小説:ジュンス片想い編
□"O"-正・反・合
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Chapter 16. "O"-正.反.合
バスルームの扉を閉め、ホテルの見慣れない天井を仰いだ。
奥から聴こえてくるシャワーの音が、ぼくの溜め息を掻き消していく。
度重なる緊張と緩和、そして自分の不甲斐なさに、頭痛がした。
どうして抱きしめたりしたんだろう。
どうしてすぐに出てきてしまわなかったんだろう。
もう、あの人には関わらないと決めたのに…
どうしてあの人はあんなに可愛いんだろう?
あきらめたように首を振り、暗闇のなかベッドへ戻る。
そこに置かれた自分の荷物をどかして、ソファに腰掛けた。
ぼくは馬鹿だ。
ただ話を聞いて、慰めるだけにしておけばよかった。
或いはいっそ見なかったふりで、タオルだけ置いて出てきてしまえばよかった。
二度とあんなふうにふれてはいけないとわかってたのに。
あの髪にも、背中にも、肩にも、頬にも…すべて。彼のすべてに、ぼくはもうふれる権利はないのに。
目を閉じて、静寂に身を任せる。
ただ、ジュンスが愛しかった。
誰にも見られないようにひとりで泣いていた姿が、ぼくにだけその弱音を吐き出してきた無防備さが、彼の強さ、弱さ、そしてぼくに示してくれた揺るぎない信頼が、心が潰れてしまうんじゃないかと思えるほどに、愛しかった。
どうしてあんなことをされてもぼくを信じられるのだろう?
あの人の何がそんなにぼくを思わせるのだろう。
あんなことでは、彼の純粋さは…ゴソゴソ…揺るがないのだろうか?
でも…モソモソ…ジュンスは確かに…ヒソヒソ…怖がっていた。
ぼくがふれたとき…もうちょっとそっち行ってよ…びくっと体を…もう、やめろってぇ…体を………
…おかしいな。何が思考に割り込んできてるんだろう。
ぼくは目を開けて、暗闇を凝視した。
ジェジュンとユチョンが穏やかに眠っているはずのベッドが、モコモコと波打っている。
ゴソゴソ、モソモソ。
ヒソヒソ、ボソボソ。
これは、どう見ても…明らかに…
「ヒョン?」
ビックーン!
という動きの後、ベッドの波が急に静まる。
おいおい、本気ですか。
ぼくはソファに深く体を沈め、(長い)脚を組んだ。
「いつまでもそうしていたいなら、ぼくは待てますけどね」