。折角休みですから、授業を受けてきます。コーヒー飲みますか?」

 やっぱり制服か!
 ぼくはヨダレを垂らしてしまわないようにもう一度唾を飲み込む。

 別に、コスプレがすきってわけじゃないよ?
 チャンミンの制服姿だって何度か仕事で見たことあるし、眼鏡も家ではしょっちゅうかけてるからそんなに興奮することでもない。

 でもやっぱり、リアル高校生スタイルっていうのは…萌えるなぁ。
 レア感も半端ないし、ぼくの知らない顔を見れたっていうのもうれしい。

 いやぁ、早起きするもんだなぁ。

 「ヒョン?」

 「えっ?あ、うん。飲む」

 学校へ行くのか。偉いなぁ、真面目だなぁ。折角の休みなのに…ぼくなら絶対遊んじゃうけどな。

 高校生姿のチャンミンはなんだかいつもより幼く、歳下らしく見えた。
 テーブルについたぼくのために、コーヒーとシリアル、そしてパンを用意してくれる。

 「朝ご飯食べますよね?」

 「うん。ありがと」

 ふたりで向かい合って朝ご飯を食べるのは新鮮だった。
 いつもはみんないっしょで、朝からギャイギャイはしゃいでる場所。
 静かに向き合っていると緊張してきてしまう。

 「こんな時間から登校するの?」

 チャンミンは左腕にはめた時計を見た。

 「そうですね、電車の時間があるので…」

 ぼくはシリアルの入った器から目線をあげて、パンを頬張るチャンミンに視点を合わせた。

 「電車で行くの?!タクシーじゃなくて?」

 「高校生ですから。以前のように、地下鉄で行きますよ」

 満員電車に乗らないでほしいと思うのはさすがに我が儘がすぎるだろう。
 でも…やだ。いろんな人と接触するじゃん!顔だって見られる。絶対危ないって!

 「バレるんじゃない?」

 「かもしれませんね。まぁテキトーにやり過ごしますから」

 そんなんでいいの?
 さすがチェガン、考えかたも最強ですなぁ。
 ぼくはあきらめの溜め息を漏らした。

 「気をつけてね」

 「ありがとうございます。ヒョンは今日どうするんですか?」

 「ぼくは…」

 友だちと出掛ける、と言いかけて、ふと口をつぐむ。
 最高のアイデアが閃いた。
 そうだ、それがいい!

 「チャンミン、学校が終わったら暇なの?」

 「え?あ、はい。まぁ」

 「じゃあさ、迎えに行くからいっしょに晩ご飯でも食べようよ!」

 それならすくなくとも帰りは電車に乗らなくて済むじゃん。どうせ友だち乗せるのに車出すからメンドクサくもないし。ぼくって天才かも。

 …でもよく考えたら、今のはかなり大胆な申し出だったんじゃないだろうか?

 「用事あるんじゃないんですか、ヒョン?」

 「ん?うん、でも夕方には終わるから」

 嘘です。友だちには悪いけど、夕方で解散にしよう。
 チャンミンの安全のためには多少の犠牲はしかたない。(ユノに怒られそう)

 いい返事を期待してチャンミンのほうを見ると、彼はうれしそうに笑ってくれた。

 「ふたりでご飯行くのはじめてですね」

 …そういえばそうだな。
 ってことは、ってことは、迎えに行っていいってことだよね?
 いっしょに晩ご飯行ってくれるってことだよね?

 わ、どうしよう!
 チャンミンと休日をいっしょに過ごせるなんて…こんなしあわせなことはない。

 「そうだね。他に行きたいところとかある?連れてってあげるよ?」

 「え。もしかして車出してくれるんですか?タクシーじゃなくて?」

 「うん。用事で車使うから、ついでに」

 うわー、ぼくカッコイイ!今すごくヒョンっぽい!

 「じゃ、ドライブ行きたいです。人のいるところに行くより面倒がないし、ぼくは制服だから行けるところも限られますし。どうですか?」

 どっ、ドライブ…なんか、考えすぎなんだろうけど、それって…
 デートみたいじゃない?
 キャー、キャー!どうしよー!

 「いいよ。どこ行きたい?」

 「ヒョンのすきなところへ。お気に入りの景色が見られる場所へ連れていってください」

 ひー、そんなこと言って大丈夫?!ムード満点のスポットで襲いかかっちゃうかもよ?(ゴメンナサイ、そんな勇気ないです)

 チャンミンはもう一度時計を見て、立ち上がった。

 「じゃ、ぼく行きますね。場所わかります?」

 「ナビついてるから大丈夫だよ」

 チャンミンはぼくを見て笑う。
 きゅっ、と喉の奥が苦しくなる。

 「終わったらメールしますから。行ってきます」

 「うん。後でね」

 制服姿の彼の背中をみつめるのは、最高にしあわせだった。
 あの貴重な格好のチャンミンを助手席に乗せて走れるのだ。明日死んでもおかしくないほどの幸運。

 はじめてのふたりきりでの外出だ。

 四時すぎに友だちを送り届けて別れるとき、ぼくは緊張と興奮の入り混じったライブ前のような心境で彼らに手を振った。

 そしてナビに登録した彼の高校まで車を走らせる。

 車内に流れる自分たちの歌声に、ひとりでに笑みを漏らしていた。
 これを聴いてチャンミンはなんと言うだろう?考えるだけでワクワクする。

 どこに連れて行こうか朝からずっと迷ってたけど、お気に入りの景色と言われていちばんに思いついた場所に行くことにした。

 ぼくの田舎。
 なんにもなくてつまらない思いをさせてしまうかもしれないと思ったけど、なんにもない故に景色は綺麗だし、ぼくが世界でいちばん美しいと思う夕暮れのなかにチャンミンを連れて行ってみたかった。

 今は秋だから、風を受けて黄金色に波打つ稲穂の海が見れるだろう。山々は色づき、一年で最も多い彩りを見せてぼくらを迎えてくれる。

 その景色を眺めるとき、ぼくのすきなあの円らな瞳が、夕日のように優しく輝くといいな。

 ひとりきりの車内を包み込むぼやけた音楽のなかで、頬が火照ってくるのを感じて窓を開けた。
 チャンミン、きみのもとへ向かってるよ。今、何を思ってる?

 となりに座るんだって考えるだけで、ドキドキしてしまう。
 いつだってぼくの思考のなかにきみはいつの間にか入ってきて、心を掻き乱し続けるんだ。

 何を話そう。どんな顔すればいいんだろ。間が持つだろうか?
 何も話せなくても、一度も目が合わなくても、チャンミンといられるだけでしあわせだけど…
 できれば今よりもうすこし、ほんのすこしでいいから、距離を縮められたらいいなぁ。高望みかな?

 ねぇチャンミン、ぼくが息をしてるのも、瞬きを繰り返すのも、きみがすきだからなんじゃないかって思うときがあるよ。
 今こうして車を走らせてることも。きみへの思いがぼくを動かしてるように感じる。

 こんなふうにアクセルを踏めば簡単に、チャンミンと近づけるならなぁ。
 きみへ辿りつく場所までぼくを、新しい世界のなかへもっと近く、もっと速く、連れて行ってほしい。
 もっと遠く、もっと深くへ。

 同じ時間を過ごせるとき、ぼくはきみをしあわせにできてる?
 いつもきみをしあわせにしたいと願いながら見守るこの思いを感じてくれてる?

 チャンミンを思い、しあわせを願い、記憶のなかの笑顔を思い浮かべるたびに、狂おしいほどの愛しさに息がつまる。

 ねぇチャンミン。
 そばにいて、きみをしあわせにしたいと思うこの気持ちが、ぼくの愛だよ。
 今この瞬間、きみのいる場所へぼくを導き動かすこのちからが。

 これが愛なら、きみがぼくのすべてなら…
 このちからの限りどこまでも駆けていきたいよ。


         It has finished,
     at 02:30 March 30,2012
With my all thanks for your reading

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