小説:Bigeastation編31~
□37:Bigeastation 37.
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Bigeastation 37. 2007/12/9~15
カタカタ、キーボードを叩く音。
視界の端に映るのは、となりに座るチャンミンの長い指。
マイク越しの三つの声だけが響くなか、となりに座る彼の集中力は途切れることなく続いていた。
ホントは今ハマってるゲームに誘いたいけど、レポートを書くから、と言われたら、さすがに邪魔するわけにもいかず。
年末は特に勉強する時間なんてなかなか取れないし、たまにはしかたないのかな、と思いながら、さっきからぼくは椅子に深く凭れてぼんやり彼の撫で肩をみつめている。
ぼくのことなんてちっとも気にしてなさそう。
なんでそんなに上手に意識のなかから周囲を閉め出せるんだろう?
収録、全然聴こえてないのかな。
いっしょに話して笑いたいこと、いっぱいあるのに。
プロモのこととかさ。
アニメーションでも、頭がもげそうにでっかくても、やっぱり遺憾なくイケメンぶりを発揮してたよね、チャンミンは。
ぼくはなぜか蹴躓いて笑われたり、情けない役どころだったのに…
どうしてぼくだけあんな間抜けな感じだったんだろ?
ジャケット撮影は新鮮だったなぁ。
映画館を五人占めするのはなんだかわくわくした。
でも、実を言うとぼく、あんまりジャケ撮りはすきじゃないんだよねぇ。
カメラに寄られるのって緊張するし、並び的に絶対チャンミンとは絡めないじゃない?
別に人前でイチャイチャしたいわけじゃないけどさ、やっぱり…
ねぇ、いつかふたりで映画観に行こうよ。
いっしょに行ったことないよね?
今カップルシートなんてのがあるんだって、知ってた?
どんな感じなんだろ。
狭いのかな、広いのかな。
プライベートは確立されるかな?
まぁどうせ、男ふたりでなんていやだ、とか言うんだろうけど。
あー、年明けもすぐシングル、アルバムと発売かぁ。
きっと今以上に忙しくなるね。
レッスン、レコーディング、プロモーション、撮影と収録の繰り返し。
年末年始は特にスケジュールが混んでくるし、新しく覚えることだらけで頭もいっぱいになるし、今年もなんやかやと慌ただしく一年が終わりそうだ。
心も相変わらず忙しなく動きまくってることだしね。
仕事ばっかりの毎日も、きみといると何もかも楽しくて、何もかも目新しい。
だから、忙しさも休みのなさもぼくには、全然苦痛じゃないよ。
こうして後ろ姿をみつめてるだけでも、充分しあわせで…
片想いだった去年の冬とは、明らかに違うこと。
それは、こうしていてもきっと、その心のなかにちゃんと、ぼくがいるってわかること。
これからは、こんな冬が続いてくのかなぁ。
寒いのはきらいだけど、分刻みの日程はしんどいけど、いっしょに過ごせるのならそれも悪くない。
くっついて暖め合う楽しみや、となりで同じ景色を見るよろこびが、たくさんたくさん、そこには満ちてるから。
こんなふうに時に流されていけること、すごく、すごく感謝してるよ。
だいすきなんだ。
抱きしめてても、喧嘩してても。
寝てるときもゲームしてるときも、こうしてみつめてるときも。
歌ってたって踊ってたって、ステージの端と端にいるときだって、いつだって。
だいすき。
だから、ずっといっしょにがんばっていこうね。
あのおおきな舞台に立って、満員に埋まった自分たちのファンの前でもう一度、涙を流すまで。
人前で泣くなってまた怒られるかな?
逆になんでチャンミンは泣かずにいられるんだろう?
そうだ、今度はさ、寧ろいっしょに泣こうよ!
五人で泣いちゃったらきっと、ファンにとってもぼくたちにとっても、死ぬまで忘れられないライブになるんじゃないかな。
そのためにも今は大切な時期だから、風邪とか引かないようにしなきゃね。
鼻水ずるずるな姿とかも可愛くてすきだけど…
そういえば最近お互いに、体調崩すことも減ったかな。
つき合いはじめてからはわりと元気にやってる気がする。
そんな暇ないから?
しあわせだからだったらうれしいなぁ。
でも、もし風邪引いたらぼくが看病してあげるからね!
ふむ、それいいかも、ヒョンっぽくて。
いつもは何かとチャンミンのほうが口煩く言ってくるからなぁ。
チョンシンチャリョ!なんてそれこそ一日に何回言われることか。
ぼくだってちゃんとやることやってるし、しっかりしてるのに!
他のヒョンが怠けても何も言わないくせに、なんでぼくにだけあんなに生意気なんだ。
そう訴えたらたぶん、いつもみたいに余裕綽々な笑顔で、あなたが特別だからですよ、とか言うんだろうな。
まったく憎たらしい奴。
どう言えばぼくが照れるかとか黙るかとか、ぜんぶわかっててそういうこと言うんだもん。
ホント狡いんだから。
ねぇ、それでもいいから声をかけてほしいなんて、ぼくってちょっとオカシイのかな?
こんなたった数分放っておかれただけで、振り向いて揶揄ってくれないだけで、心が枯渇していく気がする。
まだ終わらないの?
今、何を考えてるの?
全然足りないよ、チャンミン。
ねぇ、もっとぼくのこと考えてよ。
勉強より、歌よりもっと。
ぼくだけを見て、ぼくだけを思って、ぼくだけを。
…なんて、そんなこと絶対言えないけど。
なんか、片想いだった頃よりもずっと、わがままになってないか?
いつでも望みを叶えてもらえる関係に、慣れてきたのかな。
それってどうなの、いいことなの?悪いこと?
たぶん、悪いことじゃないじゃないんだろう。
それだけ自然に、当たり前に、向こうからの思いを受け取ってるってことだから。
でも、我慢することも覚えなきゃいけない。
ぼくたちは仲間でもあって恋人でもあって、仕事もプライベートもいつもいっしょで、だからこそ時間も関係も線引きが難しいけど。
あのね、ぼくだってちゃんと気づいてるよ。
ふたりでいる時間を増やしてくれてるから、寝る時間も勉強の時間もすこしずつ減ってるでしょう?
いつも、誰よりも見てるんだからね。
バンのなかでこっそり欠伸をしたり、レッスンの合間にパソコンを開いたりしてるところ。
無理はしてほしくない。
だから、言っちゃいけないわがままがあるってことも、わかってる。
名前を呼べば振り返ってくれる場所、そこにいつもいてくれればいいよ。
ぼくも、きみが呼べばこたえられる場所に、いつもいるから。
必要なときに、そばにいたい。
疲れて充電したくなったりとか、ストレス発散したくなったりとか、そういうとき。
ぼくを苛めて笑って気が済むなら、もうそれでもいいよ。
いっしょに笑い合えるならそれも、ぼくにとってはしあわせだから。
だけど、たまには、ね。
ナエゲドチャレジョ、チャンミン…
「ヒョン。ジュンスヒョン」
ほっぺたをぺちぺち叩かれる感覚で、目を覚ました。
………ん?目を覚ました?
「あ、起きましたね。もう終わりますよ、収録。ぼくたち次ですから、台本に目を通しておいてください」
チャンミンはいつの間にかパソコンを閉じて、ぼくに渡してくれたのと同じ紙束をぺらぺら捲っている。
それを受け取りながら椅子の上で伸びをすると、強張った体がギシギシ軋んだ。
「あー…ぼく、寝てた?いつからだろ、ラジオ聴いてたんだけどな…」
「結構早い段階でうとうとしてましたよ。この頃ゲームのしすぎであんまり寝てないでしょう?自分で思ってるより疲れてるんじゃないですか」
そうかなぁ、そんなにくたびれてはないんだけど…
室内が暖かくて、気持ちよかったのかも。
「何ごともなく終わったねー。ユチョンもだいぶまわしに慣れてきた感じ?」
「ユチョンヒョンのまわしにはなんの不安もありませんが、果たしてあれが何ごともなかったのかどうか…」
ふぅ、とわざとらしい溜め息ひとつ。
だいぶ読み慣れた日本語の羅列から目を上げて、彼の表情を覗き見る。
「なに、何か言ってたの?」
「何かというか、いつもどおりと言えばいつもどおりでした。ユノヒョンが空気読まずユチョンヒョンに甘々で、ジェジュンヒョンが拗ねて口数減らして、弟であるユチョンヒョンに散々気を遣わせて、結局最後はユノヒョンのプロとも思えないデレデレ発言でジェジュンヒョンの機嫌がよくなって終わるっていうパターンですよ」
そんなんだったかぁ?
てか、そんなパターンがあることすら知らなかったんですけど。
いろいろ気にしすぎなんだよね、うちのマンネは。
そうやって要らない気苦労ばっかりしてるから早く老けるんじゃない?(嘘です冗談ですゴメンナサイ)
ブースのガラス戸が開かれて、喋り終えた三人が出てくる。
チャンミンは読んでいた台本を閉じて、立ち上がった。
「ぼくたちは弟としてしっかりユチョンヒョンをフォローしましょうね、ヒョン。気楽にまわしてもらえるように」
「うん…まぁそれはいいんだけどさ、チャンミン」
そのまま打ち合わせに向かおうとする彼の長い指を捕まえて、引き留める。
振り返ってぼくを見下ろしたその瞳をみつめ返しながら、とても切実なその一言を伝えるために、軽くくちびるを湿らせた。
「ナジュン、イッポエジョ」
It has finished,
at 23:30 April 10,2013
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