短編
□恋をするって難しい。
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※ちょっとだけ閲覧注意
ぼろりと涙が零れた。
悲しくなんかなかった。泣くつもりだってなかった。でも私は泣いた。本当に涙はぼろりと出てくることがあるものなのだと、心底驚いた。
視線の先には部活の先輩。バスケの上手い先輩。勉強を教えてくれる先輩。優しい先輩。かっこいい先輩。面白い先輩。みんなから人気の先輩。憧れの先輩。みんなが好きになる先輩。私の好きな先輩。だった。
好きだった。憧れもあったけれども、それとはまた違った意味で好きだった。ぼろりと零れた涙は一粒だけで、続けて溢れ出すことはなかった。だって、それを知ったのは今ではなかったから。もうずっと前から知っていたことだったから。
「詩音?どうした?目にゴミでも入ったの?」
先輩が言った。それに慌てて首を振り、目を洗ってきますとかなんとか、そんな風に適当に言ってその場から逃げ出した。先輩の後ろの方で、こちらを見るあの子が怖くて。多分あの子はそんな気で見ていたんじゃない。あの子はそんな子じゃない。知ってる。知ってるけれど、その2つの目が私を睨んでいるような気がして逃げ出した。
「詩音?どうしたんだ?目にゴミでも入ったのか?」
先輩と同じ質問。でも彼とはまっすぐに向き合えた。あの子がいないからじゃない。私をちゃんと理解してくれる京介だから。だから向き合える。
「先輩見てたら、なんか急に泣いちゃって」
「そうか」
彼には言っていた。私が先輩のことを特別に好きだってことを。普通なら避けられたっておかしくないのに、彼だけは私を応援してくれた。私のこの気持ちは大事にするべきだと言ってくれた唯一の人。最高の友達。それこそ親友以上。
京介は何も言わずに抱き締めてくれる。背の高い彼に抱き締められるのはまるで、先輩に抱き締められているようで少し罪悪感を感じるのだけれど、それでも彼が良いと言ってくれるので、そんな優しい彼に甘える。
「京介、ごめんね」
「今更だな」
彼は優しく微笑んだ。クラスの子達は皆、彼のことを怖いと言う。私にはあの子達の言っていることが分からない。こんなに優しい人に私は今まで出会ったことなんてなかった。彼のことを知りもせずにそんなことを言って欲しくない。
「京介はこの気持ちは大事にするべきだって言ってくれたけれど、やっぱり捨てた方がいいのかもしれない。私自身、この感情がおかしいってことくらい自覚してるの。私が先輩を好きでも、先輩は絶対に私を好きになることなんかない。それをちゃんと理解してるから、余計に辛いの。だって!私は女で、先輩も女なんだから!私も、あの子みたいに男で生まれたかった…!」
京介は無言で抱き締め続けてくれた。私にはそれはとても居心地の良くて、とても心苦しいものだった。彼からの私への好意は前から知っていたし、そもそも彼からのその告白があったからこそ先輩への恋慕を告白出来たのだ。彼を友人以上には見れないと言ったが、それでも側にいてくれる彼は、確かに私の安息の地を与えてくれた。
「(京介を好きになれば良かったのに)」
彼の心地好い鼓動の音を聴きながら思った。
恋をするって難しい。
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つまりこういうこと。
剣城→私→先輩(女)→←あの子(男)
最初は、剣城はあの子が好きって設定だったんですが、そこまで行くともう夢小説じゃないな、と思って止めました。はい。
同性愛思考が苦手な人もいるかと思い、閲覧注意表示をしました。
私自身としては全然平気ですし、それも一種の恋愛の形だと思っています。
この話は私の作り話で、同性愛者の方たちを非難差別するものではありません。