*想い想われ想えども

□十三話
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【十三話】


のんびりと道を歩く。


無事に謹慎処分を終えた私は、遅れた分の授業にもどうにか追い付けてきて、一安心したところだった。
そこで、久しぶりに出掛けることにした。


「〜♪〜♪」


行き先は私の一番大好きお店。
このあたりで一番美味しい豆腐屋さんだ。
ちょっと町からは離れた場所にあるから、知ってる人は少ない。
でも、とんでもなく美味しいのだ。
私はここで食べられる田楽豆腐が大好物だ。
しばらくぶりだから、楽しみで仕方ない。


「おじさん、お久しぶりです。田楽豆腐、10本下さい」


楽しみだったからか、頼みすぎた。
というか、今までの癖だ。
今まではいつも二人できて10本頼んでいたから。
一人だしちょっと多すぎたかなとも思ったが、久しぶりだしいいか。


私は店の前で田楽豆腐ができるのを待つ。
豆腐と味噌の焼ける匂いがしてくると待ちきれなくなっていた。
今か今かと思いながら貧乏揺すりをしていた。
そんな時。


「あ」

「あ…」


見慣れた顔が一つ。
揺すっていた足が中途半端な位置で止まってしまった。


「…やぁ」

「どうも…」


微妙な空気が漂った。
彼は視線を泳がせた。
それから名残惜しそうに豆腐屋さんを見てから踵を返そうとした。


「あの…!」


私はそんな彼の背中に声をかける。


「…変な気とか遣わなくていいから食べていきなよ」


もしくは私が帰ろうか、というと彼は首を横に振った。
ありがとう、と呟いた彼はおじさんに田楽豆腐を10本頼んでから私が座っているのとは反対側の席に腰を下ろした。


「………」

「………」


沈黙のまま時がすぎる。
そうしてしばらくすると、まず私の田楽豆腐がきた。
それから数分後に兵助のも。
私たちは無言のまま田楽豆腐を食べる。
3本目を食べ終えたところで彼が口火を切った。


「…この間はごめん。三郎が失礼なことして」

「…いや、もういいよ」

「申し訳ないって言ってた」

「こっちにも謝りに来てくれたよ」


この間の騒ぎには勘違いがあったのだ。

それは、私の友人に鉢屋三郎が変装したのには、兵助は関係なく彼の単独行動だったということ。
騒ぎの後、鉢屋くんが私の友人のところに謝りにきてくれたのだという。
後日、私にも謝りに来てくれた。

あんなことにまでなるとは思っていなかった、申し訳ない。
兵助に頼まれたとかいうわけでも、アンタを嘲笑したかったからでもない。
ただ、本心が知りたかったのだ、と。

土下座する勢いで謝ってくるものだから、彼を責める気にもなれなかった。
正直、彼のおかげで自分の本当の気持ちにも気がつけたわけだし。
だから、それは丸くおさまったのだ。


「…こっちこそ、ごめん。勘違いして騒ぎ起こして」

「いや…別にもういいよ」

「一緒にいた人たちにもごめんって伝えておいて。食事の時間を台無しにしちゃったから。
 特に、えっと…不破くん…だっけ?彼にも酷いこと言っちゃったから」


「わかった」と彼は短く答えた。


そう、もう一つ勘違いがあったのだ。

私が食堂で怒鳴り付けた相手は鉢屋くんではなく不破雷蔵という人だった。
なぜ間違えたかといえば彼の顔が鉢屋くんと同じだから。
いや、正確にいえば鉢屋くんの顔が彼と同じだから。
鉢屋くんは普段、不破くんに変装しているのだという。
ぱっと見だけでは見分けがつかない彼ら。
しかも私は鉢屋くんの特徴しか聞いていなかったから間違えて不破くんを怒鳴り付けていたのだ。
それも後から友人に聞いた。
不破くんには本当に申し訳ないことをした。


「見分けつかないだろ。雷蔵と三郎」

「うん。並んで歩いてるとこ見たけど、双子みたいだった」

「慣れると見分けつくけどな」

「兵助も見分けつくの?」

「あぁ。最初は無理だったけど、最近はわりとわかるよ。同じ顔でも癖とか性格も違うし」

「へぇ…」


豆腐を頬張っていた兵助が初めてこっちに顔をむけた。
肩を竦めて、彼は苦笑いしていた。


「久しぶりだな、こんなに話すの」

「…そう、だね」


胸が苦しくて、なんだか泣き出したくなった。
兵助の声が、仕草が、全てが愛しくて。
近いけど、遠くて。


十四話

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