小説:Bigeastation編1~30
□13:Bigeastation 13.
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チャンミンは平気そうな顔してたなぁ…
そういえば、あの日くらいからかも。ちょっと機嫌が悪くなったの。
ツアー終わって疲れてるんだな、と思ってたけど…
「ありがとう。おれも、メンバーが泣くの見て我慢できなくなるユノが、だいすきだよ」
もしかして、怒ってたりする?
ぼくが約束守らなかったから?
人前では泣くなって言われたの、忘れたわけじゃないけど…
だってしょうがなくない?
ユチョンが泣くのが悪いんじゃん。
ぼくだって我慢してたのに、先に泣かれちゃったらさぁ。
やっぱり込み上げるものがあるわけで…
「60歳になってもいっしょにいようね」
「うん。ずっといっしょに歌って、いっしょに踊って…」
「あっは、踊れるかなぁ?おれの限界は25歳くらいだと思うよ〜」
それは早すぎる、と笑いながら、ユノはテーブルに食器を並べはじめる。
「ジュンス、そろそろご飯だよ。ゲームやめな」
「え?あ、うん」
手に持った携帯ゲーム機がセーブ画面でとまっていることに、そう言われて気づいた。
チャンミンはご飯という言葉にガバッと起き上がり、いそいそとテーブルに近づいてくる。
「ユチョンヒョン、ほらご飯ですよ」
「急に元気になったなぁ〜。いいね、若者は現金で」
のっそり立ち上がってくるユチョンをよそに、さっさと席につくチャンミン。
ぼくがそのとなりに座ろうかどうか真剣に考えている間に、ユチョンはチャンミンのとなりを空けてその向こうに座った。
「よし、食べよう〜」
「ジュンス、座りなよ」
ジェジュンに促されて、チャンミンの右どなりの椅子を引く。
彼は一瞬ぼくを見て、すぐご飯に視線を戻した。
ぼくよりご飯、ってことなの?
まぁまぁ、どちらか取れって言われたらご飯ってこたえられても驚かないけど。
…絶対訊かないでおこう。
「自分が60歳になったら何してると思う?」
食卓を囲みながら、ユノが突然切り出した。
さっきの会話を思い出したのか、ユチョンは笑いを噛み殺している。
チャンミンは食べるほうが大切と言わんばかりに箸を休めることなく返事をした。
「年金と貯金で悠々自適の老後生活を営んでると思います」
「ええ、引退してる予定なの?!ずっと歌ってようよ」
「人間には限界ってものがありますよ。ぼくは弱っていく姿をファンに見せたくないんです」
なんだかなぁ。
現実的っていうか。若いのに妙に冷めてるよね、チャンミン…
「ジュンスは?」
「えっ?うーん、そうだなぁ…さすがに踊れなくなってるだろうけど、やっぱり歌ってたいかなぁ。あ、後ね、少年クラブチームの監督やりたい!韓国のメッシを育てるんだ」
それと、できればそのときになっても、チャンミンと…
いっしょに歳を取っていけてたらいいなぁ。
どうなってるのかな、未来は。
素敵なお爺ちゃん同士になれてるかな?
「そんな方面に行くの?歌手やりながら監督?」
「え、無理かなぁ?ユノヒョンは?」
「おれはー…その頃には時間があるだろうから、もう一回みんなでさ、仕事でまわった場所をひとつひとつ旅してみたいな」
それ楽しそう、と笑い合うジェジュンとユチョン。
チャンミンは目下食べることのほうが楽しいようだ。
「ジェジュンは?」
「おれはね、音楽的なプロデュースができるようになってたいな。おれたちみたいにがんばってる若者の夢を、ひとつでも多く叶えてあげられるような仕事がしたい」
「おお〜カッコいいじゃ〜ん」
テーブルのまんなかのおかずに手を伸ばそうとしたとき、同じように伸びてきたチャンミンの手とぶつかった。
ぼくが腕を引くより先に、彼はパッと身を跳ねさせる。
「あ、ごめん」
「いえ、こちらこそ…」
なんか、ぎこちない。
やっぱり怒ってる?
何か気に障ってても言わないもんなぁ。
早いとこ謝ろ。
「ユチョンはー?」
「おれは銀婚式を迎えてたい」
「銀婚式?」
うんうん、とユチョンは神妙に頷いた。
「たぶん、このなかで結婚するのはおれだけだから。子どもいっぱいつくって、五人ぶん孫を抱きたい」
「いいなぁ!おれもユチョンの孫抱きたい〜。女の子がいいな、女の子」
「やだよ!ジェジュンヒョンに抱かせたら悪い女になっちゃう」
「ああ〜?おまえのほうがよっぽど女をダメにする手を持ってるくせに」
ふと呼ばれた気がして、となりを見る。
チャンミンは胸が痛くなるほど切ない顔で話を聞いていた。
その表情に喉がつまって、何も話しかけられない。
何考えてるの?
どうしてそんな目するの?
そんな顔でユチョンを見ないでほしい。
ぼくはそれをどう捉えたらいいの?
「ご馳走さまでしたー」
「はーい。お風呂誰から行く?」
チャンミンはいち早く立ち上がった。
「ヒョンたち先にどうぞ。ぼくは当番なので、食器を洗ってます」
「あ、そっかそっか、ありがと。じゃあ四人でじゃんけんしよっか」
大丈夫かな、疲れてるのに。
明日にして寝ちゃってもいいんじゃない?
ぼくが仰ぎ見ると、彼は微かに眉を上げて、何か言いたそうに目を細めた。
「ジュンス?聞いてる?」
「ん?あ、ぼくも後でいいよ。疲れてないし。チャンミン、手伝おうか?」
四人の目が一様にまんまるくなる。
「どうしたの〜、ジュンス。調子でも悪い?」
「なんか変なものでも食べたのかー?」
「変なものって失礼な!単にチャンミンとふたりになりたいんでしょ」
そんなつもりじゃないのに、頬が熱くなる。
ていうか!ぼくが手伝うと言っただけでそんなに騒ぐかね?
ぼくだって、いつもふつうに…わりと屡々…まぁたまには…ごく稀に、そういう申し出だってするさ!
チャンミンはぼくから目を逸らして、首を横に振った。
「いいです。足手まといになりそうなので」
「何っ?!聞き捨てならないな、ヒョンを捕まえて」
「はいはい。お風呂行ってらっしゃい」
めっちゃ雑にあしらわれてない?
大体、食器洗いに足手まとうことなんかあるか?
チャンミンを心配して言ってるのに!
ユチョンには甘えても、ぼくのことは揶揄うだけなの?
「お風呂…チャンミン、やっぱり入浴はニューヨー」
ゴイン!
言い終わる前に、頭上にお盆が降ってきた。
「煩いですよ、ヒョン。家のなかに親父ギャグを持ち込むのやめてください」
「痛いなぁ!最後まで言わせてよ!」
「ぼくは自分の頭を守ったまでです。これ以上聞いたら腐りそうなので」
なっ、な、なんて生意気なんだ!
人の頭を殴っておいて!
ぼくがヒョンだってわかってる?
出逢った頃はあんなに弟らしかったのに…
それでも、彼がぼくを見て笑ってくれたので、それはそれでよしと思わされてしまった。
結局、惚れてるほうの負けなんだよね。
笑顔を向けられるだけでこんなにもしあわせになっていく。
ねぇ、どれだけ不安にさせられてもかまわないから、ずっとこうして笑っていて。
60歳になっても、踊れなくなって引退する日がきても、変わらずきみのそばにいられるように。
そのときにはどっちがヒョンとかどうでもよくなってるかもしれないね。
それでも、きみが笑ってくれるたびに心が疼く、この気持ちをずっと忘れないでいたい。
ぼくが泣いたのはね、チャンミン、夢見た場所に、夢見ることも許されなかった人と立てた、その奇蹟をあのとき光のなかで思い知ったからだよ。
あんなに長い間、叶えることは絶望的だとあきらめてきた夢。
今はそれをいっしょに叶えられるんだって、そうはじめて、思えたから…
この手を放さないで、お爺ちゃんになるまで、歌えなくなるまでずっと大切に、互いの重なる時をみつめよう。
この愛を誇りながら。
その笑顔を、誰よりも多く眺めながら。
きみの疲れを癒せる存在になれたらいいな。
ずっとずっと、そばにいたいから。
ぼくの夢を叶えてくれてありがとう、チャンミン。
きみをすきになれて、ほんとうによかった。
It has finished,
at 03:30 September 26,2012
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