小説:ジュンス片想い編
□Miss you
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彼はスタッフに頭を下げながら、誰よりも早く控え室に下がっていこうとしていた。
長い足を有効に駆使して、足早に扉の向こうへ消えてしまう。
「ジュンス!楽屋戻る前に何か飲み物買ってかない?喉渇いちゃった」
振り返ると、ユノがにこやかにこちらを見ていた。
不安だった怪我もすっかりよくなり、仕事ができるのがうれしいとその爽やかな笑顔が告げている。
ぼくは申し訳なく思いながら、でもこのチャンスを逃したら次いつチャンミンとふたりで話せるかわからないので、すこし御座なりにユノの誘いを断った。
「今は飲み物いいや。六時過ぎてるからあんまり口にしたくないし…ごめん、ユチョンたちと行って。ぼく先に行ってるね」
そう言って、彼の返事も待たずに走り出す。
関係者で溢れ返るスタジオを抜けて、いろんな人のファンで列のできている廊下を駆け抜けた。
そこに自分のファンがいたかどうかも覚えていない。もしかしたら何かくれようと待っていてくれたかもしれない。
でも、そのときのぼくはそれどころではなかった。
やっとまたあの後ろ姿を視界に捉えたとき、チャンミンは楽屋のドアに手を掛けていた。
「チャンミン!」
ぼくの声に、視線を上げる。
目が合うと、すこし哀しげに眉を傾げてみせた。
「何ですか?」
その声の冷たさに気づかないふりをするのはつらかった。
まるで、話しかけるなら仕事のことだけにしてくれって言われてるみたいで。
それでも、引き下がるわけにはいかない。
いつまでもこのままではいたくないんだから。
「この撮影が終わったら、すこし時間あるでしょ」
チャンミンは眉をぴくっと動かして、腕時計を見た。
「終わったらって、そうしたらもう夜中ですよ。明日も移動で撮影入ってるんですし、すぐ寝るつもりですけど」
ごもっともです。
「すこしでいいから。どうしてもふたりで話したいことがあるんだ」
チャンミンの視線が、心に冷たく突き刺さる。
怯まずにいるために、ぼくの左手は強く拳を握っていた。
チャンミンはふぅと溜め息をつく。
「今日じゃないといけないんですか?」
「今日以外に時間つくってくれるの?」
勿論、今日はもう疲れてるから寝たいと言われれば、先送りにできない用件ではない。
だけど、そうするにしても約束を取りつけておく必要があると思った。
だって絶対逃げるもん。今だってあわよくばさらりと交わしてしまおうと思ってるでしょ。
いつも揶揄われてばっかりのヒョンだと思うなよ。
ぼくだって、本気出せばこのくらいの駆け引きできるんだからね。