小説:ジュンス片想い編

□Choosey lover
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Chapter 19. Choosey lover


 ちょっと暗い室内に、キュッとシューズが床を擦る音が鳴る。

 伸ばした前髪から伝い落ちる汗を拭うと、冬とは思えないほどの暑さを感じていることに気づく。
 一度カットがかかったので、近くにあったペットボトルに手を伸ばし、その冷たさにほっと息をついた。

 「このステップが揃わないと綺麗じゃないよねぇ。もう一回やろ、今の」

 乱れた息を整えて水を飲むぼくの後ろで、ジュンスの元気な声がした。

 まったく息切れしていないユノとふたりで、その揃わなきゃ綺麗じゃないステップについて話し合っている。
 タフだなーと思って頭を振ると、となりでユチョンが笑った。

 「疲れたね、チャンミン」

 滴る汗をタオルに吸わせながら、彼は言う。
 ぼくは頷いて、ユノと真面目な顔で話しているジュンスを見た。

 「撮影はまだまだ続くんですけどね…最後まで保つ気がしませんよ」

 「ホントホント。おれなんかもう眠いもん」

 「あのふたりは元気すぎです」

 ふぁ、と欠伸をしながら、ユチョンはまたふにゃっと笑う。

 「ジュンスは年末年始も有り得ないくらい元気だったもんねぇ、あのハードスケジュールのなか」

 「お正月に元気なのは犬と子どもくらいですよね」

 忙しくてピリピリするような空気のなか、ひとりはしゃいでいたジュンス。
 となりでそれを笑ったり、窘めたりしながら、そんな姿を眩しく思っていた。

 眩しいだなんて。
 以前だったら煩いなぁで終わってたはずなのに。

 心は確実に絆されつつある。
 彼をすきなほうに傾いている。
 気づいているから、自覚しているから、余計に怖かった。

 ジュンスといると、何人もの知らない自分に出逢う。
 弱かったり狡かったりする最低な部分も、恥ずかしいほど優しかったりする別人格みたいな部分も。
 そのひとつひとつすべてを、ぼくが見せる情けない顔もしょうもないところもすべてを、ジュンスは難なく受け容れてくれる。

 自分の心を見極めるために彼の前では極力冷静でいようと思っても、愛されることの心地よさには敵わないのか、いつだって我を失うように振る舞ってしまう。

 愛されているからって愛せるようになるものなのだろうか。
 その特別さに酔ってしまって、ぼくはいつまでもわからないでいる。

 それとも、わからないふりをしてるだけなんだろうか?

 
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