小説:拍手用番外編

□ミドヨ-Believe
1ページ/1ページ



Extra chapter 2. ミドヨ-Believe


・Chapter 2. とChapter 3.の間くらいの設定です。みんなで過ごすいつもの夜、チャンミンの一目惚れの相手とは?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 夜になると、ぼくたち五人は宿舎のリビングに自然と集まる。
 ご飯を食べたり、お風呂の順番を決めたり、暇を埋めたりするために。

 今日も当たり前のようにぼくらはそこにいた。
 ユノとジェジュンはソファで寄り添ってテレビを観ている。
 ぼくとユチョンはカーペットの上に胡座をかいて携帯用ゲーム機で対戦してい…た。今、終わったところ。

 三試合連続でぼくに負けを喫したユチョンは、床に倒れ込んで天井とにらめっこしている。
 ぼくは息抜きにジュースでも飲もうと立ち上がった。

 テーブルではチャンミンが、野暮ったい眼鏡をかけて(それでも充分可愛い)何冊か本を広げている。

 「チャンミン。また勉強?」

 今年が入試のチャンミンは仕事に勉強にとても忙しい。
 それでも音をあげずにこうしてひとり黙々と机に向かう姿はすごく素敵だと思う。

 それがお父さんとの約束なんだって。うーん、カッコイイ。こういう真面目さはぼくにはない。

 「はい。今はちょっと息抜きに日本語の勉強をしてますけど」

 ああ、そう。息抜きにね。

 「なんだ、日本語の勉強なら呼んでよぉ。ぼくにも教えてくれないと」

 チャンミンは笑う。

 「ヒョン今までガッツリゲームしてたじゃないですか」

 「ユチョンとやってるときはどうせすぐ終わるからさぁ〜」

 「いつもそうみたいに言うなよ、ジュンスぅ」

 ユチョンが起き上がって抗議する。
 チャンミンは笑ったまま、机に向いていた体を背凭れに預けた。

 「いつもそうじゃん。何か覚えた、チャンミン?」

 「日本語ですか?そうですねぇ、まぁ多少は。あ、ひとつ素敵な言葉を覚えました」

 ぼくは冷蔵庫からペットボトルのオレンジジュースを取り出して、とりあえず飲んだ。
 ユチョンはピョンと立ち上がってチャンミンの向かいの席に腰かける。

 「何なに〜?」

 空になったペットボトルを軽く洗う。

 「ヒトメボレ」

 冷たい水に濡れた手を、柔らかいタオルで拭く。
 聞いたことのない言葉だった。

 「ヒトメボレ?」

 「はじめて逢った瞬間にすきになるっていう恋の落ちかたのことらしいんですけど」

 「へぇ!ロ〜マンティックぅ〜」

 ユチョンはテーブルに肘をついて、チャンミンに柔らかいほほえみを見せた。

 はじめて逢った瞬間にすきになる?

 それって…それって…

 「ヒトメボレって名詞があるんですって。ヒョンは経験ありますか?」

 「おれはどうかな〜?なんかどれもそうな気もするし、ぜんぶ違うような気もする。チャンミンは?」

 眉を顰めて首を横に振るチャンミン。

 「ぼくはないですね。綺麗な人はすきですけど、恋に落ちるまではいかないです」

 ふぅ〜ん…綺麗な人ね。へぇ〜…
 わかってはいたけど、当てはまらないなぁ、ぼく…

 綺麗な人って言ったっていろいろいるじゃん?清楚な感じ、優しい感じ、真面目な感じ、明るい感じ、おとなっぽい感じ…

 「ジュンスは?」

 ぼくはユチョンのとなりに座った。

 「ぼくは…」

 意識したわけじゃないけど、つい視線がチャンミンのほうへ向いてしまう。

 彼はまんまるの瞳で問いかけるようにぼくを見ていた。
 目が合って、訳知り顔でほほえんでくる。

 「ぼっ、ぼくもないかなぁ」

 「ふぅ〜ん。意外とないもんですね」

 何かに納得したように頷くチャンミン。
 その眼差しがぼくの心を見透かしているようで、なんか不気味だ。

 チャンミンにすきな人の話をするときはいつも緊張してしまう。
 バレないように気をつけながら喋るんだけど、ぼくは考えながらものを喋るのが得意じゃないので…時々こんなふうに、咄嗟に嘘をついてしまうことがある。

 一目惚れ。

 チャンミンと最初に逢った日を思い出す。
 あの、ぼくを茫然とさせた衝撃。心が締めつけられるような、息のつまる恋しさのような感覚。
 あれは確かに…

 「そういう恋してみたいですね。出逢った瞬間ドカーンみたいな」

 「ひゅぅひゅぅ〜チャンミーン。そういう恋は冷めるのも早いよぉ〜」

 「なんて夢のないこと言うんですか、ヒョン」

 ユチョンは意外と現実主義者だもんね。
 一目惚れってタイプじゃないし。そんなこと言ったらぼくだって別にそんなタイプじゃないけどさ。

 でもぼくは信じるよ。一目惚れってあると思うんだよ、ユチョン。

 チャンミンにこの恋を軽いものだって感じてほしくなくて、ついそうじゃないみたいに振る舞っちゃったけど。

 はじめて逢ったその瞬間からもうずっと、朝起きてから夜眠るまで一日中、チャンミンのことばかり思ってきた。

 そばにいられるのなら、この気持ちの丈をいつか伝えられるだろうか。
 結局チャンミンは何も知ることはないんだけど…ぼくがどれだけチャンミンのことをすきなのか、気づくことはないんだろうけど。

 「運命ってそういうものでしょう?ね、ジュンスヒョン?」

 「ん〜?そうだね、そうかもね」

 ふふっと笑うチャンミンの柔らかい表情が、ぼくを苦しくさせる。

 いつもこうしていられたらいい。
 すこしだけぼくが安心できる距離で、いつでもみつめていられるくらい近くで、きみを思って苦しんでいたい。
 こうして思っていられるだけでも、すごくしあわせだよ。

 「運命かぁ〜。まぁここにこうしていられるのだってある意味そうだもんね」

 何かを悟ったかという口調で沁々言うユチョン。
 チャンミンは頷いて、ぼくを見た。

 「ホントですよね。あ!ぼくはあれですよ、ジュンスヒョンにヒトメボレしたんですよ」

 ドッキーン!

 何っ、何なに?!チャンミンが?ぼくに?ヒトメボレぇ?!

 詳しく訊きたいところだけどパクパクするばかりで言葉が発せられない。
 ユチョンは笑いながら、でも怪訝そうに聞き返した。

 「ジュンスにぃ?」

 「はい。はじめて逢ったときに、ジュンスヒョンの」

 バックン。バックン。バックン…

 「歌声に惚れましたね」

 うぉ〜!
 期待するまいとは思ってたけど〜!
 まぁでもこの褒め言葉はフツーにうれしいけど!よろこんでいいところだけど!
 でもやっぱり…やっぱりね。

 ユチョンはさらに笑う。

 「わかるぅ〜!ジュンスが最初に歌ったときおれも超ビックリした!ギャップが半端じゃないよね」

 「ですよねぇ。あれには運命的な衝撃を感じました」

 運命的な衝撃。
 ここまで褒められると悪い気はしないな。っていうか…素直に…
 めっちゃうれしい。

 目の前に映るチャンミンの笑顔。
 この思いのすべてを送るつもりで、ぼくは視線いっぱいに映る彼をみつめた。

 気づかれたくない、でも伝え続けていきたい思い。
 知られてしまったらそばにいられなくなるという不安でさえも、きみの言葉が拭い去ってくれる。

 「さて。そろそろ寝るかね〜」

 ぼくの魅力についての話が終わったらしく、ユチョンがのっそり立ち上がる。
 チャンミンもテキストを閉じて眼鏡を外した。

 「ですね。ジュンスヒョン、起きてますか?」

 「起きてるよぉ!見ればわかるでしょ」

 「褒めてるのに返事がないので寝てるのかと思いましたよ」

 となりで笑ってくれることがうれしい。
 こうしてからかい合える時間が愛しい。
 ずっとそばで笑っていてほしい。

 歌で繋がれたぼくらの運命を信じるよ。
 離れていかないと。ずっとそばにいてくれることを…

 きみはぼくの生涯でたったひとりの一目惚れだって、信じてるよ。チャンミン…

 だいすきだよ。
 きみを思う自分の気持ちを今は、信じてる。


         It has finished,
      at 03:00 March 6,2012
With my all thanks for your reading

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ