小説:Bigeastation編31~
□32:Bigeastation 32.
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Bigeastation 32. 2007/11/4~10
「おい、チャンミン。ここ座って」
収録後の楽屋で、なぜだか偉そうにふんぞり返ったジュンスに、名指しで手招きされた。
次の仕事までの調整も兼ねて、すこし余裕のある休憩時間。
ご飯も食べたいし、ちょっと寝たいし、ネットを開いたりとか音楽を聴いたりとか、やりたいこといっぱいあるんですけど。
「はい?なんですか」
わざわざ部屋の隅に呼び出されたぼくは、従順にも命令どおり彼のとなりに座る。
ジュンスは苦しそうに首元に手をかけて、椅子の上でもぞもぞ体勢を整える。
「どうでもいいけど先に着替えたらどうです?」
「いいの。さ、ラジオの反省会するぞ」
反省会?
そんなものしたことないじゃないか。
寧ろ過ぎ去ったことは自分から忘れるくせに。
何かよっぽど気に食わないことがあったのか、それともMCとしての威厳に目覚めたか。(いずれにせよメンドクサイ)
「ユチョンヒョンは呼ばないんですか?」
「おまえらふたり揃うと煩いから、ひとりずつ。まずチャンミン。笑いすぎ」
そんなに笑ってただろうか?
正直、ジュンスといるとき自分がどれほど笑ってるかなんて、考えたことがない。
とにかくいっしょにいると楽しくて。
特にユチョンといっしょになって貶めるときなんかもう最高で。
だから、まぁ…
きっとかなり笑ってたんでしょうね。
「結構我慢したつもりだったんですけど」
「どこがだよ!出だしから笑ってたじゃん」
「あーまぁ、あれは…でも、しょうがなくないですか?打ち合わせの後急にいなくなって、トイレでも行ったのかと思ってたら、本番一分前にスーツ姿で戻ってくるんですもん」
あ、思い出したらまた可笑しくなってきた。
だって、あんなの笑わずにいられます?
スーツ着てラジオまわす人なんて見たことないですよ。
どれだけ気合い入れてたらああなるんだろう…心境の変化って…
「だからって別に笑うことじゃないだろ!褒めるとか、見惚れるとかないの?尊敬するヒョンの正装を見てさぁ」
そう言って彼は鼻息荒くぼくに詰め寄る。
何、拗ねてるの?
ぼくがその格好を見るなり笑い出したから?
褒めたり、見惚れたりしてほしかったの?
おー危ない。
気をつけてないとだらしなくニヤけてしまいそう。
「ちゃんと最後に褒めたでしょう?」
「スーツだけじゃん!顔の下は素敵、って言った。顔は20円だって」
う、そんなふうにくちびるを尖らせないで。
顔も含めて褒めてほしかったなんて言わないで。
それはダメです、ジュンス。可愛すぎ。
「20円って言ったのはユチョンヒョンですよ。ぼくはちゃんとスーツ姿がかっこよかったって言いました。照れてはぐらかしたのはヒョンのほうじゃないですか」
「てっ…れてない!大体、チャンミンの賛辞は心が込もってないんだよっ」
「そう?ぼくの気持ち感じなかったですか?残念だなぁ」
羞恥と憤慨に頬を赤らめながら、ジュンスは笑みを堪えきれないぼくの肩をちいさな拳で叩いてくる。
「こら、痛い痛い。なんですか、何が気に入らないんですか?一生懸命やったでしょう、ぼくだって。ヒョンに合わせてテンション高くがんばったし」
「ユチョンとふたりでぼくを揶揄ってただけだろっ」
「そんなことないですよ。柄にもなくふざけたりして、ちゃんとヒョンを笑わせる努力もしました。オショセヨ〜」
気分の変わりやすいジュンスは、ぼくのクオリティの高いギャグに掠れた笑い声を上げた。
折角スーツを着ておとなっぽく見せても、目尻が下がるとすぐ子どもの顔に戻る。
そんなところが愛しくて堪らないこと、いつだって笑ってほしくて揶揄っちゃうこと、わからないかなぁ。
わからないでしょうね。
うん、まぁいいよ。
そういうところも愛しいから。
「こんなこと、普段はしないでしょ?大サービスだったじゃないですか。それもこれも、まわしのヒョンのためですよ」
「確かにテンションは高かった。でも、やりすぎなんだよ!ぼくが何か言うと笑って、ふたりで盛り上がってばっかりで」
なんか、妄想かもしれないけど、ユチョンに嫉妬してるんじゃないかって気もしてきた。
結局、ぼくとこうしてふたりきりで話していたいだけなのでは?
ホントはかまってほしくて拗ねてるんじゃないの?
あ、ヤベ。
わりと本気で変態チックな顔してるかも、今。
「ああ、うーん。それについては確かに自覚はあるんですけどね。収録でも言いましたが、ヒョンが素敵だとなんでか悪戯したくなっちゃうんです。不思議不思議」
「なんだよそれ、それがマンネの言うことか?ぼくにだけやたら突っ込みもキツイしさぁ。ユチョンには全然突っ込まなくない?ぼくがまわしだったんだから、チャンミンは日本語できるんだから、フォローしてくれるべきだったのに」
「ぼくが突っ込むのはあなたがボケるからです。それにユチョンヒョンにそんな厳しく突っ込めるわけないじゃないですか、怖ろしい。どんな仕返しが待ってるかわかったもんじゃありません」
五倍十倍になって戻ってきますよ、絶対。
あの人はそういう人です、善人そうな顔して心のなかでは悪どいことばっかり考えてるんです。
ま、弟代わりに甘やかされてばっかりのあなたにはわからないでしょうけど。
怪訝そうに眉を顰めてぼくを見るその可愛い瞳に、諭すようなほほえみを向ける。
「あれはジュンスヒョンだからできるんです。一種の信頼関係っていうんですかね?日本語にしてもそうですよ、もうフォローしなくても充分できてるから、敢えて助けることもないかなって思ったんです」
わざとらしいぼくの言葉に、露骨に頬を緩めてみせるジュンス。
なんて簡単なんだろう。
なんか、今まで誘拐されたことがないのが不思議に思えてきた。
襲撃とか拘束とかしなくても自らホイホイついてっちゃいそうだもんなぁ。
ああ、とっても心配です。
「…そう?ま、そういうことなら…ホントに困ったら、助けてくれるんでしょ?」
「当たり前じゃないですか。勿論、できる範囲でですけど。今日は特にスムーズにできたんじゃないですか?」
「ん、そうかも。あ、でも、あれは困ったなぁ。プロポーズ!そんなの考えたことなかったからさぁ」
どうやらすっかりご機嫌がよくなったらしい彼は、自分からコロッと話題を変えて、真面目にこたえたかったんだけど、と笑う。
「おれじゃ駄目か、は既に一回やりましたしね。プロポーズっぽくはなかったですね」
「だって、わかんなくない?なんて言えば伝わるのかとか、そういうニュアンス的なの、難しいじゃん。一生言うことないだろうしさー」
「まぁ確かに、ぼくも特に思いつかなかったです。ノーマルでロマンチストのユチョンヒョンがいてくれて助かりましたよ」
他の四人は経験することがないかもしれないし、すくなくとも今の段階では想像できないだろうから。
そう言おうとすると、楽屋の向こう側から柔らかい声が飛んできた。
「えー!おまえらそーゆーの考えないの?全然?」
振り返ると、ユノにべったりくっついて座っているジェジュンのおおきな黒目に捕まえられる。
よくもまぁ、人目も憚らず…いつスタッフさんが入ってくるとも知れないのに。
このウザったらしい光景にもすっかり慣れちゃった自分が怖いです。
こんな秋の終わりにここまで暑苦しさを感じさせられるなんて、逆にすごい。
ていうか、いつから聞いてたんだ?
同じように魔性の瞳に捉えられたジュンスは、ぼくのとなりで元気よく首を振った。
「ないない、一回もない」
「ぼくもです。だって、必要ないじゃないですか」
「信じらんなーい!すきな人がいたらフツー考えるよねぇ、ユノ?」
自分よりややゴツめの男に可愛く覗き込まれて、ユノはリーダーの尊厳形無しの表情でこたえる。
「そうだね。でもおれも、どっちかっていうとチャンミンみたいにストレートに言いたいかなぁ。ジェジュン、ナワキョルネジョ」
「キャー!もうっユノ、カッコよすぎ!ね、結婚したら絶対毎朝モーニングキスしようね」