Story

□レインステップ
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今日の天気予報は、大外れもいいとことだ。
朝見たお天気お姉さんは、にっこり微笑んで
「今日は一日、いいお天気です
洗濯物もすぐに乾いてしまうでしょう」と言っていたのに。



「全く、ツイていないなぁ」

せっかくの新品のワンピースが濡れてしまった。



オフィス街の中で、ひっそりと息を潜める
バーの軒先で雨を凌ぐ

バーテンダーは雨音を聞きながら
きらめく瓶にかこまれて
きっと、グラスを磨いている


空を見上げる
幸いにも、雲は薄くすぐにでも止みそうだ。


壁に背中を預け、視線を水溜まりに移す。
雨粒はぴちゃりと水面におちる
その音色は、とても心地好い。


その雨粒の落下音とは、異なった
水面を叩くような音が鼓膜を震わせた。


子供がいた。


音を辿れば、水玉のポンチョタイプの合羽着た男の子が、
こんなオフィス街にただ一人。


近くには、幼稚園も小学校もない
そして、母親の姿も見えない。


迷子なのでは、という疑問が頭に浮かんだが、
その子の、楽しそうに水溜まりを鳴らす姿に
声をかけるタイミングを逃す。

叩き付けられる小さな足。
ステップを踏んでるようにそれは動き、
小さな体が魅せる素敵なダンスに合わせて

雨が揺れて、跳ねては踊る。
その光景は、子供らしい無邪気さとは違い、何とも様になっていた。



やがて、男の子が私に気がついた。

「お姉さん、傘ないの?」

「えぇ、だから雨宿り中なの
君のダンス、格好良かったわ」

「本当?」

「本当よ」


男の子は少しはにかんだ



「ありがとう
お姉さんのワンピースかわいいね」

「ありがとう。

新品なのに雨に降られちゃったのよ
ツイてないと思わない?」

「ごめんね、僕のせいだ」

「…え?」



しゅんと肩を落としたと思えば
私に手を振って

ごめんねの意味を聞く間もなく
走りさってしまった。





「ぁ、雨止んだ」



雨の日に、またこのワンピースを着ていれば
君のダンス。
また見れるだろうか、




 

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