美しい名前
□孤独な夢
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ユリアがこの船にきて三ヶ月がたった。
俺にしてみたらまだ三ヶ月?ってな感じだ。
もうユリアがいることが当たり前過ぎていなかった頃が思い出せないくらいだ。
それくらいユリアはこの船に馴染んでいた。
俺が妹宣言してるからかどうかはわからないがユリアに好意を寄せるものはいても手をだすバカはいなかった。
というかユリアはオヤジも含めよくいえばみんなのアイドル、悪く言えばペットだった(笑)
オヤジのエロナースたちですらユリアをかわいいと可愛がっていた。
ただマルコは別だ。
あいつはユリアの気持ちを知ってか知らずか平気でユリアの前で女とイチャイチャしたり何故か冷たく当たったりしていた。
俺はそのフォロー役に徹していたがユリアは健気にも全く傷ついていないふりをしていた。
俺はますますユリアが放っておけなくなった。
一人にしてしまうと隠れて泣いてるような気がして俺はできる限りユリアの側にいてやりたかった。
…大事な大事な俺の妹だから。
ユリアはコロコロとよく表情が変わる。
それに素直でみんなに優しい。
きっとユリアは俺とは真逆の人間なんだろう。
そう思う。
そんなわけでユリアの恋は全くといっていいほど進んでいるようにはみえなかった。
そんなある日、俺はオヤジの使いッパシリで十日ほど船をあけることになった。
ユリアについてこい!
そう言いたかったけど俺はついてくるか?と聞いた。
そしたらユリアは船に残るといった。
そこには何か強い意志を感じた。
何か言おうとしたら俺の部下が耳打ちしてきやがった。
「隊長!ユリアはマルコ隊長と離れたくないんすよ!」
あぁそうか。
頭では納得した。
わかってはいたが何故か腹がたった。
ユリアはなんにも悪くなんかないのに滅茶苦茶にしてやりたい。
そんな気持ちになって俺はユリアから目をそらした。
俺は歪んでる。
ユリアはマルコに惚れてる。
一緒にいたいと思うのは当然のことだ。
それをなぜか許せないと思う…
俺は本当に歪んでる。
そのまま船に乗り込み新世界へ出航した。
二番隊の仲間たちはみんないいやつだ。
一緒に死線を何度も乗り越えてきた。
俺の家族だ。
でもなにか足りない。
俺は一人になりたくて船尾へむかった。
みんなは甲板で宴をしている。
いまはとてもそんな気分になれない。
俺が一人で海を眺めていると後ろからガタッと物音がした。
「エース…隊長。なにしてるんだ?」
ティーチだった。
ティーチは不思議な男だと思う。
俺よりもずっとずっと長い間、この白髭海賊団にいる。
隊長になりうる実力をもっていながら「俺はいい。隊長にはエースがふさわしい」とあっさりと引き下がった。
陽気で豪快で何を考えているかつかめない部分もあるが俺はティーチが嫌いじゃなかった、
「おう。おまえこそどうした?」
「あぁ俺はみんなより夜がなげえからな。ちょっと休憩だ。」
ティーチは体の構造が俺らとはちょっと違う。
そのためか奴は眠らない。
いつでもどこでも寝てしまう俺からしたらとんでもないことだと思う。
それを言えばティーチは豪快に笑う。
「早くモビーに戻りてえな」
ぽつりと本音がもれる。
「出航したばっかりなのにそんなすぐ戻れるわけねえだろ」
酒を煽りながらティーチはまた笑った。
「それもそうだな。」
俺はまた遠くの海を眺めた。
「ところで隊長もかけないか?
この十日でマルコとユリアができちまうかどうか。
俺はできるにかけるぜ。10万ベリー!!
なんだかんだいってもマルコだって男だ。
ユリアのかわいさに参らん分けはないさ。
」
俺が黙っているとティーチは喋り続けた。
「いやな、ユリアも相当マジなんだろうが何よりもマルコだ。
俺は長年の付き合いだがあんなマルコはみたことねえ。
ありゃ相当マジで惚れてるぜ。
でもよ、困ったことに賭けにならねえんだ。
みんなできるにかけちまってよ。
だから隊長はできてないにかけろよ!
ってそんな大穴狙うわけないか」
ユリアは今頃マルコと…?
想像しただけで胸くそが悪くなった。
やっぱり無理矢理にでもユリアをつれてくればよかったと激しく後悔した。
「俺は…できてないにかけるぜ。100万ベリー
」
「おっ!本当か?!助かるぜ!エース隊長ありがとよ。」
ティーチは上機嫌で甲板へ戻っていった。
この三ヶ月何も変わらなかったんだ。
たった十日やそこらでどうにかなるはずがねえ。
俺はそう信じたかった。
俺は空を見上げた。
星が煌めいていた。
ユリアもこの星をみてたらいいのにな。
ボンヤリとそう思った。