美しい名前

□孤独な夢
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はじめはオヤジを狙う刺客だと思った。

有無を言わさず殺そうとも思った。

でも急に泣き出して。

どうして泣いたのかわからないうちに笑いだしちまった。

全く意味がわからねえ。

そうこうしているうちにオヤジと話がしたいという。

オヤジと面識があるかと思えばオヤジは知らないようだし、弱っちいくせにオヤジの覇気が効かねえ。

しかも覇王色の覇気まで使えるらしい。

意味がわからないことだらけだ。

ダグラの実の皮を棄てて実を食べようとしたりロープを伝って下に降りることもできねえ。

なんか本当におもしれー奴だ。

でも一つわかるのはこいつはマルコのことが好きなんだろう。

何となく。

勘だけど。

俺はストライカーの前方にちょこんと座っているユリアの後ろ姿を見つめた。

風に揺れる長い髪。

特別に美人というわけではない。

でもなぜか目がはなせない。

町に出れば女はいくらでも寄ってくる。

昔からそうだった。

基本的に女は嫌いじゃない。

だけどその程度だ。

女がいなくても生きていける。

白髭海賊団が俺の誇りで俺の全てだ。

あぁ。あとルフィの奴がいたな。

あいつも大事だ。

俺はくくっと笑った。

いきなり笑いだした俺をユリアは振り返ってみてきた。

俺は誤魔化すように「もうすぐつくぞ」と言った。

ユリアは「はいっ!」と嬉しそうに微笑んだ。

小さな船着き場にストライカーを停めて町へ向かった。

途中、何人も知った顔の派手な女たちが声をかけてきた。

一回寝た女もいればこれからの女もいる。

「今日は珍しいタイプのこつれてるのねー」

大体は女たちの焼きもち?ともとれるようなユリアに対する皮肉たっぷりな嫌味ばかりだった。

俺は向こうに行けよとかうるせーなどと言いながら女たちを追い払った。

面倒くせーな。

気を悪くしてないか気になって恐る恐るユリアをみやるとにこにこ笑っていた。

「エースさんって愛されてるんですねぇ!」

なるほど。

感心しているようだった。

俺はため息をついた。

「誰も俺のことなんか愛してねえよ。
あいつらは俺のこと何にも知らねえからな。
白髭海賊団の隊長っていう肩書きだけで寄ってくるバカ女ばっかりだ。」

いったあとで我ながら情けない自虐的なセリフだったと後悔した。

ユリアはなんて返せばいいのか困っちまってるんだろう。

沈黙が流れた。

「さて、何か見たいもんあるか?」

気を取り直してテンガロンをかぶり直した。

ユリアは何も答えない。

下をむいている。

肩を震わせていた。

どうやら泣いているようだった。

俺はビビった。

「おい!また泣くのかよっ?!てか何の涙だよっっ??」

俺はユリアの回りをグルグル回りながら…

完全にテンパっていた。

情けねぇ。

俺は…俺は。

天下の白髭海賊団の二番隊隊長、火拳のエース…だってのに。

「泣き止め!あっ!飯食おう!腹へってんだろ?!?お前、朝飯あんま食ってなかったもんな!」

俺は慌てて食い物の店を探そうとキョロキョロした。

その時、グイッと後ろに回してある余ったベルトを引っ張られた。

俺はユリアと向き合う形になった。

ユリアの頬を伝う涙がすごく非現実的なものに見えた。

綺麗だな。

っておい!

俺はなに気持ちわりいこと考えてんだよ。

はぁ。

なんか俺は変だ。

こいつはマルコに惚れてる。

マルコの女だ。

ユリアの変なところがうつっちまったか?

こいつまつ毛ながいなぁ。

俺が滅茶苦茶に抱き締めたらこいつ壊れちまいそうだなぁ。

ってまた俺は何考えてんだよっ。

俺の思考を遮ったのはユリアの真っ直ぐな瞳だった。

「エースさん!
愛されてないってどうしてわかるんですか?
誰にも愛されてないなんて…簡単に言わないで下さいっっ」

はぁっ??

ユリアは泣きながら怒っていた。

「おまえに何がわかるんだ?
俺が一体誰の子だか分かっていってんのか?!」

俺は理性を失った。

ユリアの腕を無理矢理ひっぱって人目のつかない路地裏につれてきた。

「俺は鬼の子なんだよ!生まれてきてはいけない穢れた血なんだ!!」

思いっきり建物を殴った。

ユリアは一瞬怯んだようにみえた。

俺はここぞとばかりにまくし立てた。

「大体、お前俺のことならなんでも知ってるとかぬかしやがったがどういうことなんだよ!?」

ユリアは自分の服を破って俺の手に巻き付けようとした。

俺は痛くもなかったし怪我もしていないのに。

払いのけようとおもったがユリアの手が震えていて…

あまりに温かかったから俺はされるがままになった。

何か言おうと口を開こうとしたとき、信じてもらえるかわからないけど…とユリアが語りだした。

「エース…みんなエースを愛してます。
エースも心からそれを受け入れられる日がくるから。
エースは一人じゃないですよ。
…私がエースを守るから。
エースがいないと…私はダメなんです」

俺の砂漠のように乾いた心にユリアの言葉が水のように染み渡っていく。

なぜかルフィのことを思い出した。

俺の大切な弟…

あぁ。

こいつなんだかルフィみたいだ。

言ってることの内容とかそんなんはどうでもよくて、うまくいえねえけど。

本当、なんかこいつルフィみたいだ。

昔、あいつは俺がいないとダメだといってくれた。

生まれてはじめてココニイテイインダと思える場所ができた瞬間をルフィがくれた。

あのときのような穏やかな満ち足りた気持ちを感じた。

「おまえみたいな弱虫に守ってなんかもらいたくねーよ。」

フフっと笑うユリア。

俺は…生まれてきてよかったのかな??

誰ともなくらしくない言葉が知らずに口を出た。

「はいっ!
誰よりも自由にずっとずっと生きて笑っててほしいです!」

「なんだそりゃ!?俺は死なねえよ!ってそう言えばルフィのやつも昔同じようなこと言ってたなぁ。俺が死ぬとかよー」

「ルフィさんも白髭海賊団の仲間たちもさっきの女の人たちも、みんなみんなエースさんのこと愛してますよ」

ユリアは優しくまた微笑んだ。

その瞬間、俺に大事なもんが一個増えた。

白髭海賊団。

ルフィ。

そして…ユリア。

こいつは信用できるいいやつだ。

こいつがマルコの女でも俺はこいつを守ってやりたい。

「おまえ、おれの妹になれっ!
なっ?!今日からユリアは俺の妹な!!
よしっ!後で杯を交わそうっ!!」

「……………………」

「あっ!これありがとな!服破っちまったな。よし、買いにいくぞ!!」

俺は来たときよりは優しくユリアの腕を掴んで町の方へ駆け出した。

色っぽい女が好みのマルコが喜びそうなとっておきの服を選んでやる!!
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