小説:ジュンス片想い編
□Eternal...
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「戻りましょうか」
チャンミンの声に、ぼくはカメラを仕舞いながら頷いた。
枯れ葉の舞う道をふたりで、晩ご飯が楽しみだという話をしながら歩く。このロケはゆっくりできてうれしいね、と笑い合う。彼の髪が風を受けて靡くさまを、言葉では表せないほどのしあわせを感じながらみつめた。
「お帰り〜」
相変わらずジェジュンと語らっていたユチョンが、ぼくらを見て緩くほほえむ。
「ちょうどよかったね!もう終わるよ」
「そうですか、よかった」
チャンミンはジェジュンにほほえみかけて、持っててくださいと言ってデジカメを手渡した。そしてそのままメイクさんのほうへ歩いていく。
「どうだったぁ、ジュンス?」
「えっ?あ、すごい綺麗だったよ」
ふぅん、と言って手を出すユチョン。ぼくはユチョンのとなり、さっきと同じ椅子に腰かける。
「撮ってきたんでしょ?見せて〜」
ぼくはジーンズのポケットからデジカメを出そうとして、手をとめた。
チャンミンの写真が入ってるんだった…
ユチョンとはしょっちゅう写真を見せ合っている。これはこうだった、あれがすごかったなどと教え合うのが楽しいのだ。
ユチョンは綺麗なものがすきだから、あの景色は気に入るだろうな。
だけどこの写真は…ジェジュンのいる前だから尚更だけど、できれば誰にも見せたくない。ユチョンだって勘のいい男だし。
ふたりで撮った写真はともかく、こっそり撮ったチャンミンの横顔は見せられないよなぁ。
「いや…忘れてた」
「なんだよぉ〜気になるじゃんか!おれも見てこようかなぁ」
そう言って立ち上がるユチョン。ぼくは椅子の背にかかっている彼の上着を手渡した。
「風すごいから、着てったほうがいいよ」
「おっ気が利くねぇ〜。ありがと、ジュンス」
そう言ってユチョンは軽やかに上着を羽織る。
喘息持ちで体の弱いユチョン。この忙しいスケジュールのなか風邪でも引いたら死んじゃうかもしれない。(ユチョンの魂に安らぎあれ。アーメン)
現場では、出番の終わったユノと交代のチャンミンがハイタッチして、軽くハグを交わしている。ユノの意外なほど細い指が、ぼくの愛しい人の背中にふれた。
心が軋み、瞬きが重くなる。
ああ、よりによってユノにまで嫉妬するなんて。チャンミンのことを可愛い弟としか見てないことが明らかなユノにまで。
うう、恋って醜い。
「おれも行く」
すこし遅れてジェジュンが立ち上がった。膝にかけていた上着を持って、ユチョンと歩いていく。
ふたりが去ったすぐ後で、ユノがスポーツドリンクを飲みながら戻ってきた。
「お疲れ〜、ユノヒョン」
ユノはぼくに優しく笑いかける。
ごめんね、妬きもち妬いたりして。ユノに彼女がいることわかってるんだよ、だけどさ…
「おぅ!ひとり?ジェジュンたちは?」
「散歩。あっちからめっちゃ綺麗に富士山見えるんだよ」
へぇ〜と言いながらぼくを見るユノ。
「いっしょに行かなかったの?」
「うん、ぼく今まで行ってたから。ヒョンも行ってきたら?綺麗だよ」
そう言ってぼくはゲームを取り出した。
ユノはそれを見て、ぼくにはかまってもらえないと思ったのか、ふむふむと頷く。
「じゃ、そうしよっかな。あっち?」
「うん。あそこに道があるから」
「わかった、ありがと。じゃあ行ってきます」
ユノは小走りで去っていく。かと思いきや途中でマネージャーを掴まえて、丁寧に自分たちが散歩に行く旨を伝えて行った。
やっぱりこのへんはしっかり者のリーダーだよね。
ぼくはやっているかのようにゲームを膝の上で開いたまま、電源をつけずにチャンミンの撮影を見ていた。
忙しなく動いているスタッフさんたちには気づかれない。ぼくの動きを観察したがるメンバーもいない。誰にも気取られることなくチャンミンをみつめられる、貴重な時間。
さっきまで無邪気に笑っていた顔が、真剣なまなざしを向けたり、物憂げな影をつくったり、時には可愛らしくはにかんだりするのを、喉の奥から心臓のあたりまでが苦しくなるほどの愛しさを抱いてただ、みつめる。
チャンミンの後ろには、薄い秋の空。群れから逸れて漂う雲が、真っ白な翼を彼に授ける。
ぼくは今朝ふたりで手を繋いで見上げた遥かな空を思い出した。白い息が重なり合う朝。チャンミンのとなりで、いつまでも彼を守りたいと願った、柔らかな時間。