小説:ジュンス片想い編
□The way you are
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Chapter 8. The way you are
「人はいつまでひとりの人をすきでいられると思う?」
テレビに向けられた意識は、戻ってくるのに数秒、間があった。
ゆっくりとぼくの頭に取り込まれる、ユチョンの低い、ぼそぼそっと呟くような声。
ぼくはテレビの音量を下げて聞き返す。
「何?」
となりに座っているユチョンはそのまま倒れかかってきて、ぼくの腰に抱きついた。
ぼくはいつもの癖で彼の頭をポンポンと叩く。
寂しがりやのユチョンがぼくに甘えてくるのはいつものことだから、と、別に特に気に留めずテレビに目線を戻した。
「おれ別れちゃった、彼女と」
「ふぅ〜ん………え。何?」
ユチョンは溜め息をついて、ぼくの太股に乗せた頭を捻ってぼくを仰ぎ見る。
「なんかさぁ、こんなふうに行ったり来たりしてさぁ。無理だよね、こんなの」
「え、ホントに?喧嘩したとかじゃなくて、別れたの?」
「うん。ちょっとしか逢えないのに喧嘩とかってヤじゃん?だからもうやめた」
淡々とした口調とは裏腹に、ユチョンはぼくの腰にまわした手にぎゅっとちからを込めた。
ぼくはとりあえずテレビを消してユチョンと目を合わせる。
「なんだよぉ、それ。だって…」
「いーのいーの、ぐちゃぐちゃして終わったわけじゃないし。きらいになったわけでもないし」
「じゃ、なんで別れたの?逢えないのがそんなに苦痛だったの?」
ユチョンは自嘲気味に笑ってこたえた。
「向こうはね。おれは…すきだって思える賞味期限が切れた感じ。なんかわかんないけど、終わった」
そういうもの?恋ってそんな呆気なく終われるものなの?
いつか終わることさえ、ぼくには信じられないのに。
「恋は盲目っていうけどさぁ。相手の何もかもを許すことなんてホントにできるものなのかな。それがホントに愛なのかな?」
ユチョンは独り言のように呟いている。
ぼくは彼の髪を撫で、暫く何も言わずに話を聞くことにした。
「おれが弱かったのかな…。すきって気持ちのために何もかも捨てることなんてできる?今おれにあるのは、自分であるために必要なものなのに。おれには…できなかった。彼女がほしかったのは言葉だけだったのかもしれないけど、あげられなかった」
すきって気持ちのために、すべてを捨てられるのだろうか。そういうものなのだろうか?
家族も友だちも、夢も歌もすべて?
ぼくはチャンミンをすきになってから、まだ誰にもそのことを言ってない。
誰かに相談したいのに、どうしたらいいのか全然わからないのに、どんな秘密も分かち合ってきたジュノにも、信頼に足る長いつき合いのユノにも、いちばんそばにいる友人であるユチョンにも、ぼくの気持ちに気づいているであろうジェジュンにさえ、今でも言えないでいる。
捨てられないよ、ユチョン。ぼくも捨てられない。
すべてどころか何ひとつも。
「なんか結果的には、綺麗なとこばっかりしか見てあげられなかったのかもね。ぜんぶを受けとめてほしかったんだろうな。だけど人のぜんぶなんて所詮分かち合えないものじゃん…すべてをすきになることなんてさぁ、机上の空論みたいなものじゃない?」
キジョウのクウロン…へぇ〜、ふぅ〜ん…
「不思議だよね、家族はさぁどんなに鬱陶しくても、いやなところばっかり目についても、無条件でいつまでだってすきでいられるのに…どうして恋はいつまでも続いていかないんだろうね?」