短編1
□complex
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「今日は、買い物に付き合ってっくれてありがとうね、スクアーロ」
「別に気にするこたぁねぇ゛…」
***は自分の横を歩くスクアーロを見上げながら笑った。
スクアーロは***から顔を反らしていた。
その顔が赤く火照っていることを***は知っていた。
***はそれを見て苦笑している。
「なッ、何笑ってんだぁ!?」
「だって、スクアーロの反応が面白くて…」
「うるせぇ!!」
相変わらず面白い人だ、と***は思いながらなおも笑い続けていた。
スクアーロは諦めた様にそれ以上なにも文句は言わなかった。
任務もない休日に、***とスクアーロの2人は町に買い物に来ていた。
まぁ、いわゆるデートというとこだろうか。
(にしても、スクアーロはいつ見てもかっこいいんだよねぇ…)
***はふとスクアーロを見上げた。
長く美しい銀髪。
女である***でさえも負けを素直に認めたくなる整った顔立ち。
そして、スラッと長い手足。
そう。長い手足…
(…私がチビなんじゃなくて、スクの背が高いんだ)
少なくとも頭1つ分以上はあるであろう2人の身長差。
今日***は、かなりヒールの高い靴を履いてきたがそれでもかなりの身長の差がある。
***の視線に気がついてスクアーロが振り返る。
「どうかしたのか?」
「う、ううん!スクの髪ってキレイだなぁって思って」
「オレはお前の髪のほうが好きだぜぇ゛…」
スクアーロはそう言いながら、***の髪を優しく撫でた。
「私は、スクアーロみたいな髪のほうが好き」
「そうかぁ?」
スクアーロに髪を撫でられるのは好きだった。
だが、子供っぽく見られている気がするのが少々癪に障った。
彼女は何よりも背が低いことがコンプレックスだった。
「そのうえ、童顔だからなぁ…」
「何か言ったか?」
「なんでもないよー」
子供と間違えられることなどしょっちゅうであった。
周りから見れば、***とスクアーロが同い年の恋人には見えないだろう。
「次はどこにいこ…うわッ!」
「!?う゛お゛ぉい!!危ねぇぞ!」
話しながら歩いていると、段差に足を捕られた。
スクアーロが慌てて***の体を支える。
「ンな高いヒールの靴、履くからだろうが」
「平気だもん!放っておいてよ!」
***は体勢を戻して歩き出した。
その姿は拗ねている子供のようだった。
「あのぉ、すいません」
買い物を続けていると、途中で声をかけられた。
大人っぽい2人の女性が立っていた。
2人の目はスクアーロに釘付けだ。
「今あいてたら一緒にお茶に付き合ってくれませんか」
「ちょっ、あんたいきなりすぎでしょ?」
「いいじゃない。どうですか、妹さんも御一緒にどうですか?」
女性の一人が***を見ながらそういった。
***の眉がピクリと上がる。
そして同時に殺気が出た。
スクアーロはそれに気がついて戸惑っているようだ。
「あたし、すっごくいい喫茶店を知ってるんですよ〜。
美味しいケーキもあるんで妹さんも楽しめると思いますよ〜」
「どお?妹さん?お姉さんたちととお兄さん、妹さんの4人でケーキを食べに行かない?」
女性は小さな子供にするときのように屈んで視線を***にあわせた。
・
女性たちは妹というたびに***からすさまじい殺気が出ていることに気がついていない。
***は隠しているナイフに手をかける。
スクアーロはそれに気がつき***をとめようとする。
「う゛お゛ぉい!!***…」
「私はご遠慮します。どうぞ兄と3人で行って下さい」
***はいかにも子供らしい無邪気な笑みを浮かべた。
相変わらず恐ろしいほどの殺気をだしながら。
女性たちは***の言葉を聞き表情を明るくした。
「え、でも…いいのかしら?」
「どうぞ、ご遠慮なく」
「う゛お゛ぉい!!おまっ何言って…!」
「私は、大丈夫だよぉ?お姉さんたちと楽しんできなよ、お兄ちゃん」
***はスクアーロもたじろぐほどの殺気を出しながら笑った。
そして、一礼すると走り出した。
「…………」
***はお気に入りの喫茶店で1人でコーヒーを飲んでいた。
日はすでに沈みかけ、町は赤く染まりだしていた。
スクアーロと買い物の後いつも座るお気に入りの外の席に***は1人で座ってる。
靴を脱ぎ、足をぶらつかせながら買ったばかりの本を読んでいる。
左の足には湿布が貼ってある。
走っている途中で見事に転んだのだ。
(私、そんなにガキっぽいかな…)
町を歩く女性たちを見ながらため息をつく。
(さっきの人たちくらい大人っぽかったらな…)
先ほどのことを思い出しながら***は顔をしかめた。
腹も立ってきたので帰ろうと思い始めたころだった。
「う゛お゛ぉいい…!!1人で、何してんだぁ゛!?」
息を切らした濁声が後方から聞こえた。
誰かはわかっていた。
しかし、***は振り返らなかった。
「お疲れ様、お兄ちゃん。お姉さんたちとのお茶、楽しかった?」
「…怒ってんのかぁ?」
「なにがー?」
***は思いっきり皮肉を込めながら聞いた。
怒っていないはずがないだろうと、思いながら。
「…茶なんか、飲んできてねぇぞ」
「それにしては遅かったじゃない」
「探してた。どの店にも、屋敷にいなかったからなぁ゛…」
「どうせ、私はチビだから見つから…って!?町中、探してくれてたの?」
「悪いか!?」
スクアーロの声はどこか照れているようで、***はあっけにとられた。
まさか、スクアーロが町中を探しているなどとは考えもしなかった。
すると、スクアーロがふと気づいたように声を上げた。
「う゛お゛ぉい!!足、どうした!?」
「ちょっと、転んでひねっただけ…」
スクアーロは***の前に回ってきて、足を持ち上げた。
そして、左足の湿布が貼ってあるところを優しく撫でる。
「…悪かった」
「ひねったのはスクのせいじゃない。私自身のせいだよ」
「オレがあの時、否定してやればよかった。すまねぇ…」
スクアーロはそっと、***の足首に口付けをおとす。
瞬時に***の顔は赤く染まった。
「ッッ!?バ、バカ!!」
「口のほうが良かったか?」
「もっと、よくない!!」
「背なんて気にしねぇから、もう怪我すんなよ?」
「………」
***はさっとスクアーロから目をそらした。
そして、店の方に向かって声を張り上げた。
「マスター!紅茶一杯と、コーヒー一杯!あと、チーズケーキ2つね!」
店の奥から返事が聞こえる。
***はスクアーロのほうを見て呟いた。
「早く…座ったら?」
「あァ。そうだな」
End.
*あとがき*
背がでかいスクと背が小さなヒロインが並んだら萌えるだろうな…という発想から生まれました