美しい名前

□夢現
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目覚めるとそこは海の匂い。

規則的な波音。

生温い風が私の体を吹き付ける。

私は薄暗い灯りを頼りに起き上がって辺りを見渡した。

ここは…どこ?

朧気な記憶をたどる。

…昨日はいつものようにバイトから帰ってワンピースを読みながら寝た。

お風呂にはいらなきゃと思いつつ読み始めたらついつい夢中になってしまった。


それは幾度となく読んだエースが死んでしまった巻。

私は泣きながら眠りについた。

…はず。

でもこの板張りの感触。

規則的な波の音。

海のにおい。

私は私の部屋にいない。


強く目をつぶってみた。

そして恐る恐る目をあけた。

夢が消えてしまいそうな気がしてすごく怖かった。

でも目を閉じても変わらず聴こえる波の音に海の匂い。

私はほっとして目を開いた。

何がどうなってこうなったのかは全然わからない。

でも私はこれたんだって半ば確信した。


ワンピースの世界に。

私はゆっくりと歩き出した。

薄暗い灯りはゆらゆらと揺れながら私の足元をてらしてくれる。

不思議と怖くなかった。

それよりも一刻も早くエースに会いたかった
…。

私が乗っている船はもしかするとモビーディック号なのかな?

ぼんやり考えながら歩いているうちに広い甲板にでた。

そこには宴のあとだろう。

空になった酒樽や食料が残されていた。

つんと鼻を指すアルコールの匂いに気分が悪くなる。

足元をふらつかせながら甲板の先に進むと船室があり左右に細い廊下が続いていた。

とりあえず私は近い方の右側の廊下を進むことにした。

その時。


音もなく私の背後に誰かが立ち背中に硬い鋭いものを当てられた。

そして低い声が聞こえた。



「おまえここでなにしてる?」

肩越しに首だけ振りかえると…


そこには。


エースがいた。

逢いたくて逢いたくて逢いたくて。

逢えるはずのないエースがいま、目の前で私を見下ろしていた。

何も言葉がみつからなかった。

胸が一杯ってこういうときに使うんだなぁ…

なんて想っていたら涙が止めどなく溢れだした。

聞こえるのは波の音。

生温い風が私の髪をかき乱す。

エースは背中に加える力をふっと弱めた。

「おまえ、泣いてるのか?…どうした!?誰かに何かされたのか??」

急に心配そうな声をだして焦ってる様子がとても愛しくて、私はフフッと笑ってしまった。

泣きながら笑う私をエースは呆れたような目でみた。

そしてエースも笑った。

あぁ…

このまま時が止まってしまえばいいのに。

エース。

エース。

エース。



…私の願いは虚しくエースは喋りだした。

「おまえ、オヤジの知り合いか??」


「あっ…私の名前!?ユリアですっっ!! 」

しばらく間があって…

ブハッ(笑)

エースが笑いだした。

「おまっ、名前なんてきいてねーよ!おもしれえ奴だなぁ。」

エースは相当つぼにはまったらしくまだ笑っていた。

その笑顔を守りたい。

屈託のないその笑顔をみて私は決心した。

「エース…私、白髭さんに会いたいんです。連れていってくれますか?」

エースはニカッとわらってあぁついてきなといって歩きだした。

私は広くて逞しいエースの背中に見とれながら黙ってついていった。
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