小説:ミンス完全妄想編
□患者と医者【起】
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「……が………た…、……」
「ちょっと待ってください」
机の奥からいらない紙を取り出して、彼にペンを手渡す。
「どうぞ」
ぺこっと頭を下げて、紙に質問を書きはじめる。
左利きか。なんか子どもがプリントに落書きしてるみたいに見えるなぁ。
ボタンを外したままのシャツから無防備に胸元が覗く。
あーあ、欲求不満かなぁ。
最近女の人と遊ぶ時間もつくれてないから…
書き終えた紙を渡され、さっと目を通した。
熱が出てきたら、風邪と判断していいですか?
「そうですね、その可能性は高くなりますね。それで熱が下がると同時に喉が治ったらそう判断していいと思います。ただ、声が多少出るようになっても違和感が消えない場合は、もう一度きていただきたいです」
彼はなるほどと頷いてみせ、立ち上がって丁寧に頭を下げた。
ぼくも立ち上がり、徐に彼に近づいて、無防備極まりない喉元のボタンをとめた。
「声が出ないのは不便ですよね。お仕事に支障をきたすようなら証明書をお出ししますが」
ネクタイをきゅっと締めてやると、照れたように笑う。
その顔があまりに可愛くて、なんだか頭がくらくらした。
疲れてるんだろうな…
そろそろ休暇でも取りたいものだ。
彼はさっきの紙にささっと何かを書いてぼくに見せた。
とりあえず上司と相談します。
「そうですか。何か問題がありましたらいつでもご相談くださいね。お大事に」
もう一度頭を深く下げて、一個上のサラリーマンさんは帰っていった。
それからあと三人診て、一日ぶんの書類の整理をして、ちょっと調べものをしようと思う頃には10時半を軽くまわっていた。