小説:Bigeastation編31~

□31:Bigeastation 31.
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Bigeastation 31. 2007/10/28~11/3


 今さら誰に報告することでもないけど、ぼくの彼氏は正直、すごくかっこいい。

 「そんなことわかってますよ」

 「………は?」

 心を読まれたのかと思って思わず声を上げると、ふたりで話しているチャンミンとユチョンに揃って怪訝な目で見られた。

 「なんですか、ジュンスヒョン?」

 「…あ、いや。なんでもない」

 「そうですか。確かにあれは、ぼくが悪かったです。あのふたり相手に常識は通用しないってわかってるんですからね。でも、それにしてもひどいものでした」

 ぼくの返事を適当に流し、チャンミンはまたユチョンとの会話に戻っていく。

 宿舎に帰ってきてからずっと喋ってる。
 ぼくのことなんて放ったらかし。
 ユノとジェジュンが(チャンミンに絶対ヤるなと散々釘を打たれながら)ふたりでお風呂に行ったので話す相手もなく、ぼくはぼんやりテレビを見ながら彼らの会話を聞いていた。

 「まぁね〜。特にチャンミンのときはイチャつくよね、なんか。何してもフォローしてくれるって絶大な信頼を寄せてるのかも」

 「そんなもの寄せられたくないですよ。見ました、あの目配せ?ぼくは一般論として、男なら綺麗な女性を見るでしょ、って言っただけですよ。そうですねってこたえとけばいいことじゃないですか?それなのに、ぼくは見ないです〜なんつってうれしそうに堂々とみつめ合いやがって」

 うぅ〜ん。今日も手厳しいね。

 最近のマンネのフラストレーションの原因は、年長カップルの万年ラブラブ攻撃に集中している。
 そしてそれを愚痴れる相手はユチョンだけなので(いや、ぼくもいるけどね)、収まりがつかない日はこうしてふたりで"今日のユンジェ率"について話し合いを持つことにしているようだ。

 「こらこら、口が悪いよ。でもホント、ラジオに映像がなくてよかったよね〜。ジェジュンヒョンが『Ah〜』って言ったときのユノヒョンの顔、ヤバかったもん」

 「あれもひどかったですね。ニヤけた声でヤラシイじゃないですか〜とか言って。引きました、正直」

 はぁ〜、とひとつ、おおきな溜め息。
 しあわせ逃げるよ、チャンミン。
 そんなにベタベタしてたかなぁ。
 ぼくには全然わからなかったけど…

 「何もあのメンバーのときにあのメールを読ませなくてもね」

 「そうですよ!せめてユチョンヒョンがいてくれたら…ヒョンならもっとセクシーにできそうですしね。ファンもよろこんだだろうに」

 「チャンミンので充分ファンには垂涎モノだったと思うけど。ジュンスは?ジュンスのがセクシーにできるんじゃない?」

 確かに、チャンミンの声、とってもよかった。
 ていうかなんか、なんていうかちょっと、モヤモヤした。
 ラジオで披露してほしくないくらい、セクシーな声。
 落ちついてて、どこか潤ってて、ドキドキして、ドキドキして、ドキドキして…

 狡いよ、そんなの、ぼくも聞いたことないのに。
 ファンのためにそんな声出すなんて、狡い。

 「ジュンスヒョンはオチ担当ですからね。セクシーさより笑いを追求していただきたいものです」

 「あ〜、妬きもちだ。独占欲だ〜」

 「そのほうが向いてるって話ですよ。ラジオでしかもファン相手に妬きもちなんてどんだけ狭量なんですか。ぼくは心の広い男なので」

 …狭量、かぁ。
 そうだなぁ、そうかも。
 正直自分では、心が広いっていうか、わりと気にしないほうだと思ってきたけど、チャンミンのことは違う。

 ひとり占めしたい。
 ぼくだけが知りたい。
 ファンにも、メンバーにも、家族にも、友だちにも見せない顔が、聴かせない声が、ほしい。
 もっともっと、たくさん、たくさんほしいんだ。

 「心が広くて、内面を重要視する男だもんね〜」

 「勿論!人間は中身です。内面の美しい人が、正真正銘美しい人です。恋人の選びかたを見てもらえばわかるように、ぼくは決して外見で人を判断しませんよ」

 ユチョンは椅子から落ちそうなほど仰け反って笑い出した。

 何が可笑しいんだか。
 外見で人を判断しないって言っただけじゃんか。
 人間は中身が大切だって。
 自分の恋人の選びかたでわかるようにって…

 「………どういう意味だよ」

 「お、理解が早いですね。褒めたんじゃないですか、内面が美しいって」

 「顔も美しいと言え!歌もうまいですと言え!尊敬してますジュンスさまと言えっ」

 そう命令すると、チャンミンも机を叩いて笑い出してしまう。

 「歌って!尊敬って。なんでそうなるんですかっ」

 「最早関係ないじゃん!妬きもちの妬きかたが独特すぎるよ、ジュンスぅ〜」

 「いーの!綺麗な女の人を目で追っててもいいの。ぼくを尊敬してくれさえすれば」

 あ。本音が。
 ま、いっか。ふたりとも笑い転げててろくに聞いてやしないし。
 こいつら笑いはじめちゃったら長いもんなぁ。
 も、放っとこ。

 だって、ぼくにはどうしたって敵わない。
 彼の目を惹きつけておけるほど外見も綺麗じゃないし、天使とか言われるけどそれほど内面も綺麗じゃないし、そもそも女性じゃないし。
 目で追うな、とか言えない。
 ぼくだって、風景とか自然とか、綺麗なものはすきだし…そういう感覚でなら別に、咎めるようなことじゃないもんね。

 イケメンでクールなチャンミンに女の人が寄ってくるのもしょうがないことだと思う。
 背も高くて、知性的でもあって、寧ろ惹かれない人がいるのかって感じだもん。
 モテるのは、彼のせいじゃない。
 この人に魅せられる気持ちは、誰よりもわかるんだ。

 だけど、だからこそ堂々としてたいっていうか。
 自分には別なアドバンテージがあること、心にちゃんと、留めておきたい。
 それはたとえば、ヒョンとして、先輩として、彼に尊敬される立場であることとか。(そうだよね?)
 たとえば、彼に選ばれた唯一の、特別な存在であることとか…

 信じていれば、嫉妬はしても、恐怖はないから。
 ぼくをすきでしょ、チャンミン?
 すきなのは、いちばんなのは、ぼくだけでしょう?

 「ただいま、出たよ。お、なんかまたえらく笑ってる」

 「んー、何なに?なんの話してたの?」

 手を繋いでお風呂から出てきたふたりが、苦しそうに笑い続けるユチョンたちを見て寄ってくる。

 興味深げに覗き込むジェジュンに、笑いのとまらないチャンミンは返事の代わりにぼくを指差した。

 「あー、またジュンスに殺されかけてるのかぁ。今回は何言ったんだよ?」

 今回も何も、と思いながら、ぼくは肩を竦めてみせる。

 「別におもしろいこと言ったつもりはないけど。今日の収録の話してただけ」

 「ああ、収録ね。今日も楽しかったよな。ジェジュンのまわしも素敵だったし」

 ユノは相変わらずどこかズレた言葉を返す。
 それでもかまわないらしく、ジェジュンはうれしそうに顔を弛緩させて彼に擦り寄った。

 「ユノも素敵だったよぉ。でも倖田さんの話はちょっと盛り上がりすぎだった」

 「ん?そう?」

 「そうだよ!妬いちゃうから女の人の話あんまり聞きたくないのに」

 ぷぅっと膨れてみせるジェジュンの頬を突ついて、ユノは笑う。(いつの間にか固い表情でふたりを睨んでるチャンミンの目が怖い)

 「おれも妬いたよ」

 「え。ホント?めずらしいね」

 「倖田さんじゃなくて、チャンミンにね。ふたりで掛け合う姿がお似合いだったから」

 やだぁーあんなコロコロ女に目移りする奴有り得ない!おれにはユノだけだよ!
 そう言ってジェジュンはユノとふたりで飲み物を淹れにキッチンへ歩いていった。

 わが彼氏ながら、ひどい言われよう。
 目移りって言っても彼の場合、なんて言うんだろ、一種の…好奇心?みたいなものだと思うんだけどな。
 観察眼に長けてるっていうか?
 とにかく、浮気とかそういうのとはちょっと違うよね、それは。

 辟易の面差しで天を仰ぐチャンミンの肩を叩き、ユチョンが立ち上がる。
 
 「ドンマイ。おれ、先風呂行ってきていい?」

 「どうぞ。行ってらっしゃい」

 「じゃ、お先。ふたりが最後だから、後でナニしてもいーからね」

 彼はひらひら手を振りながら謎の捨て台詞を吐いて去っていく。
 チャンミンは白目を剥いて机に突っ伏した。

 ぼくはその旋毛に視線を落としながら彼に話しかける。

 「何してもって。夜中だもん、煩くしちゃダメだよねぇ?」

 夜中は浴室で熱唱しないこと、ってみんなで決めたじゃん。
 忘れたの、ユチョン?

 「…ヒョン。なんにもわかってないくせにそういうイヤラシイこと言うのやめてください」

 「は?」

 「なんでもないです。ゲームでもします?」

 あ、誤魔化された。
 なんだよ、ゲームって言えばなんでもまるく収まると思って。

 チャンミンはこたえを待たずに身を起こして勝手にチャンネルを替え、席を立って準備をはじめる。

 …しょうがないな。
 ちょっとだけ、つき合ってやるか。

 「何やるの?」

 「これにしましょう。こないだ負けて悔しかったので」

 「ふぅーん、それでいいの?どうせ今日も負けるのに」

 ぼくの言葉にくっくっと見慣れた撫で肩が震える。

 「このぼくがそう何度もやられると思いますか。ほら、ヒョン。座って」

 先にソファに腰かけた彼が、ぼくのために空けたスペースをポンポンと叩く。
 ぼくは彼のすこし近く、肩がふれ合いそうな距離に、座った。

 「チャンミン?」

 「なんですか?」

 「浮気は許さないよ」

 「…は?」

 彼はぼくにコントローラーを手渡しながら、長いまっすぐな睫毛を随える瞼をしぱしぱ瞬かせた。

 「さっきの話ですか?それとも、倖田さんの話?まさかユノヒョンと、ってことじゃないでしょうね?」

 「誰とも!綺麗な人を見るのはいいけど、浮気はダメ。チャンミンがいちばんすきなのはぼくじゃなきゃダメっ」

 う。恥ずかしいこと言ってしまった。
 そんな目で見ないでよ、居たたまれないじゃん…

 頬っぺたが熱い。
 独占欲の塊。

 「…ヒョン」

 「煩い。何も言うな。はいわかりましたジュンスさまと言え」

 さらっと流してほしいばっかりに、自分の口調まで慌ただしくなってしまう。
 吹き出してくれるかな、と思ったのに、彼は眉を下げてぼくをみつめ、愛おしそうにほほえんだ。

 「ホントに、あなたって…」

 やめろやめろ、恥ずかしいから。
 自分の傲慢さにこれ以上気づきたくないから。

 「何も言うなって」

 「バカな人ですね」

 「だから、もう…何っ?!誰がバカだっ」

 テレビにはスタート画面が映っている。
 左手には彼から受け取ったコントローラー。

 チャンミンは空いているぼくの右手を、後ろのキッチンにいるユノたちに見えないようにこっそり、柔らかく握りしめた。

 「ぼくはこんなにあなたばっかり見てるのに。ヒョンといるとき、他の人を見たりしないでしょう?見れるわけないんです、気になってしかたないんだから。夢中なんですよ、その美しさに。内面も、外見も」

 探るように彼の瞳がぼくをみつめる。
 長い骨張った指が絡みついてくる。

 ああ、頬っぺたが熱い。
 今絶対顔赤いだろうな。

 「嘘ばっかり。ぼくなんて、別に…」

 「なんで嘘なんです。ぼくにとってあなたがどんなに美しいか、ヒョンにわかるわけないじゃないですか。正直、誰にもわかってほしくない」

 言われたことがわからなくてみつめ返すと、かたちのいいその目がすこし細くなる。

 ぼくは、この人がすきだ。
 目がおおきくて鼻が高くて、くちびるが可愛くて顎が細くて、背が高くて足が長くて、知性の滲み出るようなどこか近寄りがたいオーラを纏っていて。
 そういうところもぜんぶ含めて、外見、内面もぜんぶ引っ括めて、この人がすきだ。

 チャンミンも、そうなの?
 同じように思ってくれることを、望んでもいいのだろうか?

 「あなたは綺麗です。心も、体も、その存在を容造るもの、司るもの、すべて。時々怖くなるくらい」

 ヒョンたちに聴こえないように、ゲームの音に紛れるように、低くちいさく紡がれる囁き。

 きゅっと強く手を握られて、心がどくんとおおきく跳ねた。

 「誰よりも、綺麗です」

 飾らない言葉。
 嘘のない、何も疑わせない、誠実な言葉。
 たくさんのぼくを知って、たくさんのぼくをすきになってくれた人が口にする、綺麗だというその言葉。

 ホントにそうかどうかなんて、どうでもいいよ。
 チャンミンがそう思っていてくれるなら。
 その心がぼくを見ていてくれるなら。

 「誰よりもすきです」

 狡い奴。
 すきだって言えばなんでもまるく収まると思って。

 …しょうがないな。
 今日のところは折れてやるか。

 「………ん。ぼくも」

 そう呟き返して目を逸らすと、満足げに笑う声がそばで聴こえる。

 してやったり、ってか。
 言っとくけどそれ、ぼくのほうだからね。
 思惑どおりすきだと言わせられて気分がいい。
 なんだか今日もチャンミンを打ち負かせる気がする。

 ぼくは、この人がすきだ。
 なんだかんだ負けずぎらいで、天の邪鬼で鬼畜なドSで、弟としては完全に落第だけど。
 ひとりの人間として、たくさんの見倣うべき姿勢、たくさんの堪らなく愛おしい部分がある。
 そういうところもぜんぶ含めて、内面、外見ぜんぶ引っ括めて、この人がすきだ。

 別に特に誰かに自慢するわけでもないけど、ぼくの彼氏はぶっちゃけ、めちゃめちゃかっこいい。
 そんな人にこんなに思われているぼくは、なんて果報者なんだろう。

 繋いだ手を解いてちからいっぱいコントローラーを握りながら、今日もこうしてすきでいられるそのしあわせを噛みしめた。



          It has finished,
    at 03:00 February 14,2013
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