小説:Bigeastation編31~

□34:Bigeastation 34.
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Bigeastation 34. 2007/11/18~24


 出逢って四年、つき合って八ヶ月。
 毎日同じ仕事をこなして、毎晩同じ部屋で眠る。

 それでも、まだまだ知らないことだらけだと、時々こうして改めて痛感したりするのであって。

 「痛いからでしょ、ホントは」

 無事スケジュールを終えて、揃って帰ってきた真夜中の宿舎。
 冷えた耳朶からちいさなまるいピアスを外しながら、ユチョンは笑った。

 彼の向かいで上着を脱いでいるチャンミンは、静かに首を横に振ってこたえる。

 「そんなんじゃないですよ。ただ、機会がなかったっていうか…優等生だったので、昔から興味もなかったし」

 「ホント〜?じゃ、今開ければいいじゃん。お揃いとかできるよ、こっそり。ヒョンたちみたいに」

 ぼくはユチョンのその言葉に振り返って、後ろに立っているユノを見る。

 「ヒョンたちピアスお揃いにしてるの?」

 「ん?たまーにね」

 「へぇ…」

 お揃い、かぁ。
 確かに、指輪とかネックレスよりは、やりやすいかも。
 芸能人とかよくそれですっぱ抜かれてるもんな。
 ま、ぼくたちの場合、共有してるんで、の一言で済んじゃう話だけど。

 「いやですよ、ジュンスヒョンとお揃いなんて。品格が疑われます」

 「ぬぁにぃっ!俺様のカリスマを知らないか、チャンミン!」

 「ほら。こんなのとつき合ってるって世間に知らせたくないですもん」

 なんて弟だ!
 もっとしっかり兄のカリスマを受け継いで…
 んっ、待てよ。
 ここは恋人として怒るところ?

 高らかに笑った後、ユチョンは揶揄うように目を細めた。

 「なんかでも、今日の収録ラブラブだったよね〜?」

 「ホーントに!おれどうしたらいいか困っちゃったじゃん」

 ストールを丁寧に畳みながら、ジェジュンが悪戯にくちびるを尖らせる。
 チャンミンは心外だという顔で彼らに反論する。

 「いつもどおりでしたよ、別に」

 「んなことない!ラブラブだった!フェチの話とか聞いてて恥ずかしかった!」

 「なんでですか。フツーのこたえだったでしょう?ねぇ、ジュンスヒョン?」

 ソファに胡座をかいて座るぼくに、援護を求めてくるチャンミン。

 しょうがない、お兄さまが助けてやるかな!
 フェチの話ね!さっきの収録のでしょ。
 フェチ…。ふぇち………
 えと、どんな話だっけ?

 「うん、まぁでも…盛り上がった、よ、ね?」

 「そうですね。ヒョンがカラダフェチをムキになって否定するから」

 「な!ぼくは、ホントに…」

 思い出した!
 こいつ、ニヤニヤして、ジェジュンを小突いて、ぼくに変なことばっかり言ってきたんだ!
 ムカツク!
 最低!

 「カラダのどこがすきなんでしたっけ?」

 「ぬぁ、煩いっ!あれはおまえが勝手に」

 「まぁまぁ。落ちついて落ちついて」

 ユノがぼくの肩を優しく叩く。
 明らかに悪いのは向こうなのになんでぼくが宥められなきゃいけないんだ。
 こんなのおかしい、間違ってる、理不尽だ!
 でも、ユノに逆らうとジェジュンが怖いから、口には出せない。

 「チャンミンはともかく、ぼくは真面目にこたえたじゃん」

 「そこ!そこだよ!それがスゲー照れたの。ジュンスこたえる間じゅうじーっと見てたんだもん、チャンミンのこと」

 そう言ってジェジュンは、ユチョンとキャーキャー騒ぎ出す。
 身も蓋もない彼の言葉に、考える間もなく頬がぶわっと熱くなる。

 「な…そんなこと…」

 チャンミンは勝ち誇ったようにふっとほほえんだ。

 「ヒョン、困りますよ、そういうの。どんだけぼくのことすきなんですか」

 「違っ!違くて、それ…」

 否定の言葉を継ぎたくて頭をぐるぐる働かせても、それをこたえたときの気持ちを思い出して余計に混乱するばっかりで。

 フェチって言っても、他人をじろじろ見ちゃうってわけじゃない。
 ジェジュンみたいに、誰かと逢うたびにそこに注目したりするわけじゃない。
 それに別に、チャンミンのどこがすき、というのはないし…
 ただなんとなく、よく見てるのはどこだろうって考えてて…

 首から肩のライン。
 滑らかに傾いた、男らしい線を描く骨と筋。

 たぶん、顔の次によく見てる部分なんじゃないかなと思う。
 確かに体ぜんぶ見てるけど、それ言ったらカラダフェチっていうか最早チャンミンフェチじゃない?

 目線の関係で、後ろを歩くときいつも自然にみつめている場所。
 暖かくて甘く香る、抱きしめられるたびぼくが顔を埋める場所。
 飛行機で、車で、ソファでとなり合って座るとき、こっそり寝たふりをして凭れかかるのにちょうどいい場所。

 あの夜…

 ふたり、気持ちごと体を繋げた夜。
 涙を払った視界に映った、銀色のライン。
 この人は自分のものだと、その線を見上げながらぼやけた思考の奥で感じた。
 その印を刻むように、きつくそこに指をかけて、熱された皮膚に白く自分の痕を遺しながら。

 そのことを思い出して、無意識にチャンミンを見てたのかな…

 でも!
 あのときのことを思ってたなんて、口が裂けても言えない。
 ていうか言いたくない。
 だってなんか負けたみたいじゃん!

 「べっつに、チャンミンと喋ってたから見てただけだよ!違うこと考えてたもん」

 「ふぅん…それ、違う人のこと、って意味ですか?」

 空気を変える、低い声。
 背凭れ側から覗き込まれて、飛び出そうになった心臓を飲み込むために思わずゴクンと喉を鳴らしてしまった。

 「あ、…え?や、違う人っていうか…そういうことじゃなくて。フェチってそもそもなんだろう、とかそういう…」

 あれ、おかしいな。
 なんでこんなに言い訳くさいんだ?
 流されるなシアジュンス!
 おまえはヒョンだ、先輩だ、カリスマだぁ!

 「ちゃ、チャンミンだって、言ったじゃん!カラダ全身がすきだって!あれだって、その、女性のこととか、考え」

 「あれ、あなたのことですもん」

 「たり、思い出したりしたで………は?」

 すぐそばにある顔が、ふわっと笑う。
 時々、ホントに時々見せる、幼さの名残みたいな表情。

 だぁっ、もー、狡いなぁ!
 なんだよその可愛さ!反則だ!

 「あなたのカラダすべてがすきなんです、ぼくは」

 わ、わ、すきとか言うなよ。
 無駄にドキドキしちゃうじゃん。

 ………待て待て。
 カラダすべてって、なんだ。
 それって果たして、よろこんでいいところなの?

 「チャンミンのエッチ〜」

 「やーらしー」

 「正直なんです、ぼくは。リスナーのみなさんに嘘はつきません。偉い息子ですから」

 囃し立ててくるふたりのヒョンに振り返って、チャンミンは平然とこたえる。
 取り残された視線に映る、項を隠す柔らかそうな黒髪と、そこから覗くピアスホールのない耳、肩まで続く綺麗な首筋。

 後ろからキスしたら、びっくりするかな。
 怒るだろうな…
 なんとかして形勢逆転したい。
 それに、なんか…さわりたくてちょっと、うずうずする。

 「どこが偉い息子だよ、他人の息子に坑掘ってるくせに」

 「うぁはっ!間違いなーい!うまい、ジェジュンヒョン〜」

 きゃっきゃと笑い合うO型の兄たちに、B型のマンネは冷たい目を向ける。

 「下品なジョークで盛り上がらないでください」

 「…げひん?」

 話が見えなくて聞き返すが、笑うのと呆れるのに忙しくて誰もこたえてくれない。

 「あは、ちょっと、わかってませんけど!誰だ、ジュンスを真っ黒なんて言ったの〜。純粋以外の何者でもないじゃぁん。もー、腹いてぇ〜」

 「あのときは煩かったから黒いって言ったんです。爽やかではない、って意味ですよ。ていうか、笑いすぎじゃないですか?」

 「さすがジュンス、なーんにも変わってないんだねー。チャンミンの教育不足なんじゃないの?よくこんな人相手にできるよな、おまえも」

 あー、意味不明。
 だから、なんの話なの?
 なんでこっちにわかるように話してくれないんだろ?

 
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