短編
□それで聞くなら苦労はない
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「京介の部屋ってつまんない」
俺の部屋に来て初めての彼女の第一声がそれだった。
「は?」
コーラの入ったグラスを両手に、部屋の入り口で立ち止まる。飲み物を取って戻ってきた最初の一言がそれでは、どう反応すべきか分からなくなるのは当たり前だ。
「ほら、普通の健全な思春期男子なら、エロ本の1冊や2冊、10冊あってもいいと思うんだけど、この部屋そういう本が何にもないのよね」
「10冊は多すぎるだろ」
「そんなことないよ。うちのお兄ぃ、39冊のエロ本隠してて、全部お母さんに捨てられてたもん」
「それはお前の兄貴がおかしいんだ」
グラスを差し出し、詩音の向かいに腰を下ろす。一口飲むと、でもさぁ、とまた彼女が口を開いた。
「エロ本がないのは彼女としては嬉しいんだけどさぁ、なかったらないでちょっと心配なんだよね」
「まだそのネタ引っ張るのか」
「健全と言う名の不健全でしょ。まぁ?京介はちょっとサッカーバカなとこあるから、仕方ないかなって思ったりはするよ?」
「誰がサッカーバカだ」
「でもね、それでも男の子なんだから溜まるもんは溜まるでしょ」
「溜まるとか言うな」
「つまり、エロ本なしでどうやって抜くって話な訳よ」
「悪いがちょっと黙ってくれないか」
段々頭痛がしてきた。何が楽しくて彼女とエロ本の話をしなくてはならないのか。はぁ、と一度深く溜め息を吐き、コーラを飲む。
「ねぇねぇ京介」
「あ?」
「好きだよ」
「…ばーか」
いまだにそういうことを面と向かって言われるのに慣れなくて、ふいとそっぽを向く。すると急にあっ、と詩音が声を上げた。
「そっか!私が家に来る前に、エロ本隠したんだ!!」
ちょっと黙っててくれ。
それで聞くなら苦労はない
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エロ本39冊云々は実話だったり。