小説:ジュンス片想い編

□Try my love
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 ささっと体を洗って、ががっと頭を洗って、風呂に浸かる。
 一日がんばった体がほぐれていく、最高の気分。はぁ、気持ちいー。明日もダンスあるし、足の筋肉とかほぐしとかなきゃね。

 あの曲のあのコード、今日はへたくそだったな…ダンスは完璧だったのに。そういえばチャンミン今日あそこ間違ってたな。可愛かった…一生懸命踊る姿が、たまらなく愛しくって…

 そんなことを考えながらぼんやり湯に浸かっていると、更衣場のドアが開く音がした。

 誰だよ、人が入ってるのに。
 …ん?これ、前にも思ったことあるような。

 「ヒョン?入浴中にすいません」

 ドキッ。この声。
 チャンミン?!

 なんか知らないけど思わず前屈みになってみる。
 浴室のガラス越しに見える彼のシルエットが、ぼくをさらに動揺させる。

 「な、何?どうしたの?」

 「いえ、ヒョン着替えを持っていかなかったので、大丈夫かなと思って…」

 あ、忘れてた。
 しかしどこかで経験したことあるようなシチュエーションだなぁ…。

 「大丈夫じゃないや。すっかり忘れてたぁ」

 正直にそう言うと、チャンミンが笑う。

 「ですよね。勝手に持ってきちゃいましたけど、ここに置いておきますね」

 チャンミンが持ってきてくれたんだ。よかった、ユチョンだったらどんな変なパンツ持ってくるかわかんないからなぁ。

 ん?…ってことは、パンツも持ってきてくれたんだよね、チャンミン…。ま、男同士だし、気になんないんだろうけど。やっぱりなんか恥ずかしいなぁ…たいしたパンツじゃないんだけど、だからこそっていうか…
 いや、もう気にしないどこう。チャンミンとパンツを繋げて考えちゃいけない気がする、なんとなーくそんな気がする。

 「ありがと。助かったよ」

 「いえ。でもヒョン、早く上がってあげたほうがいいですよ。ユノヒョンとユチョニヒョンが死んじゃいます」

 そう言って笑いながら、チャンミンは出て行った。
 ドクッドクッドクッ…あ、よかった。何かがどうにかなるところだった。

 ふぅ、と溜め息をついて、また湯船いっぱいに手足を伸ばす。

 そういえば引っ越してきた日、あの日も何かがどうにかなりそうで焦って着替えを持ってき忘れたぼくのために、ジェジュンが着替え持ってきてくれたんだったな。
 あの日…なんかわけわからんコト言われたような気がする。なんの話したんだっけ?確か、気持ちわかるぜ、みたいな感じだったような。なんの気持ちだよ、って思ってたら、自分も同じだからね、みたいなこと言ってさっさと行っちゃったんだよね。

 ユチョンもそうだけど、時々意味深すぎてよくわかんないところのある人だ。
 何がぼくと同じなんだろ?

 …ま、たぶん考えてもわかんないだろうな、とあきらめて目を閉じ、10数えてから上がろうと思ったとき、ふいにさっきのジェジュンの、甘くチャンミンを撫でる手を思い出した。

 そしてふと思う。もしかして、ジェジュンは…ぼくの気持ちがわかるって言ったのは、もしかして…

 ジェジュンは、チャンミンがすきなのか?

 同じだって言ったよね、ぼくと同じだって。あのときぼくは自覚してなかったけど、あの変な行動でジェジュンにはピンときてたに違いない。それで、ぼくの気持ちがわかるって言ったとしたら?後から抜け駆けだとか揉めたくなかったから、同じだってこと最初に言っておきたかったんだとしたら?

 あの手も、あの日のキスも、すべての辻褄が合ってしまうことに、ぼくは頭を抱えそうだった。

 ジェジュンがチャンミンをすき。
 ぼくと同じように…チャンミンのこと愛しく思ってるの?ただの可愛い弟じゃなくて、いちばんそばにいるメンバーってだけじゃなくて、ホントは誰かと分け合うことなく自分だけのものにしてしまいたいって感じたりするの?

 急に不安になる。
 これまでの余裕がなんだったのかと思うくらい怖くなる。

 チャンミンにもしすきな人ができたら、それは勿論つらいしいやなんだけど、何回もシュミレーションして、しかたないんだ、チャンミンの決めたことなんだって思えるように努力してきた。
 いつそのショックがきてもいいように。そのときは興味津々な顔でチャンミンの話をちゃんと聞けるように。
 だってそうすればどんなにつらくても、ずっとチャンミンのヒョンでいられるでしょ?

 だけど身近に、こんな近くに、チャンミンのことがすきな人が現れるとは思ってなかった。しかもナムジャ。いろいろ予想外すぎてぼくはどう感じればいいのかわからない。
 同志ができた、とよろこぶべき?ライバルが現れた、と身構えるべき?同じ人をすきな、しかもお互い叶うあてのない恋をしている人は、ライバルなんだろうか?

 たぶんジェジュンもぼくと同じように、どうにかすることはできないと思ってるだろう。だってメンバーだし、男だよ?打ち明けたあとの気まずさを思うだけで身がすくむ。自分もだけど、気ぃ遣い屋のチャンミンを困らせることもいやだ。あの笑顔を見られなくなるようなリスクは冒したくない。

 それとももしかしてジェジュンは、言葉じゃなくて行動で、すこしずつわからせようとしてる?アクシデントのようなキスをしたり、優しくふれたりするのは、言葉にできないことを伝えようとしてるからなの?

 もし、チャンミンがジェジュンの気持ちに気づいたら…。チャンミンはきっと、いやがったりはしないだろう。無理だとは思うけど、否定することはないだろう。ジェジュンのこと尊敬してるし、ジェジュンといるときは優しい顔するもんね。たぶん、でも…

 ジェジュンのこと、受け入れないよ、ね?無理、だよね?さすがに。だって男だもん、チャンミンは。誰よりも常識人だし。無理だろうと思うことも哀しいけど、それは当たり前だからとあきらめてる部分があるからまだいい。

 だけどもし、ジェジュンとチャンミンがつき合うことになったらどうする?ジェジュンは優しくて明るくて料理もできて歌もうまくて、努力家で自信家ででもちょっと近寄りがたいようなミステリアスな雰囲気も漂わせてて、肌は陶器のように綺麗だし顔は文句なしに美しいしスタイルだっていいし、男から見ても充分すぎるくらい魅力的だ。
 チャンミンだって、あの目にみつめられ続けたら堕ちるんじゃない?あんな綺麗な人にすきだって言われていやがる人はいないよね。尊敬するヒョンだし、もしかしてつき合ってみちゃうかもしれない。そんなことになったら、ぼく…

 そんなの、堪えられると思えない。だって、たとえばチャンミンが誰かとつき合ったって別にふたりがいっしょのところを目の当たりにするわけじゃないし、仕事でも家でも彼女がついてくることはないでしょ?
 でも、つき合うのがメンバー同士だったら(こんな想像してるって知ったらユチョン大爆笑するだろうな。ヤツはぼくがどんなに真剣なときだって平気で爆笑する)、そういうわけにはいかない。いつだってふたりがいっしょにいるところに自分もいて、ふたりを見て生きていかなきゃいけなくなる。無視するわけにもいかないし、ジェジュンをきらいになることもできない。そばにいて、誰かに心惹かれていくチャンミンを見守るのは、どんなにつらいことだろう。

 ぼくはチャンミンとつき合いたいって思ってるわけじゃない。無理だってわかってるし、チャンミンと釣り合わないこともわかってるし、こんなにそばにいられる存在であるだけでも充分にしあわせだってこともわかってる。
 チャンミンがすきだから、彼が誰かと恋をしても、しあわせでいてくれるならそれでもいい。つらいと思うけど、それはぼくには埋められない穴だから。ぼくはメンバーだし、ヒョンだし、何よりも男だから、チャンミンのしあわせのためにしてあげられることなんて限られてるもん。

 だけどもし、チャンミンがジェジュンを選ぶなら。メンバーでありヒョンであり男でもあるジェジュンをすきになるなら、ぼくは…チャンミン、ぼくは、すきだって気持ちを隠していられるだろうか?

 ヨジャを選ぶのとは違う。だって自分にも可能性があるんじゃないかって思っちゃうじゃん。チャンミンが男でもいいなら、ぼくもがんばってみようかなって。今までそうじゃないふりをしてたのがバカみたいに、つき合いたいって思いはじめちゃうじゃん。

 ジェジュンががんばるつもりなら、ぼくはどうすればいいの?黙ってそれを見守ることができる?いやだからって妨害することができる?チャンミンがそれでしあわせなら、って身を引くことができる?

 きっとできない。どうすることもできない。
 どうしよう、どうすればいい、どうする?

 
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