小ネタ話

□最期の愛
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「伝令!り、陸遜様率いる軍隊が敵の襲撃を受けた模様…!!」


本陣に転がり込んだ1人の兵士の言葉にざわめきが一瞬にして静まった
それもその筈、陸遜は策を成すために前線部隊として出陣していた。そんな彼が逆に奇襲に追い込まれる、それは呉の敗北が決定した事でもあったのだ。

「何ボサッとしてやがんだ!!さっさと助けに行くぜ!」

「あぁ…!言われなくてもわかってるっつの!!」

陸遜の指示を待っていた甘寧と凌統。動揺する兵士達の中で2人はいち早く本陣を抜け出し、陸遜の援護に向かう。

2つの馬の駆ける足音が響く中、それを上回る足音と共に前方に敵の軍勢が押し寄せた

「しつこいっつの!!」

「凌統!ここは俺が食い止める!!そんかわり…必ず陸遜助け出せ」

甘寧の言葉に凌統は強く頷き、方向を変えて先を急いだ。

「「逃がすな!!」」

逃げる凌統を追おうとする敵兵の前にチリンと小さく鈴の音が響く

「ここは通さねぇ…通りたきゃ、鈴の甘寧様を倒してから行きやがれ!!」


甘寧の奮起する声が凌統の背中を押すように馬の速さが増す。そして漸く前方に敵に囲まれた陸遜の姿を見つけ、そのまま馬で敵兵を蹴り倒した。

「軍師さん、無事か?!」

「…っ凌統殿…私が不甲斐ないばかりに、すみませ…っ…」

「っ陸遜…!!」

カランと陸遜の手から武器が滑り落ちると共に倒れかかる体を慌てて馬から降りて支える。そのまま崩れる陸遜の背を抱え、地面に座り込むと背中に感じた違和感に目を見開いた

「アンタ…まさか…っ!おい、早く医療班を呼べ!!」

怒鳴るように陸遜部隊の数少ない兵士に告げると、兵士達は慌てて本陣に向かう。陸遜の背中に触れた瞬間ぬるりとした温かい何かが付着した。それが大量の血であることは凌統にもすぐにわかった。

「凌‥統殿…」

小刻みに震える手が凌統に伸ばされ、それを強く握り返す。

「私…貴方に、伝えなければ…ならなかった事が…っ」

「…っこれが最後みたいな真似、やめろっつの…!!」

「私…貴方が、凌統殿の事が…っ好…」



陸遜が言い終わる前に、チッと小さく舌打ちしてその薄く開かれる唇を塞いだ。その唇は氷のように冷たくて、熱が溶かされるような感覚にすら陥る。
そっと唇を離すと、苦しさからか嬉しさからか、陸遜の瞳から一粒の涙が流れ、もう呼吸すら儘ならない彼を抱きしめる。

「‥っ陸遜…傍に…居てくれ、俺はアンタが居なきゃ…!!駄目なんだ…っ」

今にも泣き出しそうな凌統の頬に優しく触れ、見つめ合うと2人は惹きつけられるように再び唇を重ねた。
冷たい唇を熱で覆うように深く、深く…
抑えきれない想いを必死にぶつけ、このまま呼吸さえも奪われて貴方に殺されるなら…と陸遜は力無い腕を凌統の後頭部に回した。

最初で最後の口付け。
それは今までで何よりも熱くて、心地が良くて、深い愛を感じられるものだった。



「凌統、殿…今日も‥陽が眩しい、です…ね」

「…っアンタの…笑顔には負けるっ…つの…」

最期に交わした言葉、それは2人にとって大切な、2人だけの挨拶。
それに陸遜は微笑んで、同時にスルリと後頭部から腕が滑り落ちると共にトクン…ッと小さく最期の鼓動を打つ。凌統はまだ温もりの残る小さな体を抱き締めて静かに涙を流した。


出来るならば…もっと、貴方の傍に…居たかった…――。


まるで眠っているだけのような陸遜を抱えて凌統は歩き、それを待っていた甘寧が壁に預けていた背を離すと陸遜の死に悲しみと怒りを抑えながら、一番辛い凌統の肩に腕を回して何も言葉を交わさぬままゆっくりと、ただ歩いた。

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