小説:ジュンス片想い編
□Somebody to love
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Chapter 3. Somebody to love
もうすぐ、夏になろうとしている。
日本の夏は、暑いらしい。湿っぽくて過ごしにくいと聞いている。ぼくたちは新曲のプロモーションのため、日本ではじめての夏をすごすことになった。
移動の飛行機のなかでiPodを聴きながらぼんやりする時間は、日韓両国で忙しなく芸能活動を続けるぼくたちにとって、結構贅沢な休み時間である。
ぼくは昨日ジェジュンにお薦めしてもらった洋楽のアルバムをかけながら、"日本語での日常会話"という本を広げていた。
勉強することはいつだって欠かせない。
憧れるヒョンたちのメンバーでいるのに恥ずかしくない自分でありたい。そのためにはいくら努力してもし過ぎることはないと思う。
ページを捲り、新しい章"目上の人に対する挨拶"に入ろうとしたとき、右肩をちょんちょんと突っつかれた。
今日右隣に座っているのはユチョンだ。
「チャンミン、チャンミン」
なんだかいつ見てもあっさり系のイケメンだよなぁ、ユチョンヒョンは…。その細くて人の良さそうな目が、穏やかなほほえみの弧を描いている。
この人がこういう優しい表情をするとき、その対象はいつも決まっているのだ。
ぼくは右耳のイヤフォンを外し、彼の低いひそひそ声が聞き取れるようにすこし体を傾けた。
「見て見て」
そう言って親指で自分の右隣の席を指し、ぼくにその人が見えるように乗り出していた身をシートに埋める。
ジュンスは頭を窓にぶつけるように傾けて眠っていた。そのおかしな角度に、思わず笑い声が漏れる。
「なんですか、あの角度」
ユチョンは心底楽しそうに笑う。
「超可愛くない?さっきまで頭ぐらぐらしてたんだけどさぁ」
変な皺が寄っている頬、見てるこっちが情けなくなる半開きの口。子どもみたいな顔で寝ている姿はとてもヒョンだとは思えないほど幼い。
デビューが決まって、新しくできた四人のヒョン。うれしいやら気恥ずかしいやらで、未だにうまく甘えられないでいる。
そのヒョンたちのなかでいちばん話しやすいのがジュンス。いつも茶目っ気たっぷりで、楽しいことばっかり考えてて、ぼくより歳上とは思えない奔放な性格で、だけど仕事になると急に違うスイッチが入る、興味深い人。
家庭では末っ子の経験がないぼくと違って、素で可愛らしく甘えられる天性の末っ子キャラの持ち主である。
「痛くないんですかね、首」
「起きたら痛いだろうね〜」
いつも飛行機移動のときは寝ちゃうんだから、専用の枕を持ってくればいいのに。
「ふふ。ジュンスってさ、何かとちいさいよね。背もだけど、手とか鼻とか」
ユチョンは可愛い弟を見る目でジュンスをみつめる。ジュンスのこともまた、実の弟に対して感じていると同じように、大切に思ってるんだろう。
ぼくは言われたので改めてジュンスの鼻を観察してみた。ちいさいと言えばまぁ確かに。でも顔の面積から言ってちょうどいいサイズではある。
手も…手は、確かにちいさかった。そして子どものように暖かかった。あの柔らかい手を握りしめたとき、不思議なくらい安心することができた。
ぼくの弱さを掬ってくれたヒョン。そばにいると約束してくれた。ジュンスにとってはなんでもないであろうその言葉が、ぼくをこんなに救ってくれている。
余計なことを言わずに、ただとなりにいてくれたことがうれしかったな。彼らしいやりかたで励ましてくれた。
あのとき、デビューからずっと慌ただしくてみつめられなかった自分の心と、ちゃんと向き合えたと感じられた。自分のすべきことが見えて、自分のいる場所がわかって、はじめて新しい時間が刻まれはじめる。
ジュンスがそこにいて、大丈夫だと言ってくれたから。いつだってぼくを笑わせてくれる、ぼくのいちばん歳の近いヒョン。
「そうですね。そう言えばあんまり背が伸びてきませんね」
出逢った頃は同じくらいだった目線が、最近は見下ろさないと合わなくなってきた。ぼくはどうやら成長期らしい…。顔もなんか変わってきた。幼さが抜けるのはいいけど、崩れたりしたらいやだなぁ。
「ジュンスはこのままでいいよ。でかくなったらイヤじゃない?」
「…確かに」
やっぱり男なら高いほうがカッコいいとは思うけど、ジュンスのイメージから言ってあんまりデカイとなんか違う気がする。まぁ言うほど低くないからいいかもしれないけど、ジュンスは伸ばしたいかもね。すきな人いるって言ってたし。
そう言えばあの日どさくさに紛れてすきな人の話追求できなかったな。ちょっとしたことで(映画のキスシーンとか)すぐ赤面するような人だから、ちょっと揺さぶればすぐ吐きそう。今度機会があったら訊いてみよっと。
恋かぁ、いいな。
ヒョンたちはみんな恋してるんだろうか?してそう。みんなモテそうだし。いちばん可能性がなさそうなジュンスでさえ恋してるんだし。
ぼくも自分に余裕ができたら恋したいな。いつになるんだろう。30歳とかになってたらどうしよう?魔法使えるようになったりしてね、ハハ…笑いごとじゃないな。