小説:ミンス完全妄想編
□患者と医者【2U】
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「この辺ね、いいよ!そんなに混まないし、道も広くて綺麗だし、ちょっと行けば街、ちょっと行けば海で。ドライブにお薦め」
となりで呑気に話し続ける彼に、ちらりと目を向ける。
その整った横顔にときめいたことなんて微塵も感じさせないように、細心の注意を払いながらトーンを抑えてこたえた。
「へぇ。ユノさんもよくドライブとかするんですか〜?」
「おれはあんまりしないかなー。出掛けるにしても乗せてもらっちゃうことが多いよ。ユチョンさんは運転すきなんだったよね」
こういうところも、すき。
以前話したなんでもないことを覚えていて、こちらが話しやすいようにと会話に組み込んでくれる。
そこにさりげなさなんてなくても、そのまっすぐな気遣いと類稀なる暖かさで、相手の心を簡単に開いてしまうのだ。
自分だけじゃないことは、わかってる。
この人がどれほど熱心な医者であるかは、おれ自身身をもって知ってることだから。
それでも、惹かれずにはいられなかった。
どうしようもなくすきになってしまった。
こんなに人を思うことができるなら、せめてもうちょっと脈のありそうな人に惚れたかったなぁ。
ま、そんなこと願ってもしょうがないけど。
「そうですね、おれは結構乗ってますね〜。まぁ、ドライブったってとなりに乗せるのジュンスくらいしかいないけど」
「えー、ホントに?女の子とか乗せてロマンチックな夜景デートとかしてそうなのに。あ、そうだ!今度は四人でドライブに行くのもいいね」
無邪気なもんだな。
女の子どころか、この車にすきな人を乗せたのも今日がはじめてなんだけど。
そう、言ってしまおうか。
さりげなく伝えられるのなら、このまま…
だけど万が一スルーされたら、その気まずさに堪えられるだろうか。
彼のマンションの前でブレーキを踏んだとき、そのときが、たった一度のチャンスになる。
告白なんて、真っ正面からするもんじゃないとおれは思う。
恋愛ってある程度相互作用のあるものなんだから、なんとなくこちらが匂わせれば、なんとなく向こうも態度で示してくれるし。
すきだと口にするのはタイミングとテクニックを要するし、簡単じゃない。
正直、おれは今までその言葉を、女の子をよろこばせるためにしか使ったことがなかった。(家族とジュンス以外には)
こんな状況で、うまく言えるのだろうか。
それでも言いたいと思う、この押しつけがましい気持ちが愛?
わからないけど、この人はたぶん、否定せずに受けとめてくれるだろう。
それを信じられるからこそ、こんなに怖くても、言いたいと思う気持ちは消えない。