小説:Bigeastation編31~

□38:Bigeastation 38.
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Bigeastation 38. 2007/12/16~22


 「ホントに死ぬかと思ったよ〜」

 楽屋の椅子にぐったり倒れ込みながら、ユチョンは呟いた。

 チャンミンは彼に水を手渡しながら、そのとなりに腰かけて優雅に足を組む。

 「無事終わって何よりです」

 「チャンミン、おれを殺そうとしただろ?」

 「まさか!なんでぼくが?明らかに要因はあの人じゃないですか」

 その言葉にふたり揃って向かいに座るぼくを見る。
 すぐ横で、ユノに凭れかかっているジェジュンが、ふふっと笑みを漏らした。

 「そこの三人が揃うといちばん騒がしいよね、収録」

 「それもぜんぶあの人のせいです」

 「なんでだよ!明らかに煩かったのはそっちのふたりじゃんかっ」

 ぶーたれながら水を飲み、喋り疲れた喉を潤した。

 ユチョンとチャンミンとの録りのときは、確かに楽しいんだけど、ものすごく疲労する。
 このふたりはいっしょにいると笑ってばっかりで、全然喋んないんだから!
 ぼくの仕事がすごく増えるんだよ、まったくいい迷惑だ。

 「ヒョンが笑わせるからぼくたちが煩くなるんですよ」

 「おまえらが勝手に笑ってるんだろ!」

 「そりゃクリスマスに五人で下田温泉とか言われたら笑うしかないよ〜」

 そう言ってまた思い出し笑いに耽るふたりを睨みつける。

 なんだよ!いいじゃん、行きたいんだもん!
 すごいよかったからまた行こうってみんなで言ったじゃん!
 別に、行きたくないんならいいけどっ。
 ひとりで行くもんねーだ。

 ユチョンたちといっしょになって笑っているジェジュンをよしよしと宥めながら、ユノはぼくに向かってほほえむ。

 「クリスマスにいっしょにいたいって言ってくれるなんて、ホントにメンバー思いだね、ジュンスは。下田温泉楽しかったよな。またいっしょに行こう」

 ああ、なんて優しいんだろう。
 ユノだけだよ、ぼくの味方は。

 「ほら、ぼくはメンバーのこといつも考えてるから。チャンミンと違って」

 「なんですか、それ。ぼくだって…」

 「友だち大切じゃないんだもんね〜、チャンミンは」

 最強と謳われる当グループのマンネは、 キャッキャと笑うユチョンの肩を 乱暴に掴んで揺さぶった。

 「あれは信用できない心理テストでしたよ」

 「どうかな〜?ジュンスはいいよね、友だちじゃないもん。おれたちなんてさ、なくても別に必要じゃないんだよね〜」

 「ヒョンたちだって別に友だちじゃないじゃないですか」

 「えー!ひどいなぁチャンミン!末っ子のくせにぃー」

 ユチョンとチャンミンの掛け合いにジェジュンが乗っかって、また笑いが巻き起こる。
 チャンミンを揶揄える機会なんてなかなかないので、ぼくもその波に乗って鼻息荒く彼に攻撃を仕掛ける。

 「可愛くない弟だなぁ!せめてメンバーくらい大事にしろよぉ」

 「友だちよりも特別だって意味じゃないですか。ちゃんと大切にしてるでしょう?ぼくは母親に帽子を被せてくれてもよさそうだなんて言う悪い息子じゃありませんし、逢って間もない人をファーストネームで呼ぶような礼儀正しくない人でもないので」

 それまでわりとおとなしかったのに、ぼくの言葉を聞くなりその可愛くない弟は早口で捲し立ててきた。

 そのせいで、こちらも弁明に忙しくなる。

 「な、違うって!あれはだって、ホントにユチョンがそう言ったんだもん。ねぇ?」

 「ん〜?それってすごい最初の頃のことだよね?あれ、ジュンスがあまりにも一生懸命だったからさ、揶揄ってああ言ったんだよ」

 「はぁ?!」

 「だぁってすっごい純粋なんだもん、可笑しくって!フツーに考えて意中の人にしかしないでしょ、いきなりファーストネームで呼んだり無闇にメールしまくったりなんて」

 ぬぁ!なんだよそれ!
 ぼくは必死だったんだぞ!
 それをっ、その純粋な気持ちを踏みにじって…

 「嘘つくなよぉ!おまえがアメリカ流だって言うから信じたのに」

 「まぁまぁ、それで仲よくなれたんだから、結果オーライじゃん?」

 全然オーライじゃない!
 適当なこと言って人の人生を左右するな!
 もう金輪際ユチョンには何も相談しない!
 二度と信じてやらないからな!

 「おまえらって最初からそんなに親しげだったっけ?」

 ユノが首を傾げながら訊ねると、ユチョンは笑った。

 「ううん、おれたちの話じゃなくて。ジュンスがさぁ、デビューするかしないかの頃、おれに訊いてきたの。仲よくしたい子がいるんだけど、なんか緊張するとかでうまくできなくて、どうしたらいいかって」

 ふむふむと頷くユノのとなりで、ジェジュンが興味津々に身を乗り出してぼくとユチョンを交互に見る。

 「へぇー。ジュンスあんまり自分から行かないもんね、そういうの。それでアメリカ流のアドバイス?」

 「そうそう。友だちになりたいって言うんだけど、どっからどう見てもその子のことすきじゃんね?だから、そういうアドバイスのほうが有効かなーって」

 ユチョンのほうに向いていた部屋じゅうの視線が一気にぼくのほうに向けられて、その後一斉にチャンミンのほうへ流れていった。

 なんだなんだ?
 なんの話だっけ?
 ぼくがユチョンに相談して…
 仲よくなりたい子がいるって…

 そういうアドバイス?
 どっからどう見てもその子のことがすき?
 そういうアドバイス…そういう………

 ………!

 「ゆっ、ゆ、ユチョナぁ!ちょっ、待っ、おま、何言って」

 「ぼく、別にメールとかもらってませんけど」

 思わず椅子から立ち上がってしまったぼくの言葉を、チャンミンは例の淡々とした口調で遮った。

 ユチョンはなおもニヤけ顔で続ける。

 「なかなかアドレス聞けなかったんだよね〜。それで、ちょうど宿舎に住みはじめる頃だったから、話しかける作戦で行くことにしたんじゃなかったかな。ね、ジュンス?」

 ね、じゃねぇ!
 法律さえ許せば今すぐこいつの首を絞めて二度と喋れないようにしてやるのに!
 大体なんでそんなこと事細かに覚えてるんだよ?
 もう四年も五年も前の話でしょ?

 「ホントに随分前からすきだったんだなぁ」

 「沁々言わないでくださいよ、ユノヒョン。照れるじゃないですか」

 「おー、やっぱりチャンミンでも照れるんだ。でも、うれしいよね?」

 あーもう、誰の口を塞いだらいいんだっ。
 ユノはユノでのほほんと恥ずかしいこと言ってるし、ジェジュンは綺麗な顔をニマニマ歪ませてるし、チャンミンなんてもうこうなったら悪魔にしか見えない。

 ていうか魔王?サタン?
 ホンット性格悪いと思う、こういうとき。
 ほらもう、こっち見て笑うな!
 そんでそんな憎たらしい顔にいちいちドキドキするな、ぼくの心臓!

 「そうですね。そう言われれば、思い当たる節がちらほら…」

 「だぁ!煩い!もういいだろ、その話!ていうか、チャンミンのことだなんて言ってないしっ」

 言い切るが早いか、ぶはーっと笑い声がまた渦になった。

 机を叩く音、地団駄を踏む音、仰け反って椅子を軋ませる音。
 ぼくたちの楽屋はなんだかんだいつも騒がしい。

 何がそんなに楽しいんだか。
 相変わらずワケわかんない奴ら。

 ジェジュンは再びユノの肩に頭を預けて、羨むような声を上げる。

 「あーあ、いいなぁ。愛されてるね、チャンミン?」

 「お陰さまで。ありがたいです、ホントに」

 「わ、余裕!こんだけあからさまに思われてたらそうなっちゃうか〜。てかジュンス、座ったら?」

 くすくす笑い続けているユチョンにひょいひょいと指を差され、悔しいながらも確かにひとり立ってるのは不自然だということに思い至って、ドカッと椅子の上に腰を下ろしなおした。

 「べっつに、全然愛してないもん。こんな可愛いげのない奴をすきになった覚えはないっ」

 嘘だけど。
 めちゃめちゃすきだけど!
 その気持ちに迫られて思わずちらりと顔色を窺ってしまう。

 目が合うと、彼はいつもどおり不敵にほほえみ返してきた。

 「とか言って、ホントは温泉もチャンミンとふたりで行きたいなーとか思ってるんじゃないのぉ?」

 となりからはジェジュンの柔らかい、でもどこかニマついた声。

 「な…ちが」

 「わぉ、 ひゅーひゅー!ふたりきりで温泉?なんかエッチいね、それ〜」

 「え、温泉で?なんで?」

 またとなりから、今度はユノの男らしい、でもどこかとぼけた声。

 チャンミンは揶揄うように眉を上げて、何も言わずにぼくを見ている。

 「違うから、ホントに…ぼくは、ただ、みんなで…」

 「いいよいいよ、おれたちに気を遣わないで行っといで」

 「うんうん、チャンミンのためにもね。たまには恋人らしいことしてもよさそうだ!」

 温泉って恋人らしいの?
 じゃなくて、旅行が?
 そういうもの?どこら辺が?

 「でも、チャンミンと旅行行くとなんか食べ歩きツアーみたいになりそうじゃない?」

 「あー如何にも!色気ないねぇ〜。それでまたダイエットになったりして」

 「それ可哀想!おれたちの七不思議のひとつだよね、食べても太らないチャンミンと食べなくても太るジュンス」

 何っ!食べなければ太らないよ、さすがに!
 でも、確かに不公平だとは思う。
 チャンミンなんて夜中も食べるし間食も多いのに全然太らないもんね。
 アイスも食べれるしさ!狡い!

 「食べたぶん運動しなきゃね、ジュンスと行くなら。夜寝れないね〜」

 「食べ歩きなら食べたぶん歩けばいいじゃないですか。疲れ果ててぐっすり眠れますよ、きっと」

 うひゃひゃと笑う兄たちに皮肉めいた視線を投げつけて、チャンミンは呆れ声を返した。

 ねぇ、ぼくと旅行行くのがいやだとは言わないんだね。
 それって、よろこんでいいの?
 もしかしてほんのちょっとくらいは、いっしょに行きたいって思ってくれてたりする?

 性格の滲み出た彼の横顔をこっそりみつめたまま、すこしだけ過去に思いを馳せる。

 メアドすら聞けなかった頃もあるのに。
 あの頃のぼくには、今の自分はどう見えるんだろう。
 こんな言い合いも、贅沢なんだろうか?
 ふたりで旅行なんて信じられないよね、きっと。

 すこしずつ、ひとつずつ、望みのなかった夢が叶っていく。
 そばで生きられること、それ以上のしあわせが毎日を彩っていく。

 そのすべてが奇蹟だって、いちいち思い出すことはできなくても。
 時々は、そうだね、みつめ返す時間があってもいいかもしれない。

 もし、行きたいって言ってくれたら。
 もしチャンミンが…

 「ていうか、まず休みがありませんよね。今年のクリスマスもレコーディングなんじゃないですか」

 「…だよねー」

 …まぁ、現実はそんなもんだけど。
 とりあえず今日も、単純なぼくは、そばにいられてとても、しあわせ。



           It has finished,
        at 10:30 April 11,2013
   This material by Bigeastation 38.

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