よくよく思い返してみれば、俺はアイツを泣かせてばかりだった。

家は隣同士。もちろん通っていた小学校も同じだった。アイツのほうが俺より一つ年上だったから、流石にクラスまでは一緒ではなったが、登下校はいつも一緒だった。

アイツはとても小柄だった。声も小さかった。ついでに気も小さかった。同学年の友人たちの前でもオドオドしていたし、俺や兄さんの前でもそうだった。

そのオドオドしたのが癪に障って、色々と暴言を吐いていたのはよく覚えている。ブス。マヌケ。バカ。ノロマ。全部幼稚な言葉たち。それでアイツはよく泣いていた。シクシクと声を抑えて。なのに、それでもずっと一緒に登下校していた。たまに泣きながら歩く時もあった。少し気まずかった。もともと小柄なアイツが、余計に小さく見えた。

俺が小学6年生の春を迎えたのと同時に、当然ながらアイツは中学1年の春を迎えた。運動部に入ったのか、早い時間に家を出て行く姿を何度も見た。行き先はバラバラ。登下校の時間もバラバラ。小6になって初めて、通学路はこんなにも広かったのかと思い知った。

ある日、小学校に通うのもあと少しになってきた頃、アイツの家に男が来た。一目でアイツの彼氏だと分かった。家に上がっていって、とその男の隣で言うアイツは、ピンク色の頬をさらに赤くして、とても幸せそうに笑っていた。ブスだの何だの酷いことばかり言っておいて、実のところ俺はアイツが好きだったのだ。そのことに気付いた。

アイツ、笑ってた。

ベッドに寝転がり、自分の部屋の天井を眺めながら呟いた。思い出すのはアイツの泣き顔ばかりで、あんな笑顔は初めて見た。

暫くして中学生になった。家は離れた。けれど学校は同じ。クラスは学年が違うのだから別々。登下校も一緒じゃなかった。

やっぱりアイツは小柄で、声も小さかった。気は少しだけ大きくなっていたが、それでもまだ小さい方だった。友人たちの前ではオドオドしなくなっていた。兄さんの前でもなくなっていた。ただ、俺の前では以前と何も変わらなかった。いや、あまり顔を合わさなくなった。

アイツの隣には変わらずあの男が陣取っていた。俺の隣には変わらずアイツの泣き顔が付き纏っていた。



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