勝雪小説

□幸せ夫婦計画
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「ココア飲むか?コーヒーの方がええ?」
「ううん、ココアがいい」
「そぉか。ならちょお待っとき、すぐできる」
「ありがとう」


そう言うとまたドアの奥へと消えた勝呂くんはいつもの祓魔師としてのコートは着ておらず、自宅用のラフな格好である。こうして勝呂くんの家に来るのは何回目だか分からないくらいで、彼ももう慣れてしまったようだった。その証拠に、何を飲むかと聞く時は決まってココアが最初に来る。僕が実はかなりの甘党で、ここに来るとだいたいココアを飲むからだ。つまり口に出さなくともそれくらいは分かるほどには一緒にいるということ。そういうのに気づくと正直ちょっと照れ臭かったりする。


「なんか夫婦みたいだなぁ…」
「何がや?」
「わっ!…っびっくりした」
「すまん。ほれココア、これで機嫌直し」
「あ、うん。ありがと」


熱いから気を付けぇや、と言いながら手渡されたマグカップは勝呂くんが僕用にと買ってくれたもの。青いパステルカラーのストライプ柄で、その綺麗な色合いが僕に合ってたから選んだのだそうだ。ちなみに初めは僕と付き合う前に誕生日プレゼントとして買ってくれていたらしい。

僕と勝呂くんの関係はここまでで分かると思が、僕たちが所謂『交際』を始めたのはだいたい二年くらい前。「すんません好いてます付きおうてください」と何故か謝りながら一息で告白を終えた勝呂くんが真っ赤な顔をして俯いていたのを、今でもはっきりと覚えている。僕とあまり背丈の変わらない、しかもちょっといかつい風貌の彼が無性に可愛くて愛おしくて仕方なかったのも。その頃からするとかなりお互いに慣れてしまって、本当に夫婦みたいなのだ。


「夫婦ってなんかいいよね」
「何や。なりたいんか」
「なりたいっていうか…」
「その場合、俺が夫になるけどな」
「えっ、僕がお嫁さん!?」
「当たり前やろ。うん、嫁って響きええな」
「…っ」


普段は一応僕の方が立場は上なんだけど、最近の勝呂くんは平気でこんなことを言ってくるものだから身が持たない。ていうか何なの嫁って。よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるものだ。だいたい誰も夫婦になりたいなどとは言っていない。


「僕じゃなくて勝呂くんでしょ、夫婦になりたいのは」
「そりゃまあな」
「…は、」
「こんな別嬪さんと付き合っとんのになりたくない訳ないやろ?」


夫婦んなったらずっと一緒におれるしな。プロポーズまがいの口説き文句をずらずらと並べ立て、最後にそう小さく呟くとふいと顔を背けた。赤くなっている頬を隠すためなんだろうけど、残念ながら同じくらいに赤く染まっている耳が丸見えだ。そういうところは変わっていないらしい。なんだか急に抱きしめたくなって、おもむろに彼の首元に腕を巻き付けた。


「…じゃあ僕が嫁になるんなら勝呂くんのことは“あなた”って呼ばないとね」
「は!?」
「それとも“竜士さん”がいいかな?まぁどっちでもいいけど、僕のことも“雪男”って呼んでよ」
「おっま、いきなり乗り気すぎやろ」


だって勝呂くんのせいだ。想像したら本当に夫婦になりたくなってしまったのだから。恋する乙女でもなんでもないが、勝呂くんが夫になるんだとか考えると幸せすぎて柄にもなく顔がニヤけてしまいそうで。僕が女役でもいいかもなんて思ってしまう。

首に巻き付けていた腕を解き、改めて向かい合って抱き着くと、戸惑いながら彼の腕が腰にまわされた。力強くも優しい腕の中に包まれながら心地好い体温に安堵する。そしてまだほんのりと赤い耳元で、小さく呟くのだ。


「ずっと一緒にいてね、…竜士さん」


最初で最後のプロポーズは、思った以上に恥ずかしかった。




∴幸せ夫婦計画



 

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